伝説の聖職者☆見習い
シスターアルフィリーナ
――リファールアルグレオ村
舌を噛みそうな名前のこの村は、村という割に敷地は広範囲に及び、街と言っても過言ではないほどに広い村だ。
遠くには巨大な王城がそびえ立ち、ちょうど正午をお知らせする巨大な鐘が鳴り響く。市場は大変賑わい、人々は商売に活気を出し、道ゆく人々も自由を謳歌し、とにかく第一印象としては『賑やか』と言える。
そんな大きな村に、本日一人の修道女が就任することになった。
修道女というのは、別名『シスター』と呼ばれる回復職で、神や天使、いわゆる聖なる者に属する癒やしの力を利用させていただく職業。通称『神職』とも呼ばれ、役割は主に回復である。
癒やしの力などの、普通の人間には起こせない奇跡、いわゆる不思議な力は一般的に『魔法』という括りで統一されており、回復ができるものを『回復魔法』攻撃ができるものを『攻撃魔法』補助するものを『補助魔法』もしくは『支援魔法』と呼ぶ。
シスターはこの中の『回復魔法』を使えるように日々修行を行う。
当然誰でも使えるようになるわけではなく。長年をかけて己を戒め、厳しい修行に耐え抜いた者にのみ修道衣が与えられ、そして神や天使に認められた者こそが、奇跡の力『回復魔法』を授かる事ができるのだ。
その奇跡は即時に傷を回復したり、苦しい毒や麻痺を瞬時に浄化したり、命を落とした者を蘇生し復活させたりなど。
傷つき弱った者を優しく癒やす職業。
非常に優れたこの存在の事を皆、尊敬の念を持ってこう呼ぶ……
『聖職者』と。
そんな癒やしのスペシャリストが到着するのを、今か今かと待ちわびている村人達。
彼らは村の入り口に集まり、歓迎の旗やスローガンなどを掲げて賑やかしている。
「この村は戦力や物資という面では充実しているのだが、医療行為を行える者が一人もいないから非常に助かるぞい! みんなキチッと歓迎するんだぞ! ホッホッホ!」
聖職者は歓迎されていた。なぜなら修道院は現代で言うところの病院、聖職者は医師といったポジションと考えると分かりやすいだろう。村に病院ができるのだ、誰しも歓迎するのは当たり前の事なのかもしれない。
村の歓迎ムードは聖職者が来る時間に近づくにつれてヒートアップをし、中央広場では昼間だというのに花火が打ち上がる。そして建物のあちらこちらにはシスター様歓迎! と書かれた装飾がなされていたのだった。
そんな盛り上がりを見せる中、ガコンガコンと地面に滑車を音立てて疾走する馬車は、間もなく歓迎一色のその村に到着しようとしていた。
「わぁ、すごい! 小さな村だと思ったら、遠くにお城まである立派な街なんですね! すごいなぁ」
村の入り口に馬車が止まると女の子は中からスッと顔を出した、村人達はそれを見逃さない。
「おー! 来なさった! あの方がこの村に滞在されるシスターアルフィリーナ様じゃ! ありがたや!」
ちなみに、都市以外の村へ聖職者が赴任するのは非常に珍しい事であった。
通常、聖職者は大都市の修道院に所属し、大都市だからこそ起こり得る敵勢力との対戦で、傷ついた大量の兵士や志し半ばで敗れた兵士に貢献するのが習わしなのだ。
そんな手の届かない尊い存在が、こんな村に来てくれるだけで村民のボルテージが上がってしまうのは、まぁ無理もなかった。
しかも、なんと美しい……
女神とも思える美しさを見せるそのシスターは、目の合った村民達にまるで天使を思わせるような微笑みで会釈し、そのまま荷物を持って馬車からゆっくりと降りてきた。
「ほぅ……なんと美しい方だ、漂う気品、身のこなし、そして完璧なまでに純真無垢だ」
村民一同、ため息しか出なかった。
まるで絹のように細く白い髪の毛は、帽子をかぶっていないため邪魔をされることなく風にさらさらとなびき、きめ細やかな肌は化粧を必要としないほど美しかった。
顔は天使のように整い外見はあまりにも清楚で恐れ多い。
ストレートロングの髪は清純の象徴のようで、ただ寄ってくる香りはフローラルミントを思わせるようなとにかく良い香りがあたり一面にただよう。
凛としたたたずまいで『そこに存在するだけで絵になる』ような、完璧なまでに美しく可愛らしいシスター様。
…………
ただ一つ、だぶだぶな聖堂衣だけはさすがに気になった。
幼女を思わせる位ちっこい背丈と、体系にサイズが合っていないのか非常に歩きにくそう……
袖から何からとにかくだぶだぶで、裾も地面に触れるか触れないかの微妙なラインでなんとか維持されているのだが……
あ、やっぱりコケた……
「うおおおおおおおおおおおおおおー!」
村中に歓声が上がる。
コケた姿も可愛いく美しい!
