獲物

蜘蛛星

屑の宴(裏)

「それでまあ僕はここにいるわけなんだけどさ、今考えても僕間違ったことしたと思わないんだよね。」
アクリル板の向こうから、彼は満面の笑みで事の経緯を話す。時折指先で通声穴をなぞり、その凹凸を楽しんでいる様子があった。彼は友人をカッターで傷つけた傷害罪の疑いがあるのだが、この様子だと罪の意識は全くないようだ。
「そうだ、あいつは元気?怪我なんてすぐ治るよね、だってあいつ世界滅ぼす力あるくらいだしさ。」
純粋な、それでいてどこか猛獣のように隙を探るその目に、恐怖さえ感じた。この青年は、幼くして世の中の様々な不条理に気づきすぎたのでは、と思う。
「彼は亡くなったよ。意識を取り戻してすぐに病院の窓から飛び下りたんだ。」
青年はふっと真顔になり、その後今までの面会で見たことのないような笑顔を見せた。彼は今まで作り笑いをしていたようだ。どのような出来事に対して喜んでいるのかを除けば、その笑顔は100点満点だった。
「よかった。もうこれで悔いはないよ。」
そう言った青年の目にはもう、動物の気配はなかった。星のように澄んだ目に見とれたことを覚えている。

彼は翌日、その星をどこかへ逃がしてしまったらしく、真っ黒な目で発見された。

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