JKのアタシが異世界転移したワケなんだけど、チートなのは相方の方でした

なゆた

第6話 『異世界グラン・パナゲア』

 さぁ、ここからがお待ち兼の【情報収集】タイムだ。


 ロイズさんは「よいしょ」と言いながら席を立つと、書斎の本棚へと向かった。
 そこから筒状に丸められた大きな洋紙を取り出して、書斎机の上に広げた。
 アタシとフジサキは立ち上がって、広げられた洋紙を見た。
 それは、地図だった。5つに分かれた大陸と見たこともない言語がいたる所に記されている。
 この世界の言葉は日本語と発音は同じでも、文字は違うようだ。
 残念なことだが、アタシには解読できない。


 それからロイズさんによる異世界講座が始まった。



 この世界の名は、『グラン・パナゲア』。
 大海によって隔てられた5つの大陸が存在している。
 それぞれの大陸を大雑把に説明していくと次の様な感じだ。


 人族が多く分布する大陸イオ・ヒュムニア。
 魔族(人族以外)が統治する大陸ディス・ノグディス。
 大陸の8割が砂漠に覆われた大地メッカ・バスカーナ。
 古の龍王が統治すると言われる海に囲まれた中央大陸ドラグーン・パレス。
 この世界を構築する全てがそこで生まれたとされる前人未到、幻の大陸ゼオス・ゼロス。


 幻の大陸と言われているゼオス・ゼロスはその海域に巨大な嵐が絶え間なく発生していて船が近づけず、人類の歴史が始まって以来、到達できた者は誰もいないとのことだ。
 そこ以外は海路が整備されており、4つの大陸は人が行き来する事が可能なのだそうだ。
 ただ、中央大陸ドラグーン・パレスに関しては限られた人間しか上陸が許されていないらしい。
 ドラゴンは人を襲う事はまず無い温厚な種族なのだが、少々気難しい所があるのだそうだ。


 ディス・ノグディスには人族以外の種族、全部ひっくるめて魔族と通称する種族達、エルフェン、獣族、小人族、魔人族がそれぞれの文化を持って分布しているそうだ。
 8割砂漠の国に行く必要があるのかと聞いてみると、砂漠でしか手に入らない貴重な鉱石や植物、魔物の素材などの資源と古代遺跡があって、トレジャーハンターや冒険者が一攫千金を夢見て渡っていくので、何気に需要のある土地らしい。


 ドラゴン、魔族……ファンタジーやゲームでしか聞いた事のない生き物がこの世界には当たり前のように存在している。
聞いているだけで眩暈がしそうになった。


 このローナ村は、イオ・ヒュムニアの東部を支配するウェンデール王国のルアナ領の領地で小規模ではあるが小麦の栽培を行っている。
 イオ・ヒュムニアには、ウェンデール王国の他に2つの大国と少数民族が創る中立国が存在している。2つの大国とは南西部を支配する3国の枢軸国家、ティルバ連合国。この連合国は100年ほど前までウェンデール王国と領地を巡って戦争をしていたが、今は外交的圧力によって停戦状態を維持しているそうだ。
 もう一つは北部全域を支配する巨大国家ヴァルベイン帝国。この国は、門外不出の高度な技術や魔術を有してはいるがイオ・ヒュムニアの統一には関心が無いらしく、もっぱらゼオス・ゼロスへの到達を目標に掲げて、日夜進行を続けている。


 魔術……つまり、この世界には魔法使いがいる。
 話の途中でローナ村にも魔法使いがいるのかと聞いてみたが、魔術を使える魔術士や魔導士は誰にでもなれるわけものではないらしく、その人口は驚くほど少ないらしい。
 一流の魔術師は王宮に使えたり、ヴァルベイン帝国に住んでいて辺境にやってくることはまず無いのだそうだ。
 一部には変わり者で、人里から離れた場所で誰とも関わらず隠居している魔術師もいるそうだが、風の噂なので定かではない。


「お茶をお持ちしましたよ。少し休憩なさってはいかがかしら?」

 そう言って、入ってきたテレサさんからお茶とサブレの様な手作りお菓子を受け取って、講座は一時中断となった。

「大変、興味深いお話でした、ロイズ様」

 紅茶の様ないい香りのするお茶を啜っていると、カップから口を離したフジサキがロイズさんに頭を下げた。
 フジサキ、お茶飲めるんだ……てか、飲んで大丈夫なのか? ショートしたりしないよね?