痛くて泣きそうな顔をしながら、シスター様はカチャカチャと眼鏡を取り出し、それを少しずれ気味にかける。
これもまたサイズが微妙にあっていないのか、結構な頻度でずり落ちるのが目に見て取れる。
その姿のあまりの可愛らしさに、もはや失神する者がちらほら現れたのだった。
「あっ、あのっ! シスターアルフィリーナと申しますっ! 皆様!よろしくお願いいたしましゅ!」
あ、噛んだ……
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
またもや村中に歓声が上がった。
今の行動はその可愛らしさにとどめを刺したのかもしれない。噛んだ後に顔を赤らめ、恥ずかしそうに慌《あわ》てふためくシスターは、己のしでかしたとてつもない行動を、なんと天然でやらかしたのだった。
中には涙を流して号泣する者までいたが、アルフィリーナはあたふたしながら皆をなだめ荷物を持って修道院を目指した。
「んしょんしょ……あたっ!」
何度もこけそうになりながら……
――リファールアルグレオ村修道院
「と、いうわけで、こちらの村に配属されることになりましたシスターアルフィリーナと申しますっ! 見習いの身ですがよろしくお願い致します!」
祭壇にある女神の像に就任の挨拶をするアルフィリーナ。
歓迎の宴宴から解放され、今は誰もいない小さな建物の中に挨拶だけがこだましていた。
「この村は良い人たちばかりです。でも、もし私が何も回復魔法が使えないという事を知ったら、やはりまた追い出されてしまうのでしょうか……」
回復魔法を使える修道女が村に来たという事で盛り上がってはいたのだが、実の所アルフィリーナは回復魔法を一切使えない。
しかも、卒業の単位が足りないため『使えない子』というレッテルすら貼られ、ひっそりとこの村に飛ばされたという誰にも言えない恥ずかしい経緯があるのだ。
卒業するにはシスターとしての貢献がポイントとなり、卒業に足るポイントを取得しなくてはならない。
貢献というのは回復したり解毒したりと回復魔法を使えればそんなに難しい事ではないのだが、使えない彼女は何をしても貢献した事にならず、いまだにポイントは0ポイント。
そんな理由がありアルフィリーナは3年間留年をしている。
頑張り屋さんなので座学は飛び級で周りより3年も早く進めたが、ポイントがないので卒業できない。
ただただ同級生達が今年卒業して旅だってしまうのが悲しかった。
バタン!
涙目のアルフィリーナをよそに唐突にドアが開く。
「シスターさん! うちの旦那が屋根から落ちたんだ……足を怪我しちゃって意識もないんだよ、助けておくれよ!」
色々思い出して『どよーん』としていたアルフィリーナだったが、活発そうな奥さんが旦那さんを担いで入ってきたのを見て気持ちを切り替える。
「はっ、はいっ! ではそこの祭壇に横たわらせましょう!」
二人で旦那さんを祭壇に横たわらせると早速アルフィリーナは神に祈る……
――シスターアルフィリーナの名において祈りを捧げます、願わくば傷つきさまよえるこの者に神の癒やしを与えたまえ、汝、神の御加護があらん事を……
…………
やはり回復魔法は発動しない……
「あの……シスター様?」
しばらくの間なんとも言えない沈黙が続いた。
「あ、あはははは~」
シスターは笑ってごまかした!
しかし! すかさず薬草を2種類取り出すと、超高速調合を行うシスター!
なんと一瞬で上級回復薬を作り出したのだった。
「これを塗って、2、3日経てば回復すると思います!」
ぜぇぜぇ言いながらグッと親指を立てるアルフィリーナ。
魔法が使えない分回復は調合任せだ。
しかしながら、超高速調合はすり鉢をこねくり回す手間の分恐ろしく疲れる。そして卒業ポイントは全く入らない。
「シスター様が薬を調合するなんて、珍しいねぇ……」
奥さんは半信半疑だったが、塗った箇所には光が宿り予想以上に回復していく。
ちなみにアルフィリーナが調合する薬は即効性があるものではなく、徐々に回復していくタイプのものだ。
目を覚ました道具屋の主人は奥さんと抱き合って喜ぶが、しばらくの間塗ってもらった薬をマジマジと見つめていた。
「へー、これはずいぶんと上質な回復薬だね私も道具屋をやっているからよく分かるこれはすごい。多分薬学によっぽど精通していないとこの調合はできないだろう、助けてくれて本当にありがとうな!」
手を振りながら笑顔で帰る夫婦。
でも、旦那さんは足を引きずっていた。
「回復魔法が使えれば歩いて帰れる様にしてあげられたのに……ごめんなさい……」
自分の無力さに涙がぽろぽろと落ちてくる。
「でも、私頑張らないと!」
アルフィリーナがグッとガッツポーズを決めたタイミングで、大きな音と共に扉が開いた。
バタン!
「シスター様大変です! 村の入り口にモンスターが現れました。兵士達が応戦していますが思いの外苦戦していて……療養できる場所が他にないんです! 看護をお願いします!」
「あわわわわわ!」
慌てるアルフィリーナをよそに次々と怪我人が運ばれてくる。
「た、助けてくれ……あ、あれは、化け物だ!」
「く、苦しい……毒が、毒がぁぁあああ!」
「返事がない、ただのしかばねのようだ」
アルフィリーナは超高速調合で、解毒、蘇生、回復、あらゆる手を尽くす。
薬学の力で蘇生までこなすシスターの実力は凄まじかった。
「シスター様! 私も手伝います!」
気づくと村人達が、たくさん現れて手伝ってくれていた。
「シスター様! 薬草を持って来ました!
