JKのアタシが異世界転移したワケなんだけど、チートなのは相方の方でした
第2話 『私は貴女のモノです』
どなたかッ!
どなたか、飛行石をお持ちの王位正統継承者の方はいらっしゃいませんか!?
もしくは、夕飯に肉団子を買って親方に届けてる最中で空から降ってきた少女をナイスキャッチできる、自称『親方の拳骨より硬い』頭部を持った少年はいらっしゃいませんか!?
なんなら、アベ●ジャーズでもいいから!!
いるならアタシを受け止めてッ! え? いない? そうですか……。
現在アタシと何処の誰だか知らないイケメンさんは、爆撃機から落された無誘導爆弾の様に真ッ逆さまに降下を続けている。
地表がどんどん近づいてくる。
眼下に広がっているのは、緑一色の広大な森林。
こんな状況でなければ、とても綺麗なパノラマビューだ。
木に引っかかれば、もしかしたら助かるかも……いやいや、無理だ。
この速度で木にぶつかったら良くて串刺しになるか、ぶつかった衝撃で骨が砕けて身体がバラバラになるだろう。
何て壮絶で悲惨な最期なんだ。
考えるだけでもゾッとする。
パニックを起こしている頭で、どうにか助かる方法を考えてみるがどれも成功しそうにない。
もう腹を括るしかない。そうと決まればレッツ現実逃避だ。
そんなわけで、アタシはもう一度、隣のイケメンさんに尋ねた。
「……どちら様ですか?」と――。
アタシの質問に風圧で前髪がオールアップになったイケメンさんは一瞬、驚いた様に目を見開いた。
だが、すぐに元の無表情に戻ってこう言い返してきた。
「申し訳ございません。現在の最優先事項は、マスターを無傷で地表にお届けする事でございます」
冷静にそう言うイケメンさん。
無事にって……失礼だが、言わせて貰おう。
何、寝言を言っているんですかねぇ、コイツは。
アタシは嘲笑を込めて、冷たく「ハッ」と鼻で笑ってしまった。
パラシュート無しで無事着地って、そんなの無理に決まってんだろ。
頭良さそうに見えるのに、実はガッカリ頭脳の持ち主なのか。
ちょっとだけ期待したアタシもガッカリだわ。
てか、『マスター』って何だよ?
あれか? なりたいなぁ~、ならなくちゃ! の何とかマスターの事?
151匹ですら曖昧だからなぁ……残念だが、アタシにはなれそうに無い。
    はたまた、「問おう。あなたが私のマスターか?」から始まる願いをなんでも叶えてくれる黄金の盃争奪戦かな?   クラスは何かな?   ぱっと見アサシンっぽいけど……って違うな。
そんな事を考えながら、渋い顔でイケメンさんの鼻辺りをガン見していた。
すると、いきなり腕を掴まれた。
ガシッと。絶対にこの手を離さない! みたいな強い力でです、ハイ。
ちょっと痛いです、勘弁してください。失礼な事考えてすいません。
「失礼致します」
アタシの事はお構い無しで、イケメンさんはグイッっと自分の方にアタシを引き寄せると空中だというのに器用に抱きかかえた。
マジか……コレが巷で噂のお姫様抱っこ。
この状況じゃなければ絶対、胸キュンしてた。
「マスター、しっかりお掴まり下さい。地表まで、あと20秒を切りました」
「はい?」
地面に激突まで20秒だと? 唐突過ぎて笑えない。
後3分は待って欲しいんですけど。
しっかり掴まれって、どこに? やっぱベタに首周りかな?
慌てて、首にしがみ付く。何でも良いけど恥ずかしいなこの格好。
てか、こんなんで助かるの?
あ、それともあれですか?
ボッチで死ぬのは嫌だから一緒にロマンチックに逝きましょうって事?
