泡沫の国

工藤疾風

帰宅

お凜と流衣が帰宅の途についた時には、辺りは暗くなり始めていた。

「長居しすぎたな…おやっさん、流衣の事相当気に入ったらしいぞ。」

両腕に荷物を抱えたお凜が言った。

「いい人よね、あの旦那さん。お茶までご馳走になって、それにこんなにサービスしてくれるなんて。」

「まあ、あの人だから安心だが…気をつけろよ、流衣。油断するとどんな目に合うか分からない。町は人が沢山いる分、危険も付き物だ。」

お凜は念を押してくる。結局、買い物はするにはしたが、八割程八百屋の店主からの好意で頂いたもので埋まっていた。

「じゃあな、流衣ちゃん。買い物じゃなくても、いつでも遊びに来るといい。茶でも用意して待ってるからよ。」

帰り際、そんな言葉を掛けられ、見送られた二人。流衣は、また新しい友達が出来た気分で、嬉しくなった。

「そうだ、お凜。今日の夕飯はどうする?これだけ沢山頂いたもの、豪華な料理が出来るわね。」

「そうだな…確かにこんだけあれば、なんでも作れるな。ところで、流衣は料理はするのか?あたしの料理は大雑把だから、あまり美味くないだろう?」

流衣は首を振った。決してそんな事は無い。あの時食べたお凜の料理。あれはもう出会った事のない美味しさだった。確かに空腹もあったが、毎日作ってくれる料理はとても美味しい部類だと思う。

それに比べ流衣は、今まで料理と呼べる代物を作った事が無い。学校の授業や、たまに気まぐれでお菓子を作ったりする事はあるが、あくまでその程度だ。お凜の腕前には、遠く及ばない。

「流衣の国ではどんなものを食べるんだ?きっと見たこともないような、変わった料理なんかもあるんだろうな。気が向いた時にでも作ってくれないか?」

そう話すお凜は、なんだかとても楽しそうだ。

「もちろん、私なんかの料理で良ければ。」

笑いながら、並んで歩く二人。その内に、お凜の家が見えてきた。今の私の、平和の象徴。この時間がいつまでも続けばいいのに…なんて、流衣は考えた。




食事を済ませ、入浴も済ませ、ひと時の休息の時。お凜が明かりを消し、布団に横になる。

今日も、何事もなく一日が終わった。明日は何か起こるのかな…今はとりあえず、お凜とのこの平和な日々をただ過ごしたい。明日もこの場所で目覚めますように…流衣はそう祈るばかりだった。

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