これで調合をお願いします!」
なんでこのねーちゃんは回復魔法を使わないんだ? という雰囲気は多少あったが、調合された薬の効き目がすごいので、皆とにかく薬を使い兵士達を回復していく。
しかしながら、即効性は魔法に劣り完全に回復できるまで2、3日を要する。
魔法なら瞬時に回復できるのに……
「シスター様まずいです! 兵士の数が足りません! 残るはオークキングだけなのですがこのままでは回復が追いつきません! 回復魔法をお願いします!」
「あううううう……」
シスターアルフィリーナは就任早々最大のピンチを迎えていた。
回復魔法は使えない、薬の効果は遅効性、早くしないと村が滅ぶかもしれない。
「シスター様! 回復魔法を!」
シスターアルフィリーナは頭を抱えた、だって私回復魔法できないんだもん、と。
「…………行きます」
「……へ?」
アルフィリーナは何かを決心したかのように立ち上がると、皆に看護を任せて修道院を出る。
「シスター様、前線は危険です! そんな事より回復魔法を!」
私は何も聞こえなーい、回復魔法? 何ソレオイシイノ? あはは、アハハ!
「た、助けてくれぇええ!」
アルフィリーナは村の入り口まで来るとあまりにも多くの負傷兵が倒れている事に気づく。
「シスター様ぁぁあああ」
でも、自分に向けられる多くの救いの声にアルフィリーナは答える事ができない。
羨望の目で見られるのがつらい……
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
なんで私はこんな時になんの役にも立てないんだろう……いつもこうだ……
手持ちの回復薬を使っても、回復が遅いから次々とやられていく……
「シスター様、回復魔法を……がくり」
どんなに薬で手を尽くしても、目の前で倒れていく……つらい
もういっそ全て話して楽になろう……
私は回復魔法が使えないどうしようもないシスターなのだと、皆の期待に応える事のできないダメダメな人なんだと。
「……ごめん……なさい……」
アルフィリーナは皆の前で泣き崩れた。
「ごめんなさい! 私っ! 私! 回復魔法は使えないんですっ! ごめんなさい!」
無数の倒れた兵士達は目の前で驚愕の事実を告げられた、神職なのに回復魔法が使えないシスター。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいいいぃい!」
泣きじゃくり無防備なシスターに、オークキングは手に持った巨大な棍棒を振り下ろす!
それに反応した兵士がとっさにアルフィリーナをかばった。
「わかった! 分かりましたから! 逃げてシスター! ぐはっ!」
最後の一人も倒され、兵士は全滅した。
「に、逃げて、シスター様……」
それを見たアルフィリーナは覚悟を決め、シスターらしく神に祈りを捧げた。
右手で十字を切り神に祈る。
シスターアルフィリーナはこうべを垂れ、目を瞑り、周りから見れば自殺行為にしか見えない体勢を取っていた。
「……神のご加護があらんことを……」
「シスターぁぁあああ!」
シスターに迫りくるオークキングの巨大な棍棒、叩きつけられたら恐らくかけらも残らず潰されてしまうだろう。
周りの兵士達は動けない体を顧みずシスターを守ろうと体を引きずる。
誰もかばう事ができないまま、皆、祈りの体制を取るシスターに叫び続けた。
「シスター様ぁぁあああ!」
…………
かつて中央修道院では一つの伝説があった。
魔王討ち滅ぼし勇者の血を引く一人の女の子が、戦乱の最中姿を消したという。
魔王との戦いで勇者の血を引く記憶と能力を失ってしまった女の子は、身を寄せる場所もなくやがて中央修道院に従事する事になる。
勇者は回復魔法や攻撃魔法そしてありとあらゆる武器を使いこなし、逆境であればあるほど英雄としての力をみなぎらせ、不条理に打ち勝つ能力を持つ存在。
しかし、なぜか回復魔法を使うことができないそのシスターは『回復魔法どころか武器も装備ができない出来損ない』として評価を受ける。
『アルフィリーナ、あなたはもうこの修道院にいてはならない存在です……』
シスターたりえない彼女はこの世に存在してはいけないのだろうか……
彼女はそんなマイナスな思考を持たなかった。
為せば成る……と。
『アルフィリーナ、あなたは……』
いくら出来損ないだろうが人一倍頑張り屋さんな彼女は、世間にあらがい今までさまざまな不条理にあらがって生きて来たのだ。
必要のない存在なんて他人を害する者以外この世にあってはならない、そして、努力は報われなくてはならない。
『あなたは、かつて一度魔王を討ち滅ぼした事のある伝説の勇者なのですから……』
かっ! と目を見開いたシスター、いや勇者アルフィリーナは決して負けない! なぜなら人一倍努力しここまできたのだ!
