神の使徒

ノベルバユーザー294933

第二十二話 「町にて②」

「これもいいかもね♪」

そんな弾む声で、自らを着飾っている少年、彼は黒を基調とする衣装を手にとってはまた別の衣装を選ぶということを繰り返している。とてもその様子は楽しそうだ。
……既に彼の頭の中には俺が服を買いに来たという事実は消えているのでは?
いや、そもそも彼はその気になれば服を魔法で創ることもできるのだ。
なぜ、わざわざ……。
そう思うが、別段見ていて不快に感じないので思い直して彼の気が済むまでそれを見守った。

しばらく物色していると、ようやく男物の服が集中している場所までやってこれた。
リリエールが先程と同じように服を物色しながら今度は俺の前で服を広げている。
なるほど、此方に似合う服を探してくれているらしい。
うむ……できれば派手さより耐久性が欲しいものであるが。
そして、服が決まったのか、リリエールが俺に向けて服を放って寄越す。
……黒い服だな、彼はその色が好きなようで、黒のシャツと長袖の上着、それと長ズボンと統一してくる。耐久性も触って見ればその分厚さが分かる。これなら俺の欲しい基準にも合っている。
満足ではあった。
決まれば後は早かった。店員へと向かい、買うことを告げる。
役場から支給された資金を消費して、俺はようやく新しい服を手に入れる。
着心地は少々ごわごわ感があるが、まあ、慣れない程ではない。

「う〜ん♪ 愉しかった、また行こうね」

「……できれば、次は時間短縮を頼む。流石にもう昼近いんじゃないか?」

「ふふ、それは無理かな? まだまだ見てみたいものは一杯あるからね」

あ、あれでも抑えてた方なのか……。

ちょっと戦慄した。
店を出れば、昇っていたばかりの太陽は俺の頭上にて輝いている。町の各所で点在している時計を見れば12時を回った所だ。
そろそろ、腹も減ってきてしまったので何か食べに行くか。
そうリリエールに提案すると。

「じゃあ、狩りしてお肉調達しようよ、お昼は焼き肉だよ!!」

「……まさか、これから行くつもりか?」

彼はそれに軽やかな笑みを浮かべた。
文句ある? と言わんばかりだ。
当然、ありません……。
まぁ、次の予定は、覚えたての魔法を使っての練習をするというものだった。まぁそれが目的 練習 → 焼き肉になるとは全然予測できなかったが……。

「とりあえず……行くか」

「だね♪」

俺は腹の空腹感と共に町の外へと向かって彼と共に歩き出した。


……現在、町の郊外にある広い平原へと来ていた。目的は当然肉の調達だ。
リリエールが魔法での索的を行い、この付近に獲物がいるとのことだ。

なら後は獲物を見つけて狩るのみ……。
楽観的に思ったその時だ。

「アオオオォオオォ━━」

平原一帯にその雄叫びは木霊した、それは現れる。犬……、いや狼か、ハフハフとした息遣いでは一見犬のようにも見えるが体の大きさが普通の犬とは一回り違う。
でかい……。
加えて、

「ガルるる……」

と、唸る声音がとても威圧的で怖いな。
戦ったら確実に殺られるだろう。

そんな狼の姿を見ながらもリリエールは涼しい顔で、手を翳す。

「フッ!」

言葉は口にしなかった。ただ呼吸のために息を吐いたその瞬間、彼の手から黒の稲妻《スコルピオ》だったか? 影の剣が何も無いところから出現して狼の脳天に突き刺さり、パタ……と獣は一撃で息絶えた。
それを確認して彼は俺へと向き直ると。

「一応殺せる類の魔物だね、これなら敦君でも楽勝かな」

「いや、おいおい……」

無理だろ? 俺はまだ魔法を発現させたばかりだ。楽勝な訳がないだろ?
だが、リリエールはお構いなしだ。

「とりあえず、僕は見物させてもらうよ。危なくなったら助けてあげるから、自力で倒してみてね♪」

「無理だろっ!」

そう俺が声をあげた瞬間……。

「「「「アオオオォオオー」」」」

先程の遠吠えが再び鳴り響く。その重奏は推定でも二、三匹では収まらない……。
疾走する姿が周囲に見えた、いや、見えたは言い過ぎた、その姿は速すぎて視認できないので音が確認できただけだ。

狼の群体は此方を伺うように周囲を回り始めた。狙いを定めているのだろうか……。
警戒しながら見ていると、群れから突出した狼が此方に目掛けて走ってくる。その後ろには更に数匹の狼。
来るか……。

「ガルッるる!」

吠えながら狼が飛びかかり俺の首目掛けて噛み付いてくる……!
こいつ! 首を掻っ切るつもりか!
嘘だろ?!

