【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(15)佐々木望side




 鏡花さんが操縦するヘリの他に2機のヘリが、先輩を載せていると言っていたヘリを追従するように飛翔する。
 それらの後を追うようにして、私達が乗るヘリは上昇したあと飛ぶけど――。

「鏡花さん」
「何?」
「私達の乗っているヘリって、他のヘリから見て変に思われていないですか?」
「そうね……。思われているかもね――」
「ですよね……」

 おそらく……と、言うか――、間違いなく無線で飛行状態などを逐一、やり取りしていると思われるヘリの通信に何の返答も返さなかったら、おかしいと思われる。
 それは容易に想像がついた事で――、

「――でも、まぁ……。大丈夫じゃないかしら?」

 一瞬、間をおき鏡花さんが答えてくる。

「そんな楽観的な――」

 言いかけたところで、ザザッ――っと雑音が流れると共に「こちら航空自衛隊――ザザッ……」短く雑音交じりの無線が入ってくる。

「やっぱり……、返さなくていいんですか?」
「大丈夫」

 私の心配を他所に、鏡花さんが何かを操作した。
それと同時に、ヘリに搭載されていたミサイルが一発放たれる。

「鏡花さん!?」

 思わず驚く。
 どうして、ミサイルを発射したのか分からなかったから。
 ミサイルは、先輩が乗っているであろう前方を飛んでいるヘリに真っ直ぐに向かっていく。

「――あ……」

 そこで私は気が付く。
 夕焼けのように赤い空から、無数の赤黒い鬼のような化け物が落ちてくることに。
 その化け物は、先輩が乗っているであろうヘリを目的とするように落下してきている。
 そして――、その距離が20メートルを切ったところで、私達のヘリから放たれたミサイルが化け物を空中で吹き飛ばした。

 それと同時に「よくやった」と、無線で音声が流れてくる。

「言葉よりも行動で、こちらが味方かどうかを見せた方が早いわ。これで、私達の乗るヘリが護衛に付いていると理解してくれたと思うから」
「そうでしょうか?」
「余裕がある時なら、執拗に確かめるかも知れないわ。だけど……」

 鏡花さんが最後まで言葉を紡ぐ前に私は理解した。
 何故なら、数千にも及ぶ化け物が空から降ってきていたから。

「つまり戦力は減らしたくないと――。そういう事ですか」
「そうね。――ただ、問題は、これからどうすればいいのか? ってことなのよね」
「――え? どういう事ですか?」
「だって、これから行く場所は剣山だから」
「剣山って……四国のですか?」
「ええ。そうよ」

 彼女の言葉に私は内心、首を傾げる。
 剣山には、高難易度Sランクのダンジョンが存在しているのは、日本ダンジョン探索者協会で習ったけど、この世界にはダンジョンは存在していないはず。
 
「……でも、私が居た世界では剣山周辺には自衛隊の基地とかないですよね?」
「ないわね。それが何か?」
「――いえ、だから……、どうして先輩を連れて剣山に連れていくのか分からなくて……」

 私の疑問に、鏡花さんは肩を竦めると小さく溜息をつく。

「良い事を教えてあげるわ。剣山には、神棟木(かみむなぎ)が封印されているのよ」
「神棟木(かみむなぎ)って……、私を襲撃してきた人が言っていた?」
「ええ、そうね。ただ、それを兄を利用しようとしている人間が理解しているとは思わないけど……、何かしらの関わり合いがあると察したのかも知れないわね」
「どういうことですか?」
「それは、いまは言えないわ」
「言えないって……」
「契約上、私の口からは言えないの」
「……契約上?」

 意味ありげな言葉。
 話してはくれないという事は、その口ぶりと今までの態度から分かってしまっていたので、私は口を閉じるしかなかった。
 

 



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