勇者の血を引くシスターアルフィリーナ。
回復魔法は使えないが、戦闘能力は凄まじいのだ!
ズドン!
『あなたは……この修道院に収まるだけのちっぽけな存在ではないのです。アルフィリーナフォンクラウンに、神の導きをそして汝に神の御加護があらん事を……』
その瞬間、アルフィリーナはオークキングの腹に右ストレートを叩き込んでいた。
「な、なんだあのシスター様は……無手でオークキングに致命傷を与えたぞ! しかもなんか美しいぞ!」
「なんて可愛らしい……」
オークキングの腹に拳をめり込ませたアルフィリーナは泣きながら叫んだ。
ありったけの思いを込めて……
「あなたのせいで、私! また追い出されちゃうじゃないですかぁ! 馬鹿ああああ!」
……思いってそれ?
シスターが放った拳は突風と共に青白い光を放ち、オークキングを塵と化す勢いで遙か遠くへふっとばした!
「ば、ばかな! 我の、我の体が空気抵抗で削れていくううううっ!」
あまりにも高速でふっとばされたオークキングは、空気抵抗によってみるみると削られていき、摩擦で生じた火炎によってチリひとつ残さず、地面に落ちる事なく空中で消滅していった。
それを目の当たりにした兵士一同は呟く。
「……す、すげぇ……」
ボスモンスターが消滅した事で残党は消え去り、やがて敵軍は全滅したのだが。
「うわああああん!」
シスターはその場で泣き伏していた。
「シ、シスター様……」
「ごめんなさいいい、私、私、回復魔法が使えないんですうううう!」
「お、おう、それは……大変だな」
泣きじゃくるシスターを見ながら、なんか回復魔法とかどうでも良いんじゃね?と、みんなは思った。
次の日、シスターアルフィリーナは荷作りりを行い村を出る決意をした。
「回復魔法も使えない、村中で挑んで勝てないボスを一撃で殲滅するような不気味なシスターなんて……やっぱりいない方が良いんだ……」
シスターアルフィリーナは朝早く荷馬車に荷物を詰め込み、脱力しながら準備を進める。
「さようなら、一日だけでしたけど、すごく楽しい生活でした……戻っても寮長さんに怒られるんだろうなぁ……うう」
「シスターアルフィリーナ様! どこに行かれるのですか!」
「へ?」
「ねーちゃん! 行かないで!」
「シスター様、回復魔法なんて使わなくても良いんです! この村に留まってください!」
「オークキングを一撃で殲滅するなんて、やるじゃねーか!」
早朝にも関わらずたくさんの人が来てくれた。
「でも、私、シスターらしいことなんて何も出来なくて!」
「何言ってるんですかい! もらった薬、すげ~効いたぜ?」
兵士達は照れ臭そうにアルフィリーナに笑みを浮かべる。
「で、でも……」
「なぁお嬢ちゃん? この村に残ってくれねーかな?」
見渡すと村中の人たちが笑顔で迎えてくれていた。
「こんな変なシスターがいたら皆さんにご迷惑がかかると思うんです。第一、就任してからすぐに村の襲撃がありましたし」
そうなのだ、恐らくシスターアルフィリーナの勇者としての素質や能力に惹かれモンスターの襲撃があったのかもしれない。
「そんなの関係ないだろ……寂しい事言うなよお嬢ちゃん。俺の足、ひきずらなくても歩けるようになったんだぜ? お嬢ちゃんがいなかったら仕事にならない所だったんだ。それに見ろよお嬢ちゃんに救われたみんなの姿を……」
道具屋の主人はアルフィリーナの頭をぽんと叩いて親指をぐっと立てる、最高の笑顔で感謝していた。
兵士達はうんうんと道具屋の主人に賛同し、爽やかな笑顔で親指をグッと立てる。
村の入り口は廃墟と化していたが、アルフィリーナはこの人たちを守り抜いた。みんなそれをアルフィリーナに伝えたいという気持ちで一杯だった。
アルフィリーナは笑顔に包まれる。周りの人達が誰を見渡しても同様の笑顔なのに嬉しくなり、ガシガシと涙を拭くと自分も満面の笑顔で返事をした。
「はいっ! 回復魔法も使えないシスターですけど、一生懸命頑張りますっ! 皆さんよろしくお願いしまひゅ!」
あ、やっぱり噛んだ。
みるみる顔が赤くなっていくアルフィリーナに対し、村中が笑いに満ちていた。
こうして、回復魔法が使えないシスターアルフィリーナは、改めて村の一員として迎えられる事になる。
「こうなったらみんな! 胴上げだ胴上げ! シスターアルフィリーナ様バンザイ!」
「バンザーイ! バンザーイ!」
胴上げされながらも、小さなシスターアルフィリーナは、大きな決意をする、この村で皆を支えて生きる、そんな決意を。
「アルフィリーナ頑張ります!」
かくして、回復魔法の使えないシスターは村の一員として歓迎される事となった
。
『……あなたはこの世の理不尽や不条理に打ち勝ち、叩き壊せる唯一の希望……頑張ってくださいね……』