何それ、嫌だ。
「10秒を切りました。カウントダウンを開始致します。5、4、3、2、……」
ロケット打ち上げかッ! 落下してるのにッ!! と心の中でツッコミを入れた。
それとほぼ同時に、
「1……着地致します。衝撃に……」
お気をつけください。と言うイケメンさんの声を身体を上下左右に大きく揺らす衝撃と、地表に群生していたのであろう大樹に衝突する音が遮った。
ごめんね。お父さん、お母さん。アタシ、死んじゃった……。
さっき死んだと言いましたが……ごめん、あれは嘘です。
アタシ、生きてました。しかもご覧ください、無傷です。
地面に着地、と言うか着弾しました。
メキメキ、バキバキと聞くに堪えない木々を次々と粉砕していく音の直後、ズドォオオンと凄まじい爆音を立ててアタシ達、と言うかイケメンさんが地面に着地した。
濃霧の如く、土埃が濛々と立ち込めている。一寸先も見えないとは、まさにこのことだ。
これは酷い……いや、煙い。口元を抑えてゲホゲホと咳き込みながら片手で土埃を仰ぐ。
「着地に成功致しました。お怪我はございませんか? マスター」
壊れものでも扱うかのように、ゆっくり丁寧にアタシを地面に下すとイケメンさんは軽く会釈をしながらそう言った。
「わぁあああい! い、生きてるって素晴らしい!」
助かるとは思っていなかった。だって、大空から落ちてきたんですよ?
土埃があらかた収まるとアタシは背伸びをした。
ついでに深呼吸もしてみる。スーハー、スー……。
うん、息が出来ているから生きてる! 間違いないッ!
ちょっと土の香りがするけど、新鮮な空気だ!
「マスター」
背後から声がしたので振り返る。
そうだ、生あることへの感謝と感動で忘れるところだった。
アタシをジッと見つめて微動だにしないこの人物。
隕石でも落ちたのかと思わずにはいられない、立派で派手なクレーターで地面を抉ったと言うのに、何事も無かったかのように立っている。
あの衝撃で足の骨すらも折れないとか、何者なんだ? そもそも人なのか?
助けてくれた事には感謝するが、かなり不気味だ。
顔が良すぎるってことを考慮すると、流行りのクトゥルフTRPG的な新手の神話生物かもしれない。
見つめ続けると発狂しちゃうかもしれないから、目を逸らしつつ、ちょっとだけ距離を置いておこう。
「あの、助けてくれてありがとうございます。えっと……大丈夫ですか?その色々と」
一歩後ろに後ず去ってからお礼を言ってみた。
すると、無表情だったイケメンさんはほんの少しだけ表情を綻ばせた。
「ご心配には及びません。私、耐衝撃性に関しましてはトップの性能を誇っておりますので」
ごめん、何言ってんのか良く分かんなかった。
もう一回お願いします。
まるで自分のことを電化製品か何かの様に言っている。
だが、どう見たって目の前にいるのは人間だ。
さっきしがみ付いていた時だって人肌の体温を感じた。
「えぇっと……」
「ああ、申し訳ございません。先ほどのご質問の解答がまだでした」
さっきの質問? えっと、何だったっけ? 思い出せない。
「私が『何者』かと言うご質問でしたが、私は貴方様のモノです」
……ぱーどぅん?
思考回路がショートして固まった。
口を開けて動かないアタシを見てイケメンさんは首を傾げた。
アタシも傾げたいんだけど、体が上手く動かない。
「どうなされました、マスター?」
「マスターって……。あ! もしかして貴方もマンホールに落ちたんですか?」
分かったぞ。この人はきっとアレだ。
マンホールに落ちた時、頭をぶつけて記憶障害を起こしてるんだ。
そうだろうか? いや、そうに違いない!
「何を寝ぼけたことを申されているのですか? もう一度言わせていただきますが、私は貴女様のモノです。まさか、お忘れになってしまわれたのですか?」
「なん……だと?」
いつの間にこんなイケメンを飼いならしたんだアタシ。
全くもって記憶にないぞ。まさか、無自覚なだけでとんてもない魔性の女だったのか。
お、落ち着け。まずはアレだ。
初対面の人にあったら取り合えず自己紹介だ。
千尋、対人関係の基本を思い出して!
「あの。お、お名前をお聞きしても?」
「……はぁ」
おい。なんだよ、そのため息は。
あと、その「やれやれ、そんなことも分からないのですか」みたいな侮蔑を隠す気のない表情さぁ。
今すぐ、やめろ。居たたまれなくなるから、秒でやめろ。
「……申し遅れました。私、iPh●ne 4sと申します。所有者はマスターである宮間千尋様。契約者名義はマスターのお父様となっております。設定されたプランはホ●イト学生定額プ………」
「ちょっと待った! ストップ! ストォオップ! もう、もう結構です!!」
ああん! せっかく治まったのに、また頭が混乱しちゃうやつー。
この人、今さらっと「iPh●neです」って名乗ったぞ。
まさか、痛い属性の人なのか? こんなにイケメンなのに!?
