【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(13)佐々木望side




「あの……」
「何?」
「今日は、どうしますか?」
「何時もと変わらないわ。動きがあるまで、此処に居るだけ。タイミングを見失わないように近くに居る事しかできないの」
「タイミング? その為に2週間以上も基地内に居るんですか?」
「そういうことね」

 山岸鏡花さんは、それ以上は語らず自衛隊員が配ってくれた戦闘糧食を口にする。
 彼女と行動を共にして、これ以上は聞いても答えてくれないと言うのは分かっていたので、私も手にした缶詰に入っている食事を摂る事にした。
 食事を摂り終えたあとは、私は、山岸鏡花さんと共に基地内を歩く。

 基地内は、避難してきた住民が大勢いるけれど自衛隊の頑張りにより、誰も衣食住に困らない事から自然と治安は良い。
 私は、そんな様子を見て何とも言えない気持ちになる。

「どうかしたのかしら?」
「少し複雑かなって……」

 私は、何とも言えない気持ちを吐露してしまう。
 此方の世界――、神居村で住民を虐殺した自衛隊と一緒とは思えない程、日本国民に紳士に誠実に対応する自衛隊員。
 なのに、命令があれば人の命を奪うこともする人達。
 私には、どちらが正しいのか分からなくなっていた。

「そう……」

 彼女は、深く聞いてくることはせずに小さく呟くと私の前を歩き始める。
 何も、話すことは無いのだろうと思っていると――、

「佐々木望」
「――え?」

 反応してくるとは思わなかった。
 芝生上で立ち止まった彼女は、私の方を向いてくる。

「軍隊というのは何のために存在していると思う?」
「それって……、国民や国民の財産を守る為じゃないんですか?」
「そうね……。でも大局的に物事を見るのなら国の利益を守る為に動いているの」
「え? でも、それって……、国民を守る為ですよね?」
「違うわ。国の利益の為に動いているのだから、人助けは二の次になる。それが軍隊の在り方なのよ? だから、上官の命令は絶対だし言う事は聞かなければいけない。もし逆らうような事になれば、銃殺刑もありうることよ」
「――で、でも! そ、それって! 外国の軍隊のことですよね?」
「いい加減、目を覚ましなさい。日本の自衛隊というのは警察予備隊が名目上ではあるけれど軍隊に他ならないの。ただ、先制攻撃は許されていない。――いえ、ちがうわね。正確に言うのなら攻撃をする際にも上官の許可が必要なほど軍隊らしくない軍隊なの」
「軍隊らしくない……軍隊?」
「そう。まともな国なら専守防衛なんて愚かな考えなんて持たないわ。専守防衛なんて、自軍や国民に死傷者が出て初めて反撃するという事でしょう? そんな出来損ないの軍隊だからこそ、日本国民は勘違いしているの」
「勘違い?」
「ええ。戦争はね――、相手に最大の損害を味方には最小の損害を。これが鉄則であり常識なのよ。専守防衛なんて綺麗事を並べている頭の狂った現実を見る事が出来ない連中の戯言のせいで、どれだけの真理が覆い尽くされてきたのか。現実を――、真理を――、理解できない人間が本当に多いのよね。だから、家畜のように飼いならされている。それは、佐々木望、貴女にも言えることなのよ? 一面だけを見て良い悪いではなく全てが合わさって本質なの」
「……それじゃ、自衛隊は――」
「悪でも正義でもないわ。ただの軍隊に過ぎないわね」
「でも! 夏目さんは……」
「あんなのは例外よ。ああ言う自分勝手に行動をして群れに害を及ぼす行為は良くはないわ。そう――、少なくとも軍人としては失格ね」
「軍人としては……?」

 そこで鏡花さんは少しだけ笑みを浮かべると――、

「人間としては……、そう――、何かに疑問を持ち行動をする行為は、人間としては当然であり何かを守りたいと行動をするのなら……」

 そこで彼女は一呼吸間を置くと。

「人間としては正しいのかも知れないわね」

 その声色は、少しだけトーンが下がっていた。
 まるで、自分が語った言葉の意味が無意味だと言わんばかりに――。

 




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