アルフィリーナは今回の件で、10ポイントもの卒業ポイントを手に入れていた事を知る由もなかった。
舌を噛みそうな名前のこの村は、村という割に敷地は広範囲に及び、街と言っても過言ではないほどに広い村だ。
遠くには巨大な王城がそびえ立ち、ちょうど正午をお知らせする巨大な鐘が鳴り響く。市場は大変賑わい、人々は商売に活気を出し、道ゆく人々も自由を謳歌し、とにかく第一印象としては『賑やか』と言える。
そんな大きな村に、本日一人の修道女が就任することになった。
修道女というのは、別名『シスター』と呼ばれる回復職で、神や天使、いわゆる聖なる者に属する癒やしの力を利用させていただく職業。通称『神職』とも呼ばれ、役割は主に回復である。
癒やしの力などの、普通の人間には起こせない奇跡、いわゆる不思議な力は一般的に『魔法』という括りで統一されており、回復ができるものを『回復魔法』攻撃ができるものを『攻撃魔法』補助するものを『補助魔法』もしくは『支援魔法』と呼ぶ。
シスターはこの中の『回復魔法』を使えるように日々修行を行う。
当然誰でも使えるようになるわけではなく。長年をかけて己を戒め、厳しい修行に耐え抜いた者にのみ修道衣が与えられ、そして神や天使に認められた者こそが、奇跡の力『回復魔法』を授かる事ができるのだ。
その奇跡は即時に傷を回復したり、苦しい毒や麻痺を瞬時に浄化したり、命を落とした者を蘇生し復活させたりなど。
傷つき弱った者を優しく癒やす職業。
非常に優れたこの存在の事を皆、尊敬の念を持ってこう呼ぶ……
『聖職者』と。
そんな癒やしのスペシャリストが到着するのを、今か今かと待ちわびている村人達。
彼らは村の入り口に集まり、歓迎の旗やスローガンなどを掲げて賑やかしている。
「この村は戦力や物資という面では充実しているのだが、医療行為を行える者が一人もいないから非常に助かるぞい! みんなキチッと歓迎するんだぞ! ホッホッホ!」
聖職者は歓迎されていた。なぜなら修道院は現代で言うところの病院、聖職者は医師といったポジションと考えると分かりやすいだろう。村に病院ができるのだ、誰しも歓迎するのは当たり前の事なのかもしれない。
村の歓迎ムードは聖職者が来る時間に近づくにつれてヒートアップをし、中央広場では昼間だというのに花火が打ち上がる。そして建物のあちらこちらにはシスター様歓迎! と書かれた装飾がなされていたのだった。
そんな盛り上がりを見せる中、ガコンガコンと地面に滑車を音立てて疾走する馬車は、間もなく歓迎一色のその村に到着しようとしていた。
「わぁ、すごい! 小さな村だと思ったら、遠くにお城まである立派な街なんですね! すごいなぁ」
村の入り口に馬車が止まると女の子は中からスッと顔を出した、村人達はそれを見逃さない。
「おー! 来なさった! あの方がこの村に滞在されるシスターアルフィリーナ様じゃ! ありがたや!」
ちなみに、都市以外の村へ聖職者が赴任するのは非常に珍しい事であった。
通常、聖職者は大都市の修道院に所属し、大都市だからこそ起こり得る敵勢力との対戦で、傷ついた大量の兵士や志し半ばで敗れた兵士に貢献するのが習わしなのだ。
そんな手の届かない尊い存在が、こんな村に来てくれるだけで村民のボルテージが上がってしまうのは、まぁ無理もなかった。
しかも、なんと美しい……
女神とも思える美しさを見せるそのシスターは、目の合った村民達にまるで天使を思わせるような微笑みで会釈し、そのまま荷物を持って馬車からゆっくりと降りてきた。
「ほぅ……なんと美しい方だ、漂う気品、身のこなし、そして完璧なまでに純真無垢だ」
村民一同、ため息しか出なかった。
まるで絹のように細く白い髪の毛は、帽子をかぶっていないため邪魔をされることなく風にさらさらとなびき、きめ細やかな肌は化粧を必要としないほど美しかった。
顔は天使のように整い外見はあまりにも清楚で恐れ多い。
ストレートロングの髪は清純の象徴のようで、ただ寄ってくる香りはフローラルミントを思わせるようなとにかく良い香りがあたり一面にただよう。
凛としたたたずまいで『そこに存在するだけで絵になる』ような、完璧なまでに美しく可愛らしいシスター様。
…………
ただ一つ、だぶだぶな聖堂衣だけはさすがに気になった。
幼女を思わせる位ちっこい背丈と、体系にサイズが合っていないのか非常に歩きにくそう……
袖から何からとにかくだぶだぶで、裾も地面に触れるか触れないかの微妙なラインでなんとか維持されているのだが……
あ、やっぱりコケた……
「うおおおおおおおおおおおおおおー!」
村中に歓声が上がる。
コケた姿も可愛いく美しい!
