神の使徒
第二十九話「仕事依頼(採取)④」
「……あれ?」
目を覚ますと、俺は木にもたれた格好で座っていた。……いったい何が? そう思いながら辺りを見回すとすぐに異変に気づいた。
まず俺の腹の上、腹を枕代わりにして眠るリリエールだ、なんでこいつ俺の上で寝てるんだ。まったくと思いながらそれを見た後に、もう一人……地面の上に倒れ込むようにして眠るアレン君の姿を見つけた。彼の服をよく見ればボロボロで、野盗に襲われたかのような悲惨な姿となっていた。
「……どうなってるんだ」
俺はそう呟いて体を慌てて起こすとリリエールを抱えて木陰に寝かせ、アレン君へ駆け寄って側まで近づく、体を改めて確認してみて安堵した……。どうやら此方も寝ているだけのようだ。まったく、なんでこんな場所で寝てるんだアレン君は……。
それに、なにが起ったのか分からないが辺りは強烈な台風でも来たのか木々がなぎ倒されており、不自然に鋭利な断面で切られた跡もある。困惑してしまうが……とにかく彼を移動させるか、そう思い彼の腕を掴もうとした。
その次の瞬間だった。
「断てッ!」
怒声が聞こえて、その次に風音が響く。
なんだ、と風音に振り向いた瞬間、俺の腕が切り飛ばされた……。
「は? えッ……あぁぁあああぁぁあッ!」
スパッと、まるでマジックにでも掛かったかのように鮮やかに俺の腕は見事に切断されて宙を舞い地面に極彩色の絵の具をぶちまける。
「おれ、の腕ぇ……!」
……俺はうめき声をあげてその場で血の止まらない腕を押さえて蹲る。
何が……?
痛みで混乱した頭の中。
そこへ、ゆっくりとした足取りで現れる人物がいる。それは俺のよく知る人物、ティアさんだった。彼女は此方を睨むと告げる。
「命がまだあることに感謝なさい……アタシはアンタ達を許さないから」
金の髪が風で揺れ、その髪や体に纏うようにして新緑の光が淡く光を放っていた。
「ティアさ、ん……か……」
まるで別人だった……。先程の気を失う前までの彼女にはまだ愛らしさなどの愛嬌さはあった。しかし今はまるで鬼でも見ているかのようだ、憤怒に塗れた顔でうずくまった俺を彼女は見下ろしている。
俺の気絶している間に何があった……?
「なれなれしく呼ばないで……殺すわよ」
「……っ」
気圧され、俺は押し黙る。
「アレン……」
そう彼女は俺の側で眠っているアレン君に触れると、その呼吸を確かめるような仕草をした後に安堵して笑みを浮べる。
すると堪えられないとばかりに彼の唇にキスをする。こんな状況でなければ目を覆いたくなる情熱的なキスをだ……。
「ふぁ……ん……、……アレンが生きているなら貴方は見逃してあげる……でもソイツは確実に殺してやるわ」
彼女の鋭い視線が今度は木陰で眠るリリエールに向けられる、反射的に顔を歪めた。
リリエール、魔神と名乗った彼だがいくら強かろうと、眠っていて意識もなくては流石にその強さは発揮できないだろう。そも、どのような超人であろうとも、切磋琢磨した歴戦の兵士であろうとも、寝ている時は無防備なものだ。
慌てて俺は声をあげた。
「リリエールッ! 起きろッ!」
「……黙ってなさいっ!」
一喝。
その瞬間、俺の体に追撃とばかりに衝撃が飛んでくる、風の衝撃波だ。それに何の抵抗もできずに俺の体は宙を飛び、地面に転がった。
「痛ぇ」
痛みと衝撃で目がチカチカして来やがった。
俺が必死に意識を保とうとしている間にも彼女、ティアさんは魔法を放つ準備をしている。
「刻め刻め粉微塵になれぇッ……ソニック・アブソリュート《風連衝》!」
「リリエール!」
瞬間、爆音と共にリリエールの眠っていた場所が視覚すらできるほど風の刃が撫で切りにする。
ヒュン!
