JKのアタシが異世界転移したワケなんだけど、チートなのは相方の方でした
第7話 『予言者と終末の巫女』
《終末の巫女》の伝説――。
それは、ローナ村に伝わる古い伝承だ。
聞いた感じ、この村の起源はかなり古いみたいだけど、最初は5軒程の家が建つ小さな集落だった。
今から約200年前の事、村に一人の旅人がやってきた。
旅人は名は明かさず、自らを『予言者』と名乗った。
ボロボロの身なりで見るからに怪しい人物だったが、命に関わるような大怪我を負っていた。
村人達は嫌な顔一つせず、旅人を受け入れ交代で介抱した。
なけなしの食料も村人全員で出し合い、3度の食事を与えた。
やがて傷も癒え、元気を取り戻した『予言者』は、親切にしてくれたローナ村の村長や村人達にせめてものお礼と言って、ある予言を言い残した。
「今後、200年の内にこの村に大きな災いが起こるだろう。それは、終末の予兆である。しかし、安心して欲しい。水源に神殿と女神像を祀り、一心に願えば救世主が現れ、村を災いから救うであろう。その者は《終末の巫女》と名乗り、村に幸運と繁栄を与えるであろう」と――。
これが後に村の残る言い伝えとなった。『予言者』は村を去り、2度と現れる事はなかった。
その後、その人物が何処へ行き、どうなったのかは誰も知らない。
この予言を村人達は信じた。
誰も旅人が嘘、でたらめを言っているとは思わなかった。
そう思わずにはいられなくなる不可思議な雰囲気を旅人は発していたそうだ。
『予言者』の言葉は村長が代々語り継ぎ、村人に説いた。決して途絶えることの無い様にするためにだ。
それから200と幾年かが経った。
予言者の予言どおり、村に不吉な事が起こり始めた。
予言は本当だったのだと、村の誰もが思った。
まず、農作物が不作に見舞われ、次に家畜に伝染病が流行り出した。
それが何とか治まり、村人達が安堵したのも束の間、今度は付近の森に魔物が頻繁に出現するようになった。
魔物は次第に数を増やし、農地を荒らし回り、家畜や村人を襲い始めた。
そして、とうとう一番恐れていた事が起きた。
村にとって重要な水源が枯れた。
これが予言者の言っていた終末なのだと、村長であるロイズさん含め村の代表達は、『予言者』の言い付け通り、先祖達が水源に建てた神殿と女神像に祈りを捧げた。
祈りは毎日の様に行われ、それが一ヶ月に及んだ。
しかし、村人の祈りも空しく、水源が復活する事も《終末の巫女》が現れる事も無かった。
もはや、これまで……予言は出任せだったのかと誰もが諦め始めたその時、奇跡は起きた。
崖の上から降ってきた謎の少女と男が、瞬く間に水源を復活させたのだ。
村長を含め、その場の全員が思った。
この方が、《終末の巫女》様だと――。
こうしれ数時間に及ぶ、ロイズさんの良く分かる異世界講座+αは終了した。
テレサさんが入れてくれた紅茶はアタシの手の中でとうの昔に冷めてしまっていた。
書斎には西日が差し込み、部屋全体を紅色に染めている。
なるほどね、そんな予言が村の言い伝えになっていたのか。
それなら、その予言通りに現れたアタシを《終末の巫女》と勘違いしても仕方が無いことだ。
それにしてもその予言者とは、何者だったのだろうか?