痛くて泣きそうな顔をしながら、シスター様はカチャカチャと眼鏡を取り出し、それを少しずれ気味にかける。
これもまたサイズが微妙にあっていないのか、結構な頻度でずり落ちるのが目に見て取れる。
その姿のあまりの可愛らしさに、もはや失神する者がちらほら現れたのだった。
「あっ、あのっ! シスターアルフィリーナと申しますっ! 皆様!よろしくお願いいたしましゅ!」
あ、噛んだ……
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
またもや村中に歓声が上がった。
今の行動はその可愛らしさにとどめを刺したのかもしれない。噛んだ後に顔を赤らめ、恥ずかしそうに慌《あわ》てふためくシスターは、己のしでかしたとてつもない行動を、なんと天然でやらかしたのだった。
中には涙を流して号泣する者までいたが、アルフィリーナはあたふたしながら皆をなだめ荷物を持って修道院を目指した。
「んしょんしょ……あたっ!」
何度もこけそうになりながら……
――リファールアルグレオ村修道院
「と、いうわけで、こちらの村に配属されることになりましたシスターアルフィリーナと申しますっ! 見習いの身ですがよろしくお願い致します!」
祭壇にある女神の像に就任の挨拶をするアルフィリーナ。
歓迎の宴宴から解放され、今は誰もいない小さな建物の中に挨拶だけがこだましていた。
「この村は良い人たちばかりです。でも、もし私が何も回復魔法が使えないという事を知ったら、やはりまた追い出されてしまうのでしょうか……」
回復魔法を使える修道女が村に来たという事で盛り上がってはいたのだが、実の所アルフィリーナは回復魔法を一切使えない。
しかも、卒業の単位が足りないため『使えない子』というレッテルすら貼られ、ひっそりとこの村に飛ばされたという誰にも言えない恥ずかしい経緯があるのだ。
卒業するにはシスターとしての貢献がポイントとなり、卒業に足るポイントを取得しなくてはならない。
貢献というのは回復したり解毒したりと回復魔法を使えればそんなに難しい事ではないのだが、使えない彼女は何をしても貢献した事にならず、いまだにポイントは0ポイント。
そんな理由がありアルフィリーナは3年間留年をしている。
頑張り屋さんなので座学は飛び級で周りより3年も早く進めたが、ポイントがないので卒業できない。
ただただ同級生達が今年卒業して旅だってしまうのが悲しかった。
バタン!
涙目のアルフィリーナをよそに唐突にドアが開く。
「シスターさん! うちの旦那が屋根から落ちたんだ……足を怪我しちゃって意識もないんだよ、助けておくれよ!」
色々思い出して『どよーん』としていたアルフィリーナだったが、活発そうな奥さんが旦那さんを担いで入ってきたのを見て気持ちを切り替える。
「はっ、はいっ! ではそこの祭壇に横たわらせましょう!」
二人で旦那さんを祭壇に横たわらせると早速アルフィリーナは神に祈る……
――シスターアルフィリーナの名において祈りを捧げます、願わくば傷つきさまよえるこの者に神の癒やしを与えたまえ、汝、神の御加護があらん事を……
…………
やはり回復魔法は発動しない……
「あの……シスター様?」
しばらくの間なんとも言えない沈黙が続いた。
「あ、あはははは~」
シスターは笑ってごまかした!
しかし! すかさず薬草を2種類取り出すと、超高速調合を行うシスター!
なんと一瞬で上級回復薬を作り出したのだった。
「これを塗って、2、3日経てば回復すると思います!」
ぜぇぜぇ言いながらグッと親指を立てるアルフィリーナ。
魔法が使えない分回復は調合任せだ。
しかしながら、超高速調合はすり鉢をこねくり回す手間の分恐ろしく疲れる。そして卒業ポイントは全く入らない。
「シスター様が薬を調合するなんて、珍しいねぇ……」
奥さんは半信半疑だったが、塗った箇所には光が宿り予想以上に回復していく。
ちなみにアルフィリーナが調合する薬は即効性があるものではなく、徐々に回復していくタイプのものだ。
目を覚ました道具屋の主人は奥さんと抱き合って喜ぶが、しばらくの間塗ってもらった薬をマジマジと見つめていた。
「へー、これはずいぶんと上質な回復薬だね私も道具屋をやっているからよく分かるこれはすごい。多分薬学によっぽど精通していないとこの調合はできないだろう、助けてくれて本当にありがとうな!」
手を振りながら笑顔で帰る夫婦。
でも、旦那さんは足を引きずっていた。
「回復魔法が使えれば歩いて帰れる様にしてあげられたのに……ごめんなさい……」
自分の無力さに涙がぽろぽろと落ちてくる。
「でも、私頑張らないと!」
アルフィリーナがグッとガッツポーズを決めたタイミングで、大きな音と共に扉が開いた。
バタン!
「シスター様大変です! 村の入り口にモンスターが現れました。兵士達が応戦していますが思いの外苦戦していて……療養できる場所が他にないんです! 看護をお願いします!」
「あわわわわわ!」
慌てるアルフィリーナをよそに次々と怪我人が運ばれてくる。
「た、助けてくれ……あ、あれは、化け物だ!」
「く、苦しい……毒が、毒がぁぁあああ!」
「返事がない、ただのしかばねのようだ」
アルフィリーナは超高速調合で、解毒、蘇生、回復、あらゆる手を尽くす。
薬学の力で蘇生までこなすシスターの実力は凄まじかった。
「シスター様! 私も手伝います!」
気づくと村人達が、たくさん現れて手伝ってくれていた。
「シスター様! 薬草を持って来ました!