という爆発と共にもうもうと土煙が立ち込めそれがなくなった後にはその場所は抉れたように何もなくなっていた。
威力があの時よりも桁違いだ……、しかも彼女はそれを矢も使わずに魔力で、手を振りかざして直接行っている。
「フフ、アハハッ! ハハハハッ」
確認し、完全になくなっていると知った途端ティアさんは笑い声を上げ始めた。それこそ狂ったようにだ、頭のネジが飛んでしまっているのか……。
「リリエール……」
「何かあったの?」
心配したのも束の間、そんな空気の読めない声が俺の上から聞こえてきた。しかも俺の体の上に乗ってだ。
子供サイズの重さとはいえ、中々の重みがのしかかってくる。
なんで俺の上にいるんだよ!
そう俺がツッコミを入れつつ驚いているのだが、ティアさんも遅れてだが、それに気付いて驚愕した後、悔しげな顔を浮かべ、怒声をリリエールに浴びせる。
「なんでよ! なんでアレで死んでないのよ! 貴方の気配はあそこにッ! あそこにあったわ!」
確信しているのか、ティアさんは告げる。リリエールはどこ吹く風と言った調子で笑みを浮べる、と……。
「それで? ユーリエ草は? 持って来たの?」
「っ!」
ティアさんが苦しんだ顔をして、今度は笑みを浮べる。
って、待て……ユーリエ草を持ってこい? どういうことだ?
え? 頼んだの?
「ふざけないで……アンタは確実に殺すッ」
困惑を他所に置いて、ティアさんは声をあげる。それこそ辺りに響くほどの大声で、
それが、合図となったか……、
「「「「「我等は森と共に住まう民、森と共に生き森と共に死するが定め、汝ら災厄を運びし者よ、何人も只死するべし! 死せる風よ! 舞い狂え!!」」」」」
幾多もの声が響く、なんだ? 魔法? 詠唱か? 気付けば無数の魔法陣が森の木々の間から見えていた。それこそ俺達を取り囲むようにしてぐるりと……。
「なんて数だ」
俺がそう声を漏らし。
「コレで粉微塵にしてあげるわ! 風魔法を重ねに重ねた多重詠唱、そして風魔法においての人の身の極地「嵐帝」、今やその威力は嵐神にも届きうる神の一撃! 終わりよ!」
……光、新緑の光が集まって頭上で途方もないほど巨大な円を、魔法陣を空に刻む。
光は集束して此方を狙うように魔法陣の中心点が向けられた。いやいや……まじかよ! 死ぬ死ぬ死ぬ!
どういうことなの! なんで唐突に敵対して殺しに来るの? これって森の火事から始まった、上手いこと交渉すれば終わる小さな話しだったよね?
混乱で頭はショート(爆死)寸前だ。
「ああ……敦君、ウルサイ、ちょっと黙ってて雑音多過ぎて思考が定まらないから……というか、ちょっと飲ませてもらうね?」
?
