神の使徒
第十三話「追われる者」
それは…本当に唐突だった。
異世界特有の異質な力、魔法…俺の属性は光だったが、魔神リリエール・ヴィ・ブラディティカールによって発現し、その力に振り回され一日を無駄に疲れさせながらも目的地へと着実に近づいていた頃だった。
今日もまた、日は沈み、夜が来る…宵闇の中で焚き火を見つめながら、動く肉を見つめていると唐突に変な音が夜の森の中に響く。
ヒュンヒュンという今まで聞いたこともないような音、その音はゆっくり、しかし着実に大きくなっていた。
「なんだ?」
「…この音…なに?」
リリエールは吐き捨てるように言うとすぐさまに焚き火の炎を消して辺りを完全な暗闇へと変える。
俺は闇の中で彼の近くへ寄るとそこで息を潜める。
何か…脅威的な生き物でもいるのか?
そもそもこの森の中で生き物を見たことはない。この手に持っている串焼き肉もリリエールがどこからともなく持ってきたものだ…。
俺は串についた肉を食べてゴクリと飲み込む。
「しっ、静かに…」
彼はたしなめるように告げると、息継ぎを数回深く行う。
そして、音が走り抜けた。
ヒュンヒュンヒュン!
と、唸るような音の正体が目の前を駆け抜けていく。それは長いフォルムに二つのタイヤ、しかも宙に浮かんでいる機械仕掛けの乗り物。俺はそれをよく理解した。
この世界にあれが再現できていたのかと疑うほど、むしろかなり芸術的な一品。
「バイク…だと…」
「………っ! 伏せて!」
リリエールが俺の頭を思い切り地面にめり込む程に下げた…ぶべぇ、と声をあげると同時に頭の上、そこを数台のバイクが通過していった。一台だけじゃないのか!
俺は慌ただしい珍客の登場に少し苛立ちを覚えつつリリエールへと話しを振る。
「で、あれなんでこんな森の中を突っ走るの? アホなのか? 木にぶつかって死ぬぞ?」
「そうでもないみたいだよ…」
彼が言うと視線の先にいるバイクがちょうど木に激突寸前だった時だ、終わったな…そう思った瞬間、バイクが風に舞うようにして木を避けたのだ。運転技術…? それでは説明できないほどの動きだったが。
「風の魔法を付与された魔道具だね。
アレは、障害物を認識した瞬間、風を纏わせて激突した時の緩衝材にしているんだ。確かにそれなら夜中に気にせずに走れるわけだ」
「そうだ、それこそが、我等聖域騎士団の神子様が御力!」
野太い声が夜の闇の中に響く。
その瞬間、男が真上から降って来た。巨大な大剣が容赦なく振り下ろされる。
「うぉ、まじかよ!」
「また君か…邪魔だよ!」
黒い稲妻の剣それが即座にリリエールの手に現れると、男を狙って斬り掛かった。
「来い!」
騎士団長の声に反応するようにしてバイクが風鳴りのようなエンジン音を響かせて猛然と向かってきた。
ガンッ! と嫌な音が鳴ると同時、リリエールがバイクによって引かれ、そのまま…。
「リリエールっ!」
声を荒げて彼の方へと目を向けて、俺は騎士団長の男を睨む。
「お前っ! なんでこんなことを! 確かに俺達はお前らを襲ったさ! だけどここまでされる必要はないんじゃないか! 確かに盗みもした! 返す! これは返すから…!」
「黙れ…魔神を解放した時点でお前は咎人、罪人だ。弁明もなにも必要ない。ただ死ね」
男は剣を無造作に振り下ろした…。
ヤラれる! そう身構えた時だ。
「痛っいなぁもう…《影剣》スコルピオ!」
闇の中から苛立った声と共にムクリと影が起き上がるとその手から黒い剣、稲妻が夜の闇を走り抜け漆黒の光が辺り照らす。
「ちっ………!」
大剣を盾の用量で構えて向かって来た影剣を受け止めた…。そうして耐え、剣の雨が途切れた後にふぅと呼吸を深くして男は剣を構え直した。その直後彼の目の前、いや足下から…。
「今度君の番だからね? ボコボコにして生きてることを後悔させてあげるっ!」
その言葉はまさしく本当になった。
騎士団長が次の瞬間、リリエールの拳で吹き飛ばされた。続き、追撃して鳩尾に三連激、顎に向けてアッパーカット、そのまま今度は思い切り蹴りを叩き込んで地上に落とす。
「まだまだ♪」
「くっ!」
騎士団長は苦々しく顔を歪めて、
………だが、そこでニヤリと笑みを浮かべる。
そういえば、あれだけいたはずの他の兵士達は一体どこへ? 一騎討ちのつもりなのか?