もし本当だとしても、アタシの知ってるiPh●neと大分違うんだが……。
アタシが志望校に合格した時、お父さんが入学祝にと買ってくれたカバーが黒一色で齧られたリンゴのマークが入った携帯端末機。
しかしだ。
目の前にいるのは見た感じ、20代後半から30代くらいで黒髪に碧眼、黒のスーツをビシッと着こなした男が無表情でこっちを見ながら立っている。
え……なに、これ?
CMでスマホが擬人化して持ち主の隣を歩いたりしてるヤツがあったけど……まさかな?
「ちなみに声音、および人格構成はsi●iを媒体にしている様です」
追加でそんな情報をくれたが、それは別にいらん。
「あぁ、道理で聞いたことある声なわけだ。散々アレで遊んだからなぁ。で、何でiPh●neが人間になっちゃったんですか?」
そんなことより、何でそんな携帯端末機が擬人化するとか、ファンタジーやメルヘンみたいな事が起こったのか説明して欲しい。
「不明です。私の中にある情報だけでは『人間になった』というこの状況を説明することができません」
「へぇ……」
気の抜けた「へぇ」でしか、言い返せなかった。
言いたい事はたくさんあったけど、どれから言えばいいのか、どう言えばいいのか、アタシの中でそれらの整理が追いつかなかった。
そもそも整理できたからと言って、理解できるとは言っていない。
大人達は「分からないことを分からないままにしてはいけない」とよく言うが、どんなに考えたって分からないことが世の中にはたくさんあるでしょうよと、私は声を大にして反論したい。
要するに考えてもよく分からないから、そのうち千尋は考えるのをやめた――。
何はともあれ、助かった。助かったけど、その実、問題が山積みだったりする。
まず最初に、ここは一体、何処なのか?
空を見上げてみるけど、ただのJKのアタシに空を見ただけでここが何処かを特定できる知識なんてない。
次にどうして、こんな所に来てしまったのか?
どうやって、帰るのか?……いや、それ以前に帰れるのか?
アタシは無事に生還できるのか?
それ以前に、目の前のこの怪しすぎる男を信用するべきか否か……。
どれから片付けるべきか……。
今考えるべきはそこだ。
どなたか、飛行石をお持ちの王位正統継承者の方はいらっしゃいませんか!?
もしくは、夕飯に肉団子を買って親方に届けてる最中で空から降ってきた少女をナイスキャッチできる、自称『親方の拳骨より硬い』頭部を持った少年はいらっしゃいませんか!?
なんなら、アベ●ジャーズでもいいから!!
いるならアタシを受け止めてッ! え? いない? そうですか……。
現在アタシと何処の誰だか知らないイケメンさんは、爆撃機から落された無誘導爆弾の様に真ッ逆さまに降下を続けている。
地表がどんどん近づいてくる。
眼下に広がっているのは、緑一色の広大な森林。
こんな状況でなければ、とても綺麗なパノラマビューだ。
木に引っかかれば、もしかしたら助かるかも……いやいや、無理だ。
この速度で木にぶつかったら良くて串刺しになるか、ぶつかった衝撃で骨が砕けて身体がバラバラになるだろう。
何て壮絶で悲惨な最期なんだ。
考えるだけでもゾッとする。
パニックを起こしている頭で、どうにか助かる方法を考えてみるがどれも成功しそうにない。
もう腹を括るしかない。そうと決まればレッツ現実逃避だ。
そんなわけで、アタシはもう一度、隣のイケメンさんに尋ねた。
「……どちら様ですか?」と――。
アタシの質問に風圧で前髪がオールアップになったイケメンさんは一瞬、驚いた様に目を見開いた。
だが、すぐに元の無表情に戻ってこう言い返してきた。
「申し訳ございません。現在の最優先事項は、マスターを無傷で地表にお届けする事でございます」
冷静にそう言うイケメンさん。
無事にって……失礼だが、言わせて貰おう。
何、寝言を言っているんですかねぇ、コイツは。
アタシは嘲笑を込めて、冷たく「ハッ」と鼻で笑ってしまった。
パラシュート無しで無事着地って、そんなの無理に決まってんだろ。
頭良さそうに見えるのに、実はガッカリ頭脳の持ち主なのか。
ちょっとだけ期待したアタシもガッカリだわ。
てか、『マスター』って何だよ?
