神の使徒

ノベルバユーザー294933

第二十話 「宿」

「さあ、今週もやって参りました! 
 どこにでも狩りに行こうぜ!《どこ狩り!》 
 はーい♪ 皆のアイドル! ナナリーです♪ さあて今回のどこ狩り!に協力してくれたのは、今や若者世代にとっての夢の職業「冒険者」ですが、その中でも指折りの実力者《月の導師》の二つ名を持つルナリア・コリジーさんに来ていただきました! パチパチ(拍手)ではではコリジ―さんと共に百獣の頂点に君臨せし獰猛な獣!『魔物』を狩りたいと思います!」
 
 そう、テレビリポーターと思しき存在が、箱型テレビ?に映っている。前の世界ではよくあるドキュメンタリー番組に似たような構成をしているようで中々面白い。登場人物の紹介や今回狩る魔物についても詳細な情報を流している。にしても、驚いた魔導具とはな。

 いや異世界人が多数流入してきているなら、そういった技術力もあるのだろうとは思ってはいたが、現実で見るととんでもない。凄すぎて、逆に自然体になって俺は手元にあるラーメンを啜った。いや異世界やばいな。ほぼ元の世界と同じで、どこかのパラレルワールドにでも迷い込んだのかと思うほどだ。
 それで……。

「凄いねぇ。なんか目が覚めたら違う世界に迷い込んだみたいだよ♪」
 
 物珍しそうに、リリエールが自身のラーメンの麺が伸びることなどお構いなしに魔道具のテレビに見入っていた。あ、ちょうどルナリア・コルデーとかいう人物が、二メートルはあろう大剣を力任せに振り回して魔物、あの大森林にいたリリエールが駆逐しまくって肉の残骸にしていた生物(魔物)と迫力満点の戦いを繰り広げていた。良い所でリリエールの黒髪頭がテレビ画面の八割を消してしまうが、まあいい……。
 俺はラーメンを啜った。

 俺達はあの窓口で受付の大柄な男、筋肉さん(名前は聞き忘れた)にお金を支給金ということで貰い一週間の静養に入ったのだ。まあ一週間したら働かなければいけなくなるんだが。その時になったら彼を訪ねに来いと言われている。
 そして俺達は町を散策し、人の溢れている店を発見して、食べ物関連の店かと中を覗き、店主に聞かれ自分異世界人ですと言うと、少なからず貨幣とかは勝手に計算してもらい、初心者異世界人さんならまずこれ食いねと言われて出されたのが、目の前で湯気を立てるラーメンだった。うん、故郷の塩ラーメンだ。
 そして何より驚いたのが店内にあるテレビの存在で大勢の人々がそれを見ようと詰め掛けている。普及はしているが、大金でしか買えないので個人での所有は富豪や商売人ではないと無理らしい。量産化によるコスト削減という言葉が頭に浮かんできたのは言うまでもない。
 ただそれにリリエールがかなり興味を引かれたのは意外だった。そういうのは興味なさそうだと思っていた勝手にな。今も椅子から立ち上がってジッと映り込む映像を凝視していた。
 
「あれってさ、どういう意図でやっているの?」
 
「え? 今映っている人達のことか? うーんまぁ色々あるが、要は見ている俺達を楽しませるためにやっているんだよ。」
 
「うーん……ごめん意味ちょっとわからないかな。あの子たち危険だよ。下手すれば死ぬ危険もあるんだけど? なのにどうして戦うのかな?」
 
 ああ、つまり危険な戦いに挑む人間心理が分からない的な? コストパフォーマンスに見合わないとかそんな感じか?

「いずれ会ったときに聞いてみたらどうだ?」

 俺はとりあえずその質問は避けた。それは俺も分からないからな。自ら危険に挑むなんて非生産的だ。

「……」

 ずるずる、と俺はラーメンを無言で啜る。
 リリエールも無言で何か考えるようにして伸び始めたラーメンをズルズル美味そうに食べ始めた。
 
「う~ん♪ これ美味しいね」

 そう彼は店主に告げて店主は少し照れた様子でありがとよと礼を述べた。
 俺は一通りのラーメンを汁まで飲み干してからグッと伸びをすると、リリエールも同じく食べ終わり、って早いな食べるの! 俺達は店主に礼を言って席を立った。
 さて腹ごなしもしたし、次はやはり……。

「やっぱり風呂に入りたいな、できればシャワーとか……」
 
「水浴びってこと? スンスン……まあ確かに臭うかな」
 
 リリエールが俺の臭いを嗅いでそう言う、やはり他人が嗅ぐとそれは如実に現れるか。でもちょっと傷つく……。
 
「……だろ? どっか宿でも探すか。しまったな。店主さんに聞いとけば良かった」

 そう俺は思い至り、一度店へと戻ろうとした時だ、俺の服を誰かが掴んだ。強い感じで引っ張られたのでなんだろうと思ったら。そこには一人の少女が立っている。可愛い感じの……。な、なんだ? まさか痴漢詐欺か……。

「ふふ、お兄さん、宿をお探しですか? でしたら、うちの宿に泊まりませんか? 今ならお安くしときますよ♪」

「え?」
 
 身なりはとてもいい。それもかなりの高級品で身を整えている。どこかの店の客引きなかな? 確かにこの通りには色々店があるから、宿屋もあるのだろう。これならわざわざ此方を騙して所持品を奪うなんて物盗りとは思えないし別にいいか……。まさかぼったくり宿屋なぁんて……。でも許す! 可愛いもん! そう俺が彼女の手に引かれて連れていかれようとすると。

 ガッ!