だがそれならどうして俺を襲ってこない。俺は手空き状態だ。今なら簡単に殺される自信がある。男の余裕のある笑み…俺は恐怖を覚えた。
「何か…変だ」
そして男は告げる。
「《獄域》」
その言葉が響くと共に全てが光に包まれた。
異世界特有の異質な力、魔法…俺の属性は光だったが、魔神リリエール・ヴィ・ブラディティカールによって発現し、その力に振り回され一日を無駄に疲れさせながらも目的地へと着実に近づいていた頃だった。
今日もまた、日は沈み、夜が来る…宵闇の中で焚き火を見つめながら、動く肉を見つめていると唐突に変な音が夜の森の中に響く。
ヒュンヒュンという今まで聞いたこともないような音、その音はゆっくり、しかし着実に大きくなっていた。
「なんだ?」
「…この音…なに?」
リリエールは吐き捨てるように言うとすぐさまに焚き火の炎を消して辺りを完全な暗闇へと変える。
俺は闇の中で彼の近くへ寄るとそこで息を潜める。
何か…脅威的な生き物でもいるのか?
そもそもこの森の中で生き物を見たことはない。この手に持っている串焼き肉もリリエールがどこからともなく持ってきたものだ…。
俺は串についた肉を食べてゴクリと飲み込む。
「しっ、静かに…」
彼はたしなめるように告げると、息継ぎを数回深く行う。
そして、音が走り抜けた。
ヒュンヒュンヒュン!
と、唸るような音の正体が目の前を駆け抜けていく。それは長いフォルムに二つのタイヤ、しかも宙に浮かんでいる機械仕掛けの乗り物。俺はそれをよく理解した。
この世界にあれが再現できていたのかと疑うほど、むしろかなり芸術的な一品。
「バイク…だと…」
「………っ! 伏せて!」
リリエールが俺の頭を思い切り地面にめり込む程に下げた…ぶべぇ、と声をあげると同時に頭の上、そこを数台のバイクが通過していった。一台だけじゃないのか!
俺は慌ただしい珍客の登場に少し苛立ちを覚えつつリリエールへと話しを振る。
「で、あれなんでこんな森の中を突っ走るの? アホなのか? 木にぶつかって死ぬぞ?」
「そうでもないみたいだよ…」
彼が言うと視線の先にいるバイクがちょうど木に激突寸前だった時だ、終わったな…そう思った瞬間、バイクが風に舞うようにして木を避けたのだ。運転技術…? それでは説明できないほどの動きだったが。
「風の魔法を付与された魔道具だね。
アレは、障害物を認識した瞬間、風を纏わせて激突した時の緩衝材にしているんだ。確かにそれなら夜中に気にせずに走れるわけだ」
「そうだ、それこそが、我等聖域騎士団の神子様が御力!」
野太い声が夜の闇の中に響く。
その瞬間、男が真上から降って来た。巨大な大剣が容赦なく振り下ろされる。
「うぉ、まじかよ!」
「また君か…邪魔だよ!」
黒い稲妻の剣それが即座にリリエールの手に現れると、男を狙って斬り掛かった。
「来い!」
騎士団長の声に反応するようにしてバイクが風鳴りのようなエンジン音を響かせて猛然と向かってきた。
ガンッ! と嫌な音が鳴ると同時、リリエールがバイクによって引かれ、そのまま…。
「リリエールっ!」
声を荒げて彼の方へと目を向けて、俺は騎士団長の男を睨む。
「お前っ! なんでこんなことを! 確かに俺達はお前らを襲ったさ! だけどここまでされる必要はないんじゃないか! 確かに盗みもした! 返す! これは返すから…!」
「黙れ…魔神を解放した時点でお前は咎人、罪人だ。弁明もなにも必要ない。ただ死ね」
男は剣を無造作に振り下ろした…。
ヤラれる! そう身構えた時だ。
「痛っいなぁもう…《影剣》スコルピオ!」
闇の中から苛立った声と共にムクリと影が起き上がるとその手から黒い剣、稲妻が夜の闇を走り抜け漆黒の光が辺り照らす。
「ちっ………!」
大剣を盾の用量で構えて向かって来た影剣を受け止めた…。そうして耐え、剣の雨が途切れた後にふぅと呼吸を深くして男は剣を構え直した。その直後彼の目の前、いや足下から…。
「今度君の番だからね? ボコボコにして生きてることを後悔させてあげるっ!」
その言葉はまさしく本当になった。
騎士団長が次の瞬間、リリエールの拳で吹き飛ばされた。続き、追撃して鳩尾に三連激、顎に向けてアッパーカット、そのまま今度は思い切り蹴りを叩き込んで地上に落とす。
「まだまだ♪」
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