あれか? なりたいなぁ~、ならなくちゃ! の何とかマスターの事?
151匹ですら曖昧だからなぁ……残念だが、アタシにはなれそうに無い。
    はたまた、「問おう。あなたが私のマスターか?」から始まる願いをなんでも叶えてくれる黄金の盃争奪戦かな?   クラスは何かな?   ぱっと見アサシンっぽいけど……って違うな。
そんな事を考えながら、渋い顔でイケメンさんの鼻辺りをガン見していた。
すると、いきなり腕を掴まれた。
ガシッと。絶対にこの手を離さない! みたいな強い力でです、ハイ。
ちょっと痛いです、勘弁してください。失礼な事考えてすいません。
「失礼致します」
アタシの事はお構い無しで、イケメンさんはグイッっと自分の方にアタシを引き寄せると空中だというのに器用に抱きかかえた。
マジか……コレが巷で噂のお姫様抱っこ。
この状況じゃなければ絶対、胸キュンしてた。
「マスター、しっかりお掴まり下さい。地表まで、あと20秒を切りました」
「はい?」
地面に激突まで20秒だと? 唐突過ぎて笑えない。
後3分は待って欲しいんですけど。
しっかり掴まれって、どこに? やっぱベタに首周りかな?
慌てて、首にしがみ付く。何でも良いけど恥ずかしいなこの格好。
てか、こんなんで助かるの?
あ、それともあれですか?
ボッチで死ぬのは嫌だから一緒にロマンチックに逝きましょうって事?
何それ、嫌だ。
「10秒を切りました。カウントダウンを開始致します。5、4、3、2、……」
ロケット打ち上げかッ! 落下してるのにッ!! と心の中でツッコミを入れた。
それとほぼ同時に、
「1……着地致します。衝撃に……」
お気をつけください。と言うイケメンさんの声を身体を上下左右に大きく揺らす衝撃と、地表に群生していたのであろう大樹に衝突する音が遮った。
ごめんね。お父さん、お母さん。アタシ、死んじゃった……。
さっき死んだと言いましたが……ごめん、あれは嘘です。
アタシ、生きてました。しかもご覧ください、無傷です。
地面に着地、と言うか着弾しました。
メキメキ、バキバキと聞くに堪えない木々を次々と粉砕していく音の直後、ズドォオオンと凄まじい爆音を立ててアタシ達、と言うかイケメンさんが地面に着地した。
濃霧の如く、土埃が濛々と立ち込めている。一寸先も見えないとは、まさにこのことだ。
これは酷い……いや、煙い。口元を抑えてゲホゲホと咳き込みながら片手で土埃を仰ぐ。
「着地に成功致しました。お怪我はございませんか? マスター」
壊れものでも扱うかのように、ゆっくり丁寧にアタシを地面に下すとイケメンさんは軽く会釈をしながらそう言った。
「わぁあああい! い、生きてるって素晴らしい!」
助かるとは思っていなかった。だって、大空から落ちてきたんですよ?
土埃があらかた収まるとアタシは背伸びをした。
ついでに深呼吸もしてみる。スーハー、スー……。
うん、息が出来ているから生きてる! 間違いないッ!
ちょっと土の香りがするけど、新鮮な空気だ!
「マスター」
背後から声がしたので振り返る。
そうだ、生あることへの感謝と感動で忘れるところだった。
アタシをジッと見つめて微動だにしないこの人物。
隕石でも落ちたのかと思わずにはいられない、立派で派手なクレーターで地面を抉ったと言うのに、何事も無かったかのように立っている。
あの衝撃で足の骨すらも折れないとか、何者なんだ? そもそも人なのか?
助けてくれた事には感謝するが、かなり不気味だ。
顔が良すぎるってことを考慮すると、流行りのクトゥルフTRPG的な新手の神話生物かもしれない。
見つめ続けると発狂しちゃうかもしれないから、目を逸らしつつ、ちょっとだけ距離を置いておこう。
「あの、助けてくれてありがとうございます。えっと……大丈夫ですか?その色々と」
一歩後ろに後ず去ってからお礼を言ってみた。
すると、無表情だったイケメンさんはほんの少しだけ表情を綻ばせた。
「ご心配には及びません。私、耐衝撃性に関しましてはトップの性能を誇っておりますので」
ごめん、何言ってんのか良く分かんなかった。
もう一回お願いします。
まるで自分のことを電化製品か何かの様に言っている。
だが、どう見たって目の前にいるのは人間だ。
さっきしがみ付いていた時だって人肌の体温を感じた。
「えぇっと……」
「ああ、申し訳ございません。先ほどのご質問の解答がまだでした」
さっきの質問? えっと、何だったっけ? 思い出せない。
「私が『何者』かと言うご質問でしたが、私は貴方様のモノです」
……ぱーどぅん?
