神の使徒

ノベルバユーザー294933

第六話 「大森林」

森、緑、深緑の大地…
人類にとってそこは自然の宝庫であり、森の恵みが溢れる豊穣の土地だ、そのはずだ…。
しかし…俺の視線の先に広がるのは、薄暗く深緑というよりも黒…大きく成長した木々は俺の背丈など悠に越えて、その葉が広がるのは遥か頭上にある、それは生命活動を行うために光、日光を得るために互いの木々と競いあうようにして枝を伸ばすのだ。
必然的に、木々の下には日の光など届かない…暗闇、不気味な光景がそこには広がっている。

「此処は…どこだ…」

俺は呆然とそうこぼす。山の遺跡から辛くも脱出し、次の向かう場所へと視線を向けた先。そこに広がるのは四方を立ち並ぶ大樹によって囲われる閉ざされた大森林だった。

立ち止まっていても仕方がない、グルグルと辺りを見回って、森の中を遺跡と同じく何の当てもなく歩き続けて…そして疲れた。
まさか…ただ歩くだけでこんなに疲れるなんて…。それもそのはずだった、何せ森の中には根が大きく生え、それを乗り越えたり、登って飛び降りたりと、平地な道を歩くよりもより体力を使っているのだから…。
俺は頬を伝う汗を腕で拭うと、後ろから快活な声音が響く。

「さあ、どこだろうね? 僕が前に来た時には、この場所に大きな都市があったんだけど。もう…跡形もないかな」

俺の吐露した言葉に彼、リリエールは意味深な台詞と共に告げた。
ははは、バカなことを…。
こんな深い森の中に都市があっただって?
まあ、確かに、かつていた前世の世界では、学者達が研究して、テレビのドラマなどで放送していたことがあった、人が地球…星からいなくなれば植物が止めどなく育ち始めて人の文明などなかったかのように飲み込み、消していく。
確かに、こんな風に森になる可能性はあるかも知れないが…。
そう俺は思っていると、地面に植物の根とはまた違った固い感触を感じて立ち止まる。

「………」

無言で触れて強引に苔やツルを取り除くと、そこには石を彫って造られたと思われる紋章のようなマークを見つけた。
それを発見したと同時に彼が言った。

「ああ、此処にあったはずの国…その国章だね、スゴイや、残ってるもんだね」

「おいおい…嘘だろ?」

「言ったでしょ? 此処には都市があったって」

冗談の類いかと思っていたぞ…、でもそうなると、人のいる場所まで、本当にどうすればいい?
此処には人間が生命活動を維持するためのものが足りないのだ、根本的に…。

まず食べ物がない、頭上を見上げても食べられる類いの木の実はない、そもそも知らないものを食べるということが危険なことぐらいバカでも分かる。

それに人間の活動として絶対に必要な水は探せばありそうだが…飲めるのか? 

そもそもだ、前世でこんなサバイバル訓練などしたこともない、また興味もなかったから知ることもしなかった。
それが、仇になるなんて…。

ただ期待していたのだが、俺は神の使徒、特殊な枠組みとなるからして何か得難いような特に身体的な能力があるのではないかと期待していたが…そんなことはまるでなく、今こうして喉の乾きと空腹を感じていた。

「………」

俺は黙して彼を見やる。彼ならこの状況どうにかしてくれるかも知れないと思ったからだ…。

ただ…信用できないのだ、彼を…魔神リリエールを…。

それは間違ってはいないと思える。彼は神の使徒としての立ち位置で見るならば神の脅威と断じれるだけの力を持っている。
それに彼は封じられたほどの存在だ。
変に協力して、次は何をされるか分かったものではない…。
首下に俺は自然と手を触れた…。

しかし、俺には他に手は思い着かないのだ、背に腹は代えられない。

「助けて欲しい…頼む」

俺は懇願するように頭を下げた。
なりふりを構っていられなかった…、ただ、ただ命が惜しい…。
彼は俺の言葉に笑みを浮かべて語りかける。

「…フフ、もちろん、それはいいよ。とりあえず、人のいる場所まで行ければいいかな?」

「…ああ、それでなんとかなる…はずだ」

言ってみて、少し心配にもなる。
俺はそもこの世界の住人ではない。それはこの世界においての身分で表せば浮浪者や移民などの最底辺と表せれる立場だ…どこだって余所者を諸手を上げて頼られることを喜んだりはしない。
ただ異世界人という肩書きがあれば…あるいは…言わばこれは賭けだな。

「探索(サーチ)…」

言葉が聞こえ、彼の手に透明な水の球体が出現する、それは生き物のように脈動し、回転して、そして役目を終えたのか、球体はゆっくりと小さくなって消滅する。
完全に消滅したのを確認した後に、彼は笑みを浮かべる…。

「此処の近くに集団で纏まった人間達がいるね…彼等と合流したらどうかな?」

「近くに…」

こんな森の奥深くに人だと…?
俺は、違和感を感じて訝しげに顔を歪めた。










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