泡沫の国

工藤疾風

お凜の使い

朝、日の出と共に目覚めた流衣。この世界に来てから、もう何日経っただろうか。太陽の動きと一緒に生活するこの暮らしにも、すっかり慣れてきたように思う。

朝の新鮮な空気を味わいたくて、流衣は玄関から外へ出た。

胸一杯に深呼吸する。俗に言う空気が美味しいとは、こういう事を言うのだろう。まだ朝露が滴る草をかき分け、流衣は小川へ向かった。

この朝の散歩は、流衣にとって日課になっている。静かで誰もいない朝の森を、まるで独り占めしている気分を味わえるのだ。

しかし、今日は既に先客がいた。

川べりに、綺麗な金髪を煌めかせ、佇んでいる。悠夜だ。

不思議な魅力をたたえた彼の姿は美しく、流衣は、声を掛ける事も忘れて眺めてしまう。ふいに、悠夜がこちらに気づいて話しかけてきた。

「よ、流衣。おはよ。」

悠夜は、気さくな笑顔で、流衣の側に寄った。あんな大怪我をしていたのに、今はすっかり良くなったらしい。ふらつく様子もなく、足取りはしっかりとしている。

「流衣も散歩か?この森すげえ落ち着くよな。」

少しはだけた襟元から、悠夜の鎖骨がのぞく。流衣は慌てて目を逸らした。

「そ、そうね。悠夜君…まだ無理しない方が…」

「おいおい、その呼び方やめてくれって言っただろ?慣れてないんだ、悠夜って呼んでくれ…そうだ、せっかくだから、少し付き合ってくれるか?」

悠夜は流衣の手を引き、木陰に腰を下ろした。

それから二人は話をした。なんて事無い、他愛のない話を。爽やかな風が、心地良かった。






二人がお凛の家に帰り着いたのは、お凛が既に朝食を作り終えた所だった。

「お前ら、朝っぱらからどこ行ってたんだよ。もう少しで探しに行く所だったぜ。」

お凛は料理を取り分けながら言った。

「でも良かったな。二人とも、さらに仲が良くなったみたいで…これなら大丈夫そうだな。」

何か引っかかる言葉を残し、彼女は食卓に料理を並べ始める。

今日も、お凛の料理は美味しそうだ。炊きたてご飯に温かい味噌汁。香り立つ湯気が、食欲をそそる。

お凛が話を切り出したのは、皆朝食を食べ終える頃だった。

「ところで…流衣、お前もう一人で街まで行けるか?使いを頼みたいんだ、あたしはちょっと…野暮用があってな。悠夜に教えながら行って来てくれるか?」

流衣は少し考えた。いつも、街まで行く時はお凛と一緒だったからだ。なんとなく、道は覚えているものの、ちゃんとたどり着けるか少し不安である。でも、お凛を頼ってばかりでは、何もできない自分のままだ。それに、悠夜も一緒だし、街にはお馴染みの八百屋の旦那さんもいる。きっと大丈夫だわ。

流衣は、しっかりと頷いた。

「大丈夫よ、お凛、まかせて。」

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