思考回路がショートして固まった。
口を開けて動かないアタシを見てイケメンさんは首を傾げた。
アタシも傾げたいんだけど、体が上手く動かない。
「どうなされました、マスター?」
「マスターって……。あ! もしかして貴方もマンホールに落ちたんですか?」
分かったぞ。この人はきっとアレだ。
マンホールに落ちた時、頭をぶつけて記憶障害を起こしてるんだ。
そうだろうか? いや、そうに違いない!
「何を寝ぼけたことを申されているのですか? もう一度言わせていただきますが、私は貴女様のモノです。まさか、お忘れになってしまわれたのですか?」
「なん……だと?」
いつの間にこんなイケメンを飼いならしたんだアタシ。
全くもって記憶にないぞ。まさか、無自覚なだけでとんてもない魔性の女だったのか。
お、落ち着け。まずはアレだ。
初対面の人にあったら取り合えず自己紹介だ。
千尋、対人関係の基本を思い出して!
「あの。お、お名前をお聞きしても?」
「……はぁ」
おい。なんだよ、そのため息は。
あと、その「やれやれ、そんなことも分からないのですか」みたいな侮蔑を隠す気のない表情さぁ。
今すぐ、やめろ。居たたまれなくなるから、秒でやめろ。
「……申し遅れました。私、iPh●ne 4sと申します。所有者はマスターである宮間千尋様。契約者名義はマスターのお父様となっております。設定されたプランはホ●イト学生定額プ………」
「ちょっと待った! ストップ! ストォオップ! もう、もう結構です!!」
ああん! せっかく治まったのに、また頭が混乱しちゃうやつー。
この人、今さらっと「iPh●neです」って名乗ったぞ。
まさか、痛い属性の人なのか? こんなにイケメンなのに!?
もし本当だとしても、アタシの知ってるiPh●neと大分違うんだが……。
アタシが志望校に合格した時、お父さんが入学祝にと買ってくれたカバーが黒一色で齧られたリンゴのマークが入った携帯端末機。
しかしだ。
目の前にいるのは見た感じ、20代後半から30代くらいで黒髪に碧眼、黒のスーツをビシッと着こなした男が無表情でこっちを見ながら立っている。
え……なに、これ?
CMでスマホが擬人化して持ち主の隣を歩いたりしてるヤツがあったけど……まさかな?
「ちなみに声音、および人格構成はsi●iを媒体にしている様です」
追加でそんな情報をくれたが、それは別にいらん。
「あぁ、道理で聞いたことある声なわけだ。散々アレで遊んだからなぁ。で、何でiPh●neが人間になっちゃったんですか?」
そんなことより、何でそんな携帯端末機が擬人化するとか、ファンタジーやメルヘンみたいな事が起こったのか説明して欲しい。
「不明です。私の中にある情報だけでは『人間になった』というこの状況を説明することができません」
「へぇ……」
気の抜けた「へぇ」でしか、言い返せなかった。
言いたい事はたくさんあったけど、どれから言えばいいのか、どう言えばいいのか、アタシの中でそれらの整理が追いつかなかった。
そもそも整理できたからと言って、理解できるとは言っていない。
大人達は「分からないことを分からないままにしてはいけない」とよく言うが、どんなに考えたって分からないことが世の中にはたくさんあるでしょうよと、私は声を大にして反論したい。
要するに考えてもよく分からないから、そのうち千尋は考えるのをやめた――。
何はともあれ、助かった。助かったけど、その実、問題が山積みだったりする。
まず最初に、ここは一体、何処なのか?
空を見上げてみるけど、ただのJKのアタシに空を見ただけでここが何処かを特定できる知識なんてない。
次にどうして、こんな所に来てしまったのか?
どうやって、帰るのか?……いや、それ以前に帰れるのか?
アタシは無事に生還できるのか?
それ以前に、目の前のこの怪しすぎる男を信用するべきか否か……。
どれから片付けるべきか……。
今考えるべきはそこだ。
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