神の使徒
第十九話 「権利」
「それではまず、こちらにご記入を氏名と生年月日をお書きください」
そう俺の目の前に一枚の紙が置かれる。そこには異世界人滞在許可証と書かれてある。ちょ、本当に役所みたいに見える、異世界なのにやけに現代風だ。
訳が分からないままに紙と男を見比べていると。
男は告げた。
「多くの異世界人の来訪によってこの世界は未曽有の発展を遂げました。それに伴い、各国は異世界人の管理と安全を保障することになったのです。この世界において異世界の知識は巨万の富を生みます。また悪しき災いの根源にもなりえます。正しい者、悪い者、どちらも目の届く場所にいてもらう。
不必要な混乱を起こさないということです。異世界から渡り来る方たちはそれを皆知っています。貴方はどうでしょうか?」
無言の圧力、書け、書くよな? と脅迫している。
いや、確かに小説であるよな異世界へ転移した奴等は強力な力、または膨大な知識で無双していくといった。だが安心して欲しい。俺は違う。
俺は違うんだぞ。それははっきりしている。
「もちろん、良いですよ」
俺はインクペンを手にそれを書類の記入欄に名前と生年月日を書いた。
それを男へとよく見えるように返して男はそれを見ながらウムと難しい顔をしながら頷いた。
どこからか取り出したのか、もう一枚の紙と見比べている。
「では、簡単な質問から、これは?」
そう男が示してきたのは、一枚の写真だった。日本、かつて俺の住んでいた町の写真、それが写真として残っていたのだ。
一瞬、はっと息を呑む。まさか嘘だろ。そんなのあるのかよ……。
「では此処に映るこれは名前はなんといいますか?」
「スカイツリーだろ?」
今や日本の誇る電波塔。東京スカイツリー。
「その通りです、しかし、見せた当初の反応から既に異世界人として確定はしていました。書類の方も書式に間違いはありません。我々の世界でも少なからず騙る者がいますが、大概が書類審査で落ちますが……」
「なるほど、でも結構今のだけなら通る奴もいそうじゃないか?」
「いえ、書類審査にも更新日がありますので、その当日には他の異世界人の方々も来ます、そういった方と話などするだけで一発でばれます」
「抜かりもないと」
まあ一緒くたにすれば久しぶりの望郷話に少しは話もするか、むしろそれを生業にして稼いでいる奴もいるかもしれない。騙る奴を炙り出して国から金を受け取る的な?
どっちにしても随分この世界はかつての世界とよく馴染んでいる。リリエール、彼の言った通り、多くの異世界人がこの世界に訪れているようだ。
と、そこで俺は思い出した。
そして向こうも気付く。
後ろで俺達の様子を眺めている、魔神リリエールの存在に……。
「そちらの方は? 貴方のお連れの方ですか?」
「ああ、前の世界から一緒にこの世界に来たんだ」
「なるほど、では貴方もどうぞ此方に名前をお書き下さい」
ムムム……。俺は渋い顔をした。
やばい、それはやばい。
俺は焦ったが、彼は特段取り乱した様子もなくペンを受け取り、書類に走らせる。思い切り……自分の名前を。
『リリエール・ヴィ・ヴラディティカール』
はは、やっちまったな。
しかも魔神として、知られているであろう名前を書くのか……。そこは偽名とかなにかあったんじゃないですか? いやもうこの期に及んで何も言うまい。
「はい、よろしいですよ」
「んん!」
正直大丈夫か? お前いいのか! いいんですか! と言いたくなった。
ただ、書類審査は順調に進み、無事にリリエールもなぜか異世界人登録が完了されてしまった。一体どうなっているんだ?
俺が困惑していると。
頭にリリエールの声が響く。
「彼には《暗闇》をかけておいたんだ。僕の名前を異世界人の名前だと彼は認識する訳さ」
なるほど、でたらめな技を使ったと。ま、この際この場が乗り切れるならなんでもいい。そう俺は結論した。
「ではお二人には此方の二枚のプレートを。これをお持ちであるなら各国での援助を受けられます。資金援助や職業の斡旋など、頼めば無理なくできる範囲で。ただ、その代り、重大な責任がお二方には伴います。これは異世界人全員の責任、信用です。この世界での過度な行いと判断されれば貴方達はこの世界全ての敵と認識され、遠からず排除されます。ですから……節度ある行動をお願いします」
……厳かな声で彼は言い放った。
異世界人、この世界では重宝されてもいるが危険分子として危険視されてもいると、嫌なものだ、そういう責任って俺は一番嫌いな言葉だ。
……重過ぎるから。
なにはともあれ、俺は晴れてこの世界の住人としての権利を得た。重い枷もあるが、リリエール、彼に問題行動を起こさせなければ、ひとまずは安心だろう。
早速俺は彼へと尋ねる。まず聞くべきは……。
「お金貸してください。何か食べたいです」
だった。分かっているか? 俺は今まで肉食してたんだよ。お風呂にも入りたいよ。野宿はもういい。頼むから……。
今までの不満も乗せて俺は男へと告げる。
彼はちょっと驚いた様子で頷き。
「では一週間分の資金を提供します。とりあえず、まずはゆっくりなさってください。それから……話をしましょう。これからについて……」
そう告げて貨幣の入る袋を机に置いたのだった。