「くそッ……!」

声を上げて、俺は腕を盾のように前に構えた。だが、狼の牙が迫り来る中で気付く、これは失敗だったと……。

俺の目の前で、肉の潰れた音が聞こえた。

「ああぁあっあ!」

激痛が走り、我も忘れて狼を振り払おうとガムシャラに腕を振るった。それでなんとか払い除けることができたが、振り払われて投げられた狼は地面を滑り転がるを繰り返した後に、何事もなかったかのようにまた立ち上がった。
此方を睨み、首を振るった後……また走り出して群れの中に消える。おそらく今度は別の個体が来るだろう。
じっくり獲物(俺)をいたぶるつもりか……。

「畜生がっ!」

俺は痛みと怒りに闘志を燃やして魔法という概念を手にイメージし放った。目にも止まらない勢いで魔法の塊、光の魔力の塊は目的地に到達して爆発する。

ドゥンッ!

だが、それは完全に目標からは的外れだ。標的は既にその場所から退いている。
どこに……、探そうと音のする方へ目を走らせると背中に衝撃を感じて俺はヨロヨロとその場に崩れ落ちる。

「ガウッ!」

と狼がトドメを刺そうと牙を剥き出しにする、こいつ、先の魔法を群れに向けて放つ間に既に接近して襲ってきていたのだ。
まずい……。

あ、死ぬ。そう思った。

「邪魔だよ」

パチンッと指音が響く……。
それと共に黒い槍が飛び出し、俺の上に乗った狼を吹き飛ばす。
はは……、俺は乾いた笑いをこぼす。
確かに言葉通りだ。事前に彼は言った、危なくなったら助けてあげると……。有言実行ありがとう。でもできればもっと早く助けをくれよ。
そう思うが、彼が俺を助けたのはそれ一撃だけで獣は勢いを取り戻して再び襲ってくる。むしろ仲間が殺されたことで更に殺気と執拗さが増した気がするのは俺の気のせいだと思いたい。

「爆ぜろッ!」

俺は立ち上がって、なんとか体勢を立て直すと、狼の群れに光の魔法を使い手当たり次第に魔法を連発する。これなら……数匹は狩れているはずっ!

「はぁ? っ……!」

甘い期待だった。
俺が怒りに任せて悲鳴に近い声をあげると同時……。狼の群れが地面から顔を覗かせる。奴等は、今のを避けたのか……。
それも、穴を掘ったのか地中の中に隠れていたのだ。

畜生!さっさと死ねよっ!

心の中で悪態を吐いて、俺は再び魔法を放とうと光の魔力を集めた、だがそこで異変が生じた。
体から突然力が抜けてその場に倒れてしまったのだ。

っ……? いきなり、なんなんだよ。

視界の端では狼がとどめを刺すために此方に向けて駆け出している。
牙が迫る。なんの抵抗すらできずに。

ヤバい……。

「ここまでかな? いいよ。あとは僕が殺るから……」

牙が爪が襲い掛かるその寸前、危険を察知した彼はそれを許さない……。
リリエール、彼の影から伸びるようにして黒い槍が這い出るように出現していく。
その槍が狼を貫いた。

はは、頼もし過ぎる……。そう思うも束の間俺は睡魔に襲われて瞼を閉じた。


「ん……」

重たい瞼を起こして目を開けると、空は既に夕焼け模様となっていた。もうこんな時間か……。
そう考えていると、鼻孔をくすぐるかのようにいい匂いが、こんがりと肉の焼けたいい匂いが漂ってくる。