これで調合をお願いします!」
なんでこのねーちゃんは回復魔法を使わないんだ? という雰囲気は多少あったが、調合された薬の効き目がすごいので、皆とにかく薬を使い兵士達を回復していく。
しかしながら、即効性は魔法に劣り完全に回復できるまで2、3日を要する。
魔法なら瞬時に回復できるのに……
「シスター様まずいです! 兵士の数が足りません! 残るはオークキングだけなのですがこのままでは回復が追いつきません! 回復魔法をお願いします!」
「あううううう……」
シスターアルフィリーナは就任早々最大のピンチを迎えていた。
回復魔法は使えない、薬の効果は遅効性、早くしないと村が滅ぶかもしれない。
「シスター様! 回復魔法を!」
シスターアルフィリーナは頭を抱えた、だって私回復魔法できないんだもん、と。
「…………行きます」
「……へ?」
アルフィリーナは何かを決心したかのように立ち上がると、皆に看護を任せて修道院を出る。
「シスター様、前線は危険です! そんな事より回復魔法を!」
私は何も聞こえなーい、回復魔法? 何ソレオイシイノ? あはは、アハハ!
「た、助けてくれぇええ!」
アルフィリーナは村の入り口まで来るとあまりにも多くの負傷兵が倒れている事に気づく。
「シスター様ぁぁあああ」
でも、自分に向けられる多くの救いの声にアルフィリーナは答える事ができない。
羨望の目で見られるのがつらい……
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
なんで私はこんな時になんの役にも立てないんだろう……いつもこうだ……
手持ちの回復薬を使っても、回復が遅いから次々とやられていく……
「シスター様、回復魔法を……がくり」
どんなに薬で手を尽くしても、目の前で倒れていく……つらい
もういっそ全て話して楽になろう……
私は回復魔法が使えないどうしようもないシスターなのだと、皆の期待に応える事のできないダメダメな人なんだと。
「……ごめん……なさい……」
アルフィリーナは皆の前で泣き崩れた。
「ごめんなさい! 私っ! 私! 回復魔法は使えないんですっ! ごめんなさい!」
無数の倒れた兵士達は目の前で驚愕の事実を告げられた、神職なのに回復魔法が使えないシスター。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいいいぃい!」
泣きじゃくり無防備なシスターに、オークキングは手に持った巨大な棍棒を振り下ろす!
それに反応した兵士がとっさにアルフィリーナをかばった。
「わかった! 分かりましたから! 逃げてシスター! ぐはっ!」
最後の一人も倒され、兵士は全滅した。
「に、逃げて、シスター様……」
それを見たアルフィリーナは覚悟を決め、シスターらしく神に祈りを捧げた。
右手で十字を切り神に祈る。
シスターアルフィリーナはこうべを垂れ、目を瞑り、周りから見れば自殺行為にしか見えない体勢を取っていた。
「……神のご加護があらんことを……」
「シスターぁぁあああ!」
シスターに迫りくるオークキングの巨大な棍棒、叩きつけられたら恐らくかけらも残らず潰されてしまうだろう。
周りの兵士達は動けない体を顧みずシスターを守ろうと体を引きずる。
誰もかばう事ができないまま、皆、祈りの体制を取るシスターに叫び続けた。
「シスター様ぁぁあああ!」
…………
かつて中央修道院では一つの伝説があった。
魔王討ち滅ぼし勇者の血を引く一人の女の子が、戦乱の最中姿を消したという。
魔王との戦いで勇者の血を引く記憶と能力を失ってしまった女の子は、身を寄せる場所もなくやがて中央修道院に従事する事になる。
勇者は回復魔法や攻撃魔法そしてありとあらゆる武器を使いこなし、逆境であればあるほど英雄としての力をみなぎらせ、不条理に打ち勝つ能力を持つ存在。
しかし、なぜか回復魔法を使うことができないそのシスターは『回復魔法どころか武器も装備ができない出来損ない』として評価を受ける。
『アルフィリーナ、あなたはもうこの修道院にいてはならない存在です……』
シスターたりえない彼女はこの世に存在してはいけないのだろうか……
彼女はそんなマイナスな思考を持たなかった。
為せば成る……と。
『アルフィリーナ、あなたは……』
いくら出来損ないだろうが人一倍頑張り屋さんな彼女は、世間にあらがい今までさまざまな不条理にあらがって生きて来たのだ。
必要のない存在なんて他人を害する者以外この世にあってはならない、そして、努力は報われなくてはならない。
『あなたは、かつて一度魔王を討ち滅ぼした事のある伝説の勇者なのですから……』
かっ! と目を見開いたシスター、いや勇者アルフィリーナは決して負けない! なぜなら人一倍努力しここまできたのだ!
勇者の血を引くシスターアルフィリーナ。
回復魔法は使えないが、戦闘能力は凄まじいのだ!