その瞬間、肩に鋭い痛みが走った。
また……あれか! 結晶、封印であったあの拘束を解く切っ掛けとなった吸血行為、そも俺の血を魔力に変えたとかなんとか言っていた……。
俺の痛みなどお構いなしで彼は血を啜る。
「んっく……ふく、ふぁ……んく」
一滴も逃すまいと舐めるように舌を這わせて、そしてその行為を終える。
瞬間、彼は告げる、ただ一言。
「視ろ……黒天眼《イビル・アイ》」
瞬間、彼の目から紅い閃光が飛び出し空を駆ける! 空に昇る閃光の柱、それは魔法陣を引き裂いてそれでもなお昇って行く。果ては宇宙にすら届いたのでは……、そう思えるほどの光が空に走った。
そして、
「う、うそ……」
ティアさんが小さくそう告げたのだった。
目を覚ますと、俺は木にもたれた格好で座っていた。……いったい何が? そう思いながら辺りを見回すとすぐに異変に気づいた。
まず俺の腹の上、腹を枕代わりにして眠るリリエールだ、なんでこいつ俺の上で寝てるんだ。まったくと思いながらそれを見た後に、もう一人……地面の上に倒れ込むようにして眠るアレン君の姿を見つけた。彼の服をよく見ればボロボロで、野盗に襲われたかのような悲惨な姿となっていた。
「……どうなってるんだ」
俺はそう呟いて体を慌てて起こすとリリエールを抱えて木陰に寝かせ、アレン君へ駆け寄って側まで近づく、体を改めて確認してみて安堵した……。どうやら此方も寝ているだけのようだ。まったく、なんでこんな場所で寝てるんだアレン君は……。
それに、なにが起ったのか分からないが辺りは強烈な台風でも来たのか木々がなぎ倒されており、不自然に鋭利な断面で切られた跡もある。困惑してしまうが……とにかく彼を移動させるか、そう思い彼の腕を掴もうとした。
その次の瞬間だった。
「断てッ!」
怒声が聞こえて、その次に風音が響く。
なんだ、と風音に振り向いた瞬間、俺の腕が切り飛ばされた……。
「は? えッ……あぁぁあああぁぁあッ!」
スパッと、まるでマジックにでも掛かったかのように鮮やかに俺の腕は見事に切断されて宙を舞い地面に極彩色の絵の具をぶちまける。
「おれ、の腕ぇ……!」
……俺はうめき声をあげてその場で血の止まらない腕を押さえて蹲る。
何が……?
痛みで混乱した頭の中。
そこへ、ゆっくりとした足取りで現れる人物がいる。それは俺のよく知る人物、ティアさんだった。彼女は此方を睨むと告げる。
「命がまだあることに感謝なさい……アタシはアンタ達を許さないから」
金の髪が風で揺れ、その髪や体に纏うようにして新緑の光が淡く光を放っていた。
「ティアさ、ん……か……」
まるで別人だった……。先程の気を失う前までの彼女にはまだ愛らしさなどの愛嬌さはあった。しかし今はまるで鬼でも見ているかのようだ、憤怒に塗れた顔でうずくまった俺を彼女は見下ろしている。
俺の気絶している間に何があった……?
「なれなれしく呼ばないで……殺すわよ」
「……っ」
気圧され、俺は押し黙る。
「アレン……」
そう彼女は俺の側で眠っているアレン君に触れると、その呼吸を確かめるような仕草をした後に安堵して笑みを浮べる。
すると堪えられないとばかりに彼の唇にキスをする。こんな状況でなければ目を覆いたくなる情熱的なキスをだ……。
「ふぁ……ん……、……アレンが生きているなら貴方は見逃してあげる……でもソイツは確実に殺してやるわ」
彼女の鋭い視線が今度は木陰で眠るリリエールに向けられる、反射的に顔を歪めた。
リリエール、魔神と名乗った彼だがいくら強かろうと、眠っていて意識もなくては流石にその強さは発揮できないだろう。そも、どのような超人であろうとも、切磋琢磨した歴戦の兵士であろうとも、寝ている時は無防備なものだ。
慌てて俺は声をあげた。
「リリエールッ! 起きろッ!」
「……黙ってなさいっ!」
一喝。
その瞬間、俺の体に追撃とばかりに衝撃が飛んでくる、風の衝撃波だ。それに何の抵抗もできずに俺の体は宙を飛び、地面に転がった。
「痛ぇ」
痛みと衝撃で目がチカチカして来やがった。
俺が必死に意識を保とうとしている間にも彼女、ティアさんは魔法を放つ準備をしている。
「刻め刻め粉微塵になれぇッ……ソニック・アブソリュート《風連衝》!」
「リリエール!」
瞬間、爆音と共にリリエールの眠っていた場所が視覚すらできるほど風の刃が撫で切りにする。
ヒュン!