「俺は……随分寝ていたみたいだな、もう夕方かよ、やっぱり、俺には無理だったろ? もう少し練習してから本番にしよう──」

言葉が途切れる。
俺の目に焼き付けられるような光景が広がる。必死の形相。何がこの獣を駆り立てたのか、頭だけになった狼が、俺を憎々しげに見つめていた。べっとりと地面には血糊も着いている。それはまさしく怨念とでも言い表せるかのような……凄絶さを物語っていた。

「ひぃ……!」

ホラー映画真っ青な光景が広がって、俺は恐怖でその場で体勢を崩して転がった。

「ああ、起きた? ゴメンね、ちょっと片付けに手間取ってね。その子、さっきまで抵抗していてさ、始末するのに時間が掛かったんだ。でも、他のお肉は時間は掛からなかったから、ハイこれ♪」

「……肉はやめてくれ、喰えん」

そう俺は告げて肉を避ける。
流石に死体を見ながら食べるなんてできない。

「ええ、美味しいのに……」

残念そうに彼は俺に渡そうとした肉にかぶりつく。お前、目の前にコレがあってよく食えるな。

「それで? なんなんだ、この惨状は……」

「だから、さっきも言ったでしょ? その子が抵抗したんだよ。この惨状はそれで起きたんだ。そもそも、君があんな所で魔力疲労で倒れるからだよ?」

 魔力疲労……? 確かに、あの体の倦怠感は、数も正確には覚えていないがデタラメに魔力の塊を撃ちまくった後に起こったけど、原因が魔力の使い過ぎと……。

「次は魔力の消費を抑えながらの立ち回りをおぼえないとね♪」

「いや、待てよ。そのためにあんなヤバい群れの相手をさせるなよ! 死ぬぞ!」

「大丈夫だって、さっきみたいに死ぬ前に助けるからさ」

「……いやほんと、はぁ……わかったよやればいいんだろ、やれば……」

俺はふて腐れて告げる。
言っても恐らくは彼はこの方法を続けるだろう。なら、もう諦めて、少しでも魔法の使い方に慣れる方がいい。
彼はそんな俺の考えを読み取りにこやかな笑みを浮かべた。

「でも、無理はさせないよ。今日は日も暮れて来たし、そろそろ町に戻ろうか……」

「ああ、そうしてくれ、それと最後に役場に寄るぞ、色々役場で聞きたいこともあるんだ」

俺は、そう彼に言うのだった。


夕焼け空の下にて、昼間のあの喧騒さが嘘のように店じまいを始める町の人々。
そんな様子を流し見ながら、ようやく最後の目的地へと辿り着く、ああ、長かった、本来ならもっと早く到着するつもりが、途中命懸けの事もあり、予定よりもかなりずれ込んだ。
いや、あれもまた必要ではあったけれど。
俺は経年劣化での錆び音の目立つ扉をゆっくりと開く。なんとなく、こんな時間での再訪問に遠慮があった……。なにせ、俺の隣には世間様一般に知られるとマズイ案件が我が物顔でにこやかな笑みを浮かべているから。
目立ちたくない……、いや、どこの時間に行こうともそうなるのだけれどね……。
ああ、もういいや、俺は聞くべきことを聞くために施設内へと入る。

「あら? こんな遅くにどうかなされましたか?」

そう言って、にこやかな営業スマイルを浮かべた赤い髪の少女が俺の対応をしてくれた。
俺よりも年若い少女、その誰に対しても物怖じしない対応の仕方に俺は思う……、コミュ《力》の怪物、その片鱗を……。俺は生前口下手が災いして、それが時折問題となることもあった……。思い出したくもないが……。
なんにせよ、要件を言ってしまおう。折角来たからな。

「ええと、俺は異世界人で、最近この世界に来たんだけど……。此処は仕事の斡旋などもしてくれると言われていたんだ? そのもし都合が悪ければ出直すけど……」

「はい、わかりました。只今担当者をお呼びしますね。暫くあちらにてお待ち下さい」

そう示されたのは昨日来た、異世界人課・総連事務課のプレートの掛けられたカウンターテーブルだ、俺達は言われるがままに椅子に腰掛けて待つのだった。























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