ズドン!
『あなたは……この修道院に収まるだけのちっぽけな存在ではないのです。アルフィリーナフォンクラウンに、神の導きをそして汝に神の御加護があらん事を……』
その瞬間、アルフィリーナはオークキングの腹に右ストレートを叩き込んでいた。
「な、なんだあのシスター様は……無手でオークキングに致命傷を与えたぞ! しかもなんか美しいぞ!」
「なんて可愛らしい……」
オークキングの腹に拳をめり込ませたアルフィリーナは泣きながら叫んだ。
ありったけの思いを込めて……
「あなたのせいで、私! また追い出されちゃうじゃないですかぁ! 馬鹿ああああ!」
……思いってそれ?
シスターが放った拳は突風と共に青白い光を放ち、オークキングを塵と化す勢いで遙か遠くへふっとばした!
「ば、ばかな! 我の、我の体が空気抵抗で削れていくううううっ!」
あまりにも高速でふっとばされたオークキングは、空気抵抗によってみるみると削られていき、摩擦で生じた火炎によってチリひとつ残さず、地面に落ちる事なく空中で消滅していった。
それを目の当たりにした兵士一同は呟く。
「……す、すげぇ……」
ボスモンスターが消滅した事で残党は消え去り、やがて敵軍は全滅したのだが。
「うわああああん!」
シスターはその場で泣き伏していた。
「シ、シスター様……」
「ごめんなさいいい、私、私、回復魔法が使えないんですうううう!」
「お、おう、それは……大変だな」
泣きじゃくるシスターを見ながら、なんか回復魔法とかどうでも良いんじゃね?と、みんなは思った。
次の日、シスターアルフィリーナは荷作りりを行い村を出る決意をした。
「回復魔法も使えない、村中で挑んで勝てないボスを一撃で殲滅するような不気味なシスターなんて……やっぱりいない方が良いんだ……」
シスターアルフィリーナは朝早く荷馬車に荷物を詰め込み、脱力しながら準備を進める。
「さようなら、一日だけでしたけど、すごく楽しい生活でした……戻っても寮長さんに怒られるんだろうなぁ……うう」
「シスターアルフィリーナ様! どこに行かれるのですか!」
「へ?」
「ねーちゃん! 行かないで!」
「シスター様、回復魔法なんて使わなくても良いんです! この村に留まってください!」
「オークキングを一撃で殲滅するなんて、やるじゃねーか!」
早朝にも関わらずたくさんの人が来てくれた。
「でも、私、シスターらしいことなんて何も出来なくて!」
「何言ってるんですかい! もらった薬、すげ~効いたぜ?」
兵士達は照れ臭そうにアルフィリーナに笑みを浮かべる。
「で、でも……」
「なぁお嬢ちゃん? この村に残ってくれねーかな?」
見渡すと村中の人たちが笑顔で迎えてくれていた。
「こんな変なシスターがいたら皆さんにご迷惑がかかると思うんです。第一、就任してからすぐに村の襲撃がありましたし」
そうなのだ、恐らくシスターアルフィリーナの勇者としての素質や能力に惹かれモンスターの襲撃があったのかもしれない。
「そんなの関係ないだろ……寂しい事言うなよお嬢ちゃん。俺の足、ひきずらなくても歩けるようになったんだぜ? お嬢ちゃんがいなかったら仕事にならない所だったんだ。それに見ろよお嬢ちゃんに救われたみんなの姿を……」
道具屋の主人はアルフィリーナの頭をぽんと叩いて親指をぐっと立てる、最高の笑顔で感謝していた。
兵士達はうんうんと道具屋の主人に賛同し、爽やかな笑顔で親指をグッと立てる。
村の入り口は廃墟と化していたが、アルフィリーナはこの人たちを守り抜いた。みんなそれをアルフィリーナに伝えたいという気持ちで一杯だった。
アルフィリーナは笑顔に包まれる。周りの人達が誰を見渡しても同様の笑顔なのに嬉しくなり、ガシガシと涙を拭くと自分も満面の笑顔で返事をした。
「はいっ! 回復魔法も使えないシスターですけど、一生懸命頑張りますっ! 皆さんよろしくお願いしまひゅ!」
あ、やっぱり噛んだ。
みるみる顔が赤くなっていくアルフィリーナに対し、村中が笑いに満ちていた。
こうして、回復魔法が使えないシスターアルフィリーナは、改めて村の一員として迎えられる事になる。
「こうなったらみんな! 胴上げだ胴上げ! シスターアルフィリーナ様バンザイ!」
「バンザーイ! バンザーイ!」
胴上げされながらも、小さなシスターアルフィリーナは、大きな決意をする、この村で皆を支えて生きる、そんな決意を。
「アルフィリーナ頑張ります!」
かくして、回復魔法の使えないシスターは村の一員として歓迎される事となった
。
『……あなたはこの世の理不尽や不条理に打ち勝ち、叩き壊せる唯一の希望……頑張ってくださいね……』
アルフィリーナは今回の件で、10ポイントもの卒業ポイントを手に入れていた事を知る由もなかった。
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