 と、彼女の手を掴む形でリリエールがいつの間にか現れて告げた。

「……ねぇ君、その手を離してくれないかな……?」

 リリエール、彼の言葉はとても優しく響いた。しかしその紅い目が少女を見下ろし、それを視た少女が膝から力なくその場に崩れ落ちる。えぇ? ど、どういうこと? いや、リリエールが何かしたのだと思われるが……。
 俺は倒れた少女を抱えて尻もちを着かないように支えると。

「だ、大丈夫か?」

「ひうっ! すみませんでした! お求めの宿でしたら! 格安のホテル『シュプラー』がありますのでどうぞそちらにィ!」

 そう告げた少女は脱兎の如くでその場から走り出した。えっと、どういうことだ? なぜ謝られたんだ? しかも宿の名前まで言いながら走っていってしまった。
 
「なにしたんだよ?」

「さぁね、でもホテル『シュプラー』ね。折角だからそこ行こっか?」
 
 え、待てよ。なんでホテルとかあるんですか。此処は何処? 異世界だよな? ホテルってビル的なものを想像してしまうが。周囲を見ても立ち並ぶビル群のようなものは存在しない、せいぜいあっても三階建ての役場のような建物だ。こっちは日本でいう旅館みたいなものをホテルというんだろうか?

「とりあえずぶらぶら歩きながら探すか」

「そうだね。あとさ、もう二、三何か食べたいかな」

「まだ食べるのかよ?」
 
 俺はさっきのラーメンで結構お腹いっぱいだ。

「食後のデザートだよ。そこの出店とかで色々食べ歩きで食べられそうなものもあるみたいだし」
 
 そう通りで開く幾つかの出店を俺は眺める。美味そうではあるが、俺は食えんぞ。
 
「あんまり贅沢はできないからな、今日だけだぞ」

「ふふ、はーい♪」
 
 そう彼は嬉しそうに笑った。
 それから暫く、俺はリリエールと町でぶらぶらしてから道行く人にホテルについて聞いていく。
 対応は様々だ。知ってるという者、知っているけど行くなら別の場所をと提示する者だ。
 色々聞いてまずはホテル『シュプラー』を見てからにするか。そう俺は判断してリリエールを連れて町の西側にある、商業施設のひしめく場所。ホテルとは名ばかりの寂れた旅館へと辿り着いた。これがホテル、ザ・普通。
 
「行くか」

「う……んっ……」

 リリエールはさっき買った食べ歩きできる串焼き肉を頬張り噛み砕きながら、ふむふむと旅館を眺める。
 中に入ると閑散とした室内ではあるが、ちらほらと客であろう人間がいた。
 彼等の服装は和装、浴衣だ。元の世界が混ざってやがる……。そう思いながら受付に俺達は向かう。
 受付に辿り着くとそこには年若い男性店員が座っていた。ただし本を読んでいる、此方には一度たりとも見てこない、背表紙から見るにラノベっぽい。
 熟読者め!
 
「ええと、いいかな?」
 
 俺はとりあえず彼に尋ねてみる。

「あ? 客かい?」

「二人だ、格安と聞いて来たんだけど」

 そう告げて店員は俺とリリエールを一瞥し、鍵をカウンターから取り出した。古い鍵だ。

「料金は一日で銅貨十だ。風呂は午前七時~午後九時まで、食事は食堂でこっちは別料金だ、嫌なら他を当たれ」

 本を見ながら青年は告げる。凄いな……。本のページを捲りながら言ってる。前の世界だと怒鳴られるぞ。
 いや、一応やることは、やっているんだけど。
 まあなんにせよ。風呂だ! しかも確かに少女の言った通り格安料金だ。
  
「なら頼む、これでいいか? 二十枚で」

「……おい、そりゃ銀貨だ。だったら一枚でいいよ。それでも多いが後はサービスで貰っといてやる」

 正気か? お釣り寄越せよ。
 
「うーん、一週間滞在するつもりだし。むしろ少ないんじゃないかな?」
 
「あん? 一週間ね。なら先に言えよ、銀貨五枚だ」

 そう青年はぶつぶつ言いながら、袋から銀貨を五枚取り出して、鍵を放って来た。態度悪いぞ……こいつ。
 それにしても、レートが分かんないから毎回釣り銭が分からない、結構恐いことの綱渡りをしている自覚はあるつもりだ。把握はできてきたが、やはり正確な数字を教えて欲しい。不安を払拭するためにも明日にでも役場に寄って聞くとするか、それについでに仕事も紹介してもらうかな……。

「……行くか」

「そうだね」

 そう俺達は鍵を持って歩き出した。
 鍵にはタグが付けられており、そこには005と書かれている。五号室ということか……。場所がいまいち把握できなかったが……。
 案内板がカウンターの壁に掛けられていたのでそれを覚えて部屋にはすぐに到着することができた。貸してもらえた部屋は二階で間取りは中々なもの二人の人間が一週間生活するには十分なスペースだ。
 質素な寝台だが眠るという行為をするには十分。
 ふふ、やばい、見た瞬間、寝台にダイブしたい心情に駆られたが、まあまずは風呂だ。今は旅?(遭難?)の疲れを癒すとしよう。
 俺達は私物(盗んだ騎士達の荷物)を置いて風呂へと向かうのだった。

 

 
 

  
 
 
 

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