神の使徒

ノベルバユーザー294933

第二十四話 「仕事探し」

次の日の昼過ぎ……。

気怠さの残る体で俺は寝台から起き上がり唸った。マジで辛い。……昨日の夜遅くまで彼と言い争いをしていたせいだ、寝てはいるが起きたのは昼過ぎで、どうにも体には負担や疲労が残っているようだ。

とりあえず、仕事の書類は……。
探していると異変に気付いた。あれ? 

あいつ……どこにいった?

リリエール・ヴィ・ヴラディティカール、彼の姿が部屋から消えていた。
間の後……

「うおおおおぉっ!」

ヤバいだろ、あいつまさか彼女の所へ行ったのか? 昨日の諍いの後に諦めて寝たかと思っていたら狸寝入りだったのか?!
と、とりあえず落ち着け……ま、まずは周囲を確認しよう。古臭い趣きのある室内、それを端から端まで見回して、確認。
いないな……。
ったく、面倒なことに、とりあえず、まずは役場で確認して……。あいつは追われる身だ(俺もだが)目立つようなことをするとは思えないけど。
俺は諦めにも似た感情のままで部屋の扉のノブに手を掛けた。
その瞬間、バァンッ!
と、勢い良く扉が開かれる。
唐突な出来事に俺は全く反応できず、引っ張られるようにして部屋から引きずり出され、ズザァァ!と廊下を転がるように滑った。

肌をゴリゴリ削りながら滑りそして停止する。痛みが後から徐々にやってきた。

「何してるの? 新しい遊び?」

そんな風にして聞き慣れた奴の声が上から降ってくる。……解せぬ。

「大の男が、部屋から飛び出す遊びなんてすると思うか? そもそも腕の関節が外れかけたんだが……」

「いや、真剣に返されるとこっちも困るんだけど。それで、どうするの役場に行くの?」

こいつ、しっかり俺の思考をリークしていたか。まぁ、いい。とりあえず何もしてないみたいだしな。

「仕事探しに行くぞ……」

「ふふ、はいはい♪」

そう俺は彼の返事を聞きながら体を起こして、外へ出る準備を再開するのだった。


聖王国の町「デュオ」の商業区画、
商業ギルドと一般的に言われる施設へと俺とリリエールはやってきた。幾つか紹介されていた内の多くがこの商業区画に集中していたためだ。日暮れまで時間もないので
その最も代表的な職種のギルド職員、といっても雑用なのだが、それでもこの世界の構造を知る場所としては最も最適だ。何せ場所も常識も知らない異世界人、無策で世界を散策するわけにもいくまい。
で、……面接を受けに来た訳だが。

「……今世界は暗黒時代へと突入している。我等の神へ祈るのだ! 終末を回避するにはそれしかない! 諸君、神へ祈りを捧げよ!」

そう叫ぶようにして修道服、あの聖域騎士団の少女とはまた違った服装の者達が声高に叫ぶ。宗教か……。
人の営みがあるなら宗教は切っても切り離せないからな。人は誰だって導く標を求めるものだ。誰だって正しい人生をより良く歩みたいと考える。その欲望に宗教は滑り込む。
本当に良くできている……。
俺はそんなことを感じながら遠くから彼らを見やる。

「なに? あれ?」

リリエールが興味深げに彼等へと視線を向けた。その口振りだと、あの集団が何なのか、よく分かってはいないようだ……。
そういう所に対する知識は無いのかよと思いながらも、説明する。

「宗教団体だよ。胡散臭い予言とか、悪霊祓いとか、まあ色々な方法で金儲けをする集団だな、ああいうのは関わらないのが鉄則だ」

「ふーん、へえぇ……幻視(オーディン)」

リリエールがそう呟くように告げると、目に幾何学的な紋様の魔法陣が浮かび上がる。それを通して彼はなにかを見始めた。

「ああ……これ誰かの見る情景をこの子達の誰かがトレースしたとかそんな感じかな? それで自分が……なるほどね……」

それから、突然独り言をブツブツ言い始め、俺は意味の分からない言葉の羅列に顔に困惑の表情を浮かべる。

「どうした?」

「んー? あはは、もういいよ。ちょっと愉しみの一つができた……そんな感じかな」

「よく分からんが行くぞ、今日中には一つぐらい面接を受けたいからな」

そう俺は言うと足早にギルドの受付まで歩いていくのだった。


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