「私、こちらに所蔵されている書物に大変興味があるのですが……失礼でなければ、拝見しても宜しいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。どれでも好きにお読みください」

 ロイズさんは、フジサキの申し出を快く承諾してくれた。


 おいッ! ロイズさんが説明してくれてる最中なのに失礼だろ、何考えてんだ。
 大体、ここにある本を見たって異世界語だから読めないだろ。


 椅子から立ち上がり、本棚から徐に一冊の本を取り出して無心に読み出したフジサキを咎め様とアタシは椅子から立ち上がろうとした。

「フジサキさんとチヒロさんは、ご兄妹なのですかな?」

 唐突にロイズさんがアタシに尋ねてきた。
 中腰のまま固まって、一瞬考えてから椅子に座りなおすとアタシは言った。

「いえ、違います。フジサキは……まぁ、召使いみたいなものですね」

 合ってもいないけど、間違ってもいない。だって、元iPh●neだしね。

「ほぉ、ではチヒロさんは貴族のお嬢様なのですかな?」

「お嬢様じゃないですよ。極々普通の家庭出身です」

「ふむ。チヒロさんの世界とこの世界とでは大分、生活水準が違うようですな」

「そう……みたいですね」

 ですよねぇ……現代と中世並に差がありますもんね。
 ロイズさんには失礼だけど、アタシはこの生活水準が【最低】の世界が耐えられそうにないです。
 これは、一刻も早く元の世界に帰りたいな。

「魔術士さんとかの魔法で、元の世界に帰れたりはしないですかね?」

「どうでしょうな。私も生まれてこの方、魔術と言うものを見たことがないもので……。確かめるには、王都に赴き、魔術師に会うしかありませんな」

 でもなぁ。聞いた話、魔術師は王宮に仕えている超エリート階級の人たちみたいだし、アタシみたいな何処の馬の骨とも分からない小娘が王都まで行っても面会すら出来ないのが関の山ではないだろうか。


 参ったな、どうしたものか。大義名分が必要になるかもしれない。大義名分ねぇ……。


「そう言えば、ロイズさん。アタシの事を《終末の巫女》って呼んでましたけど、何なんですか? 《終末の巫女》って」

 聞いた感じ、村の言い伝えに出てくる人物みたいだけど。
 それじゃ、大義名分にはならないかな?

「おぉ。そうじゃった。それも話さねばなりませんな。《終末の巫女》とは……」

「あ、すみません。お話の途中なんですが、ちょっと失礼します」

 ロイズさんの話の腰を居たたまれない気持ちでいったん折ると、アタシは席を立つ。
そのまま一直線に向かうは、一心不乱に本を読み耽っているフジサキのもと。

「おいコラ、フジサキ! 本読んでないで、お前もちゃんと話聞けやッ!」

 そう言って、フジサキから本を奪い取る。
 フジサキの身長が高いせいで下からアッパーをする様な形になった。
 これは、完全にかの有名な昇竜拳の動き。コマンドは『→↓ (前・下・斜め前)+パンチ』だ。

「やはり、聞かねばなりませんか?」

「当たり前でしょ! アタシは、そんな失礼な子に育てた覚えはないよ!」

「はて? 私、マスターに育てていただいた覚えなど、これっぽっちもございませんが?」

「涼しい顔して、煽ってくんのやめてくれない? おおん?」

「ほほほ、お二人は仲がよろしいのですね」

 そんなアタシ達を見て、ロイズさんが笑った。

「そうでもないですよ。ほら、フジサキお座り!」

「マスター、私は犬ではございません」

「だまらっしゃい! この本は、ロイズさんのお話が終わるまで没収!」

「ほほほ」

 こうして、ロイズさんの異世界講座は後編に突入したのだった。

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