という爆発と共にもうもうと土煙が立ち込めそれがなくなった後にはその場所は抉れたように何もなくなっていた。
威力があの時よりも桁違いだ……、しかも彼女はそれを矢も使わずに魔力で、手を振りかざして直接行っている。
「フフ、アハハッ! ハハハハッ」
確認し、完全になくなっていると知った途端ティアさんは笑い声を上げ始めた。それこそ狂ったようにだ、頭のネジが飛んでしまっているのか……。
「リリエール……」
「何かあったの?」
心配したのも束の間、そんな空気の読めない声が俺の上から聞こえてきた。しかも俺の体の上に乗ってだ。
子供サイズの重さとはいえ、中々の重みがのしかかってくる。
なんで俺の上にいるんだよ!
そう俺がツッコミを入れつつ驚いているのだが、ティアさんも遅れてだが、それに気付いて驚愕した後、悔しげな顔を浮かべ、怒声をリリエールに浴びせる。
「なんでよ! なんでアレで死んでないのよ! 貴方の気配はあそこにッ! あそこにあったわ!」
確信しているのか、ティアさんは告げる。リリエールはどこ吹く風と言った調子で笑みを浮べる、と……。
「それで? ユーリエ草は? 持って来たの?」
「っ!」
ティアさんが苦しんだ顔をして、今度は笑みを浮べる。
って、待て……ユーリエ草を持ってこい? どういうことだ?
え? 頼んだの?
「ふざけないで……アンタは確実に殺すッ」
困惑を他所に置いて、ティアさんは声をあげる。それこそ辺りに響くほどの大声で、
それが、合図となったか……、
「「「「「我等は森と共に住まう民、森と共に生き森と共に死するが定め、汝ら災厄を運びし者よ、何人も只死するべし! 死せる風よ! 舞い狂え!!」」」」」
幾多もの声が響く、なんだ? 魔法? 詠唱か? 気付けば無数の魔法陣が森の木々の間から見えていた。それこそ俺達を取り囲むようにしてぐるりと……。
「なんて数だ」
俺がそう声を漏らし。
「コレで粉微塵にしてあげるわ! 風魔法を重ねに重ねた多重詠唱、そして風魔法においての人の身の極地「嵐帝」、今やその威力は嵐神にも届きうる神の一撃! 終わりよ!」
……光、新緑の光が集まって頭上で途方もないほど巨大な円を、魔法陣を空に刻む。
光は集束して此方を狙うように魔法陣の中心点が向けられた。いやいや……まじかよ! 死ぬ死ぬ死ぬ!
どういうことなの! なんで唐突に敵対して殺しに来るの? これって森の火事から始まった、上手いこと交渉すれば終わる小さな話しだったよね?
混乱で頭はショート(爆死)寸前だ。
「ああ……敦君、ウルサイ、ちょっと黙ってて雑音多過ぎて思考が定まらないから……というか、ちょっと飲ませてもらうね?」
?
その瞬間、肩に鋭い痛みが走った。
また……あれか! 結晶、封印であったあの拘束を解く切っ掛けとなった吸血行為、そも俺の血を魔力に変えたとかなんとか言っていた……。
俺の痛みなどお構いなしで彼は血を啜る。
「んっく……ふく、ふぁ……んく」
一滴も逃すまいと舐めるように舌を這わせて、そしてその行為を終える。
瞬間、彼は告げる、ただ一言。
「視ろ……黒天眼《イビル・アイ》」
瞬間、彼の目から紅い閃光が飛び出し空を駆ける! 空に昇る閃光の柱、それは魔法陣を引き裂いてそれでもなお昇って行く。果ては宇宙にすら届いたのでは……、そう思えるほどの光が空に走った。
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