泡沫の国

工藤疾風

手当て

お凜の家に帰り着くと、流衣は、早速悠夜を床に寝かせた。変わらず出血は続いている。

「流衣!あんたは出来るだけ血を止めてろ!あたしは医者を呼んでくる!」

お凜はそう叫ぶと、ものすごい速さで家を飛び出して行った。一人残された流衣は、なんとか止血をしようと試みる。傷は二箇所。右腕と左脇腹だ。流衣は、まず自分のセーラー服のスカーフを手に取ると、それで悠夜の右腕の傷をきつく縛った。

緊張で、手が震えている。ここで間違ったら、悠夜の命が危ない…落ち着け、落ち着け…

流衣は大きく深呼吸した。大丈夫。私なら出来る…そう確か…

流衣は、自らの着物の袂を掴み、今度は脇腹の傷に押し当てた。





その日は、一日が異常に長かったように感じた。医者を連れて戻って来たお凜は、その指示に従って、悠夜の服を脱がしにかかる。流衣もそれを手伝った。実を言うと少し恥ずかしくて、直視できなかったが、そんな事を言っている場合では無い。

医者が処置をしてくれている間は、お凜に付き添っていてもらい、流衣は悠夜の血で汚れた服を洗濯した。覚えたての洗濯板は扱いが難しく、洗い終わる頃には医者が帰っていった。

その後、悠夜の着替えが必要だろうと、お凜は押し入れの中を漁り始める。男物の着物がしまってあったはずなのだとか。その間、流衣は悠夜の側に付き添って、額の汗などを拭ってやる。

状況が落ち着いたのは、日もすっかり沈んだ頃だった。

悠夜の呼吸は穏やかになり、脈も落ち着いた。

お凜と流衣は、ひと時の休憩を取っていた。

「流衣、よくやったな。医者もあんたの事褒めてたぜ。」

「ほんと良かったわ。もう私必死で…でもなんとかなって良かった。」

流衣は、静かに眠っている悠夜の寝顔を眺めた。彼は流衣が今まで見たことの無い程の綺麗な顔立ちをしている。流衣は、男子の事を綺麗だと思った事はなかったのだが、悠夜だけは違った。その不思議な美しさに惹かれ、ついまじまじと見つめてしまう。すると、お凜に横からつつかれた。

「おい、何にやにやしてるんだ?そんなに見ていなくても、もうじきそいつは目を覚ます。今の内に飯の準備しようぜ。」

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