アタシが《終末の巫女》で村を救って、幸運と繁栄うんたらかんたらの辺りが間違ってるけど、何はともあれ凄い人物だ。神通力でも持っていたのだろうか。
まぁ、200年以上も前の事じゃ、真相の確かめようも無いか……。
「ロイズさん、長い時間ありがとうございました」
「いやいや、こんな年寄りの話では退屈だったでしょう」
「そんな事ありませんよ。とっても勉強になりました。この世界の事も大体、分かりましたし」
お礼を言って、アタシは席を立った。それを見たフジサキも立ち上がる。
そんなアタシ達を見て、ロイズさんは不思議そうな顔をした。
「いかがなされましたかな?」
首を傾げて尋ねてくる。
いや、なんだ……この世界の話は聞けたことだし、長居は無用だ。
これ以上、お邪魔しているのも厚かましいし、ロイズさんには村長としての大事な仕事があるはずだ。
「お邪魔しました。お茶とお菓子、ご馳走様でした」
そう言って、アタシは一礼してドアの方に回れ右した。
回った瞬間に目に入ったスカートの裾を見て、自分の今の服装を思い出した。
おっと、そうだった。
借りた服のまま出て行くのってどうよ? ここは、生乾きでもいいから返してもらおう。
「あの、服のことなんですが……」
「お二人には、行く当てはあるのですかな?」
ロイズさんは椅子から立ち上がると、後ろで手を組んだ。
そうだった……。ここ異世界だし、アタシ所持金ゼロだし……この村、民宿とか無いのかな? 宿泊代はツケとかにして……。
駄目なら、野宿ってことになるのかな? したことないけど、フジサキがいるから暴漢とかには襲われないだろう。
たぶんだけど……。
「この村に宿ってないですか? あるのならそこで一泊して……なければ、その辺で野宿でもしようかと」
アハハ、と苦笑いをしながら頬を掻いていると、ロイズさんの表情があからさまに曇った。
「この頃は村の近くにまで魔物が現れて、王都から派遣された討伐隊が駆逐しておるが……とても野宿が出来るような状況ではありません。行く当てがないのなら、暫くこの村に……ワシの家に滞在してはいかがかな?」
今、何と? 泊めてくれるんですか!? 素直に嬉しい。
でも、アタシは《終末の巫女》でもなし、大切な神殿と女神像を破壊した張本人……の持ち主だ。
これ以上、ご厄介になるのはおこがましい気がする。
「え? そ、そんな悪いですよ。アタシみたいな何処の誰とも分かんない、怪しい人間を家に泊めるなんて……」
全力で遠慮した。大丈夫だ、身体は丈夫な方だから何とかなるはず。
さっきから何も言わないフジサキにも助けを求めるように目配せした。
アンタからも村長に何か言ってよ、こう……一発で納得してくれる様なヤツをお願いします。
「そうですね……マスターの今までの生活状況から推測しますと、野宿は不可能です。一晩で風邪を召されるとの予測結果が出ました」
そう言う意味の目配せじゃねぇから! それじゃアタシが、泊まって行きなさいって言われるのをずっと待ってたみたいに聞こえるだろ。
図々しい子だと思われちゃうじゃん!
「そう遠慮なさるな。チヒロさんが何と言おうと貴方はこの村の恩人、何故拒む事ができましょうか? 恩人を野宿させたとなれば、村長としてのワシの面目も立たなくなる。ここは、この年寄りを手助けすると思って滞在してはいただけないだろうか? それにワシら夫婦だけではこの家は広すぎる。ちょうど、話し相手が欲しかったところなのです」
どうかな? と、ロイズさんは出会った時と同じ様に優しく微笑んだ。
ここまで言われてしまったら、もうどうしようもないじゃないか……。
「不束者ですが、お世話になります」
「マスター共々ご厄介になります、ロイズ様」
「こちらこそ。家族が増えて妻も喜びます。そうと決まれば早速、夕食にしましょう」
お腹が空いたでしょうと言いながら、ロイズさんはテレサさんの名を呼びながら部屋を出て行った。
家族……その言葉にアタシはハッとした。
脳裏に子供の頃の記憶が走馬灯のように蘇る。
施設で一人ぼっちだった自分。そんなアタシを引き取ってくれた両親……繋いだ手のぬくもり。
ロイズさんの笑顔に両親の顔が重なった。そんな気がして、目頭が熱くなった。
アタシは不安だったのだ。
拒絶されたらどうしようと……される前に、自分が傷つく前に出て行こうと。
勝手に自分の中でそう勝手に決め付けて、焦っていた。
やっぱり本質的な所は何年経っても変わらないんだなぁ。悪い癖だ……。
いつになったら、直るんだろうか。
ため息が出た。
フジサキの視線を感じたが、目を合わす事が出来なかった。
こうして、アタシ達はローナ村のロイズ村長のお宅にしばらくの間、ご厄介になる事となった。
テレサさんの作ってくれた夕食はとても美味しかった。
食卓には固焼きのパンをメインに、たまねぎとジャガイモに似た野菜の入ったスープが出た。
異世界に来てしまったと言う緊張感からか、少ししか食べる事が出来なかったのが残念だ。
食事中ずっと、ロイズさんもテレサさんも楽しそうだった。
終始、アタシやフジサキの話を聞いて笑ってくれた。
長い間、二人暮しだったらしい。娘さんがいるようだが、お嫁に行ってしまったのだろうか?