そう俺の目の前に一枚の紙が置かれる。そこには異世界人滞在許可証と書かれてある。ちょ、本当に役所みたいに見える、異世界なのにやけに現代風だ。
訳が分からないままに紙と男を見比べていると。
男は告げた。
「多くの異世界人の来訪によってこの世界は未曽有の発展を遂げました。それに伴い、各国は異世界人の管理と安全を保障することになったのです。この世界において異世界の知識は巨万の富を生みます。また悪しき災いの根源にもなりえます。正しい者、悪い者、どちらも目の届く場所にいてもらう。
不必要な混乱を起こさないということです。異世界から渡り来る方たちはそれを皆知っています。貴方はどうでしょうか?」
無言の圧力、書け、書くよな? と脅迫している。
いや、確かに小説であるよな異世界へ転移した奴等は強力な力、または膨大な知識で無双していくといった。だが安心して欲しい。俺は違う。
俺は違うんだぞ。それははっきりしている。
「もちろん、良いですよ」
俺はインクペンを手にそれを書類の記入欄に名前と生年月日を書いた。
それを男へとよく見えるように返して男はそれを見ながらウムと難しい顔をしながら頷いた。
どこからか取り出したのか、もう一枚の紙と見比べている。
「では、簡単な質問から、これは?」
そう男が示してきたのは、一枚の写真だった。日本、かつて俺の住んでいた町の写真、それが写真として残っていたのだ。
一瞬、はっと息を呑む。まさか嘘だろ。そんなのあるのかよ……。
「では此処に映るこれは名前はなんといいますか?」
「スカイツリーだろ?」
今や日本の誇る電波塔。東京スカイツリー。
「その通りです、しかし、見せた当初の反応から既に異世界人として確定はしていました。書類の方も書式に間違いはありません。我々の世界でも少なからず騙る者がいますが、大概が書類審査で落ちますが……」
「なるほど、でも結構今のだけなら通る奴もいそうじゃないか?」
「いえ、書類審査にも更新日がありますので、その当日には他の異世界人の方々も来ます、そういった方と話などするだけで一発でばれます」
「抜かりもないと」
まあ一緒くたにすれば久しぶりの望郷話に少しは話もするか、むしろそれを生業にして稼いでいる奴もいるかもしれない。騙る奴を炙り出して国から金を受け取る的な?
どっちにしても随分この世界はかつての世界とよく馴染んでいる。リリエール、彼の言った通り、多くの異世界人がこの世界に訪れているようだ。
と、そこで俺は思い出した。
そして向こうも気付く。
後ろで俺達の様子を眺めている、魔神リリエールの存在に……。
「そちらの方は? 貴方のお連れの方ですか?」
「ああ、前の世界から一緒にこの世界に来たんだ」
「なるほど、では貴方もどうぞ此方に名前をお書き下さい」
ムムム……。俺は渋い顔をした。
やばい、それはやばい。
俺は焦ったが、彼は特段取り乱した様子もなくペンを受け取り、書類に走らせる。思い切り……自分の名前を。
『リリエール・ヴィ・ヴラディティカール』
はは、やっちまったな。
しかも魔神として、知られているであろう名前を書くのか……。そこは偽名とかなにかあったんじゃないですか? いやもうこの期に及んで何も言うまい。
「はい、よろしいですよ」
「んん!」
正直大丈夫か? お前いいのか! いいんですか! と言いたくなった。
ただ、書類審査は順調に進み、無事にリリエールもなぜか異世界人登録が完了されてしまった。一体どうなっているんだ?
俺が困惑していると。
頭にリリエールの声が響く。
「彼には《暗闇》をかけておいたんだ。僕の名前を異世界人の名前だと彼は認識する訳さ」
なるほど、でたらめな技を使ったと。ま、この際この場が乗り切れるならなんでもいい。そう俺は結論した。
「ではお二人には此方の二枚のプレートを。これをお持ちであるなら各国での援助を受けられます。資金援助や職業の斡旋など、頼めば無理なくできる範囲で。ただ、その代り、重大な責任がお二方には伴います。これは異世界人全員の責任、信用です。この世界での過度な行いと判断されれば貴方達はこの世界全ての敵と認識され、遠からず排除されます。ですから……節度ある行動をお願いします」
……厳かな声で彼は言い放った。
異世界人、この世界では重宝されてもいるが危険分子として危険視されてもいると、嫌なものだ、そういう責任って俺は一番嫌いな言葉だ。
……重過ぎるから。
なにはともあれ、俺は晴れてこの世界の住人としての権利を得た。重い枷もあるが、リリエール、彼に問題行動を起こさせなければ、ひとまずは安心だろう。
早速俺は彼へと尋ねる。まず聞くべきは……。
「お金貸してください。何か食べたいです」
だった。分かっているか? 俺は今まで肉食してたんだよ。お風呂にも入りたいよ。野宿はもういい。頼むから……。
今までの不満も乗せて俺は男へと告げる。
彼はちょっと驚いた様子で頷き。
「では一週間分の資金を提供します。とりあえず、まずはゆっくりなさってください。それから……話をしましょう。これからについて……」
そう告げて貨幣の入る袋を机に置いたのだった。
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