気になったが、何となく聞いてはいけない事だと思った。
「チヒロさん、疲れたでしょうから今日は早くお休みになるといい」
「それが良いわ。また明日、お話しましょう」
「ありがとうございます。おやすみなさい。ロイズさん、テレサさん」
アタシはテレサさんに案内された部屋に入った。
ちなみにフジサキの部屋は隣になったが、まだロイズさんと晩酌をしながら話をしていた。
用意してもらった寝間着に着替えて、ベッドに横になった。
今日一日で色々な事が起こりすぎた。
マンホールに落ちて、異世界に来て、魔物に追われ、崖から落ちれば水脈を掘り当てて、《終末の巫女》と勘違いされて、村長からこの世界についての説明を受けた上に暫く滞在して欲しいと泊まる所を提供された。
「アタシ……帰れるのかな?」
一人になった途端、不安がどっと押し寄せてきて弱音がポロリと零れた。
そっと、そんな考えに蓋をする様に目を閉じた。
明日からどうしよう。
この異世界でアタシは、どう生活していけばいいのか? フジサキに相談する?
いや、頼りすぎるのは駄目だ。自分の事は自分で考えなければいけない。
まずは……そうだ。お金を貯める為に働こう。『働かざる者、食うべからず』だ。
このまま未成年であることを良い事に、村長夫妻の元でヒモ生活を送ることだけは回避したい。
この村にずっといるわけには行かない。
目指すは魔術士がいると言うウェンデール王国の王都だ。聞いたところによると、王都までは馬車で急いでも1ヶ月は掛かる。
お金の節約のために徒歩で行くとするのなら、その3倍は掛かると考えなくてはならない。
今後の旅のための資金を稼がなければならない。
明日の朝にでもロイズさんに働き口はないか相談してみよう、そうしよう!
そこまで考えて、寝返りを打つ。
目が覚めたら、自分の部屋のベッドの上……何て事にならないかな?
夢であって欲しい。そう切に願ってしまう。
疲れていたせいもあって、あっという間にアタシは深い眠りに就いた。
明日から始まる異世界での新しい生活に、不安と期待を抱えながら……。
***
夢を見た。
深い霧の中にアタシは一人で立っていた。
ふと誰かの声がした。誰だろう? キョロキョロと辺りを見回すが、姿は見えない。
どこかで聞いたことがある気がするが、思い出せない。
途切れ途切れで、内容がハッキリしない。
何? 何を言ってるの? アナタは誰?
すると急に声がハッキリと聞こえた。
相変わらず姿は見えなかったが、中性的な声でこう言った。
『早くおいで。ずっと、君を待っていたんだよ』
その言葉を聞いた途端、アタシは息が詰まった。
苦しくて、喘息で喘ぐ様にゼェゼェと息をした。
襲ってくる不安と恐怖、それに耐え切れなくなってアタシは叫んだ。
誰か、助けて!
そこで目が覚めた。
真っ暗な中、辺りを見回す。
次第に暗闇に目が慣れていって、あの部屋だと分かった。
冷や汗が伝う額を拭おうとしたところで、ふと誰かが枕元に立っているに気がついた。
「フジサキ……アンタ、何してんの?」
レディの部屋に許可無く入るとは、どういうつもりかな?
紳士の風上にも置けませんぞ。
「マスターの声が聞こえたので、様子を見に来ました」
心配してきてくれたらしい。不法侵入の事はチャラにしてあげよう。
全く、アンタは主人思いの良い携帯端末機だよ。
「ねぇ、フジサキ」
「何でしょうか?」
「アタシ……これからどうなっちゃうんだろ? 元の世界に帰れるかのな?」
ベッドに横になったまま、不安げにそう言うと頭に重みを感じた。
何かと思ったらフジサキの手だった。
予想外の行動に驚いているとフジサキの方が先に口を開いた。
「不安は尽きないかと存じますが、明日の事はその時になって見なければ、誰にも分かりません」
フジサキなりの慰めの言葉らしい。
コイツも色々考えてるんだな。そう思うと少しだけ、不安が紛れた気がした。
考えてみれば、この異世界にアタシ一人で放り出されても何も出来なかっただろう。
森に落ちた時点で確実に死んでいたと思う。
フジサキがいてくれたからここまで何とか冷静さを失わずに来れたのだ。
感謝しなければいけない。
そんなアタシを見てフジサキは頭から手を退かした。
「マスター、まだ深夜でございますので、もう一度お休みください。私も頂いた部屋に戻ります」
そう言って、フジサキは部屋を出て行こうとする。
フジサキがドアから出る手前でアタシは呼び止めた。
くるりとフジサキが振り返る。
「フジサキ、ありがとう。おやすみ」
「はい、お休みなさいませ。マスター」
ドアが静かに閉まった。
フジサキの足音が遠ざかって行く。
その音を聞きながら、アタシは再び眠りに落ちていった。
そのまま朝までぐっすり眠ることになったけど、もう一度、あの不可解な悪夢を見ることはなかった。
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