【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(11)



 ――何度目か分からない夢の中で、俺は唐突に襲ってきた大きな振動と共に目を覚ます。

 それは何度も夢みた光景であり決して変える事が出来ない現実でもある。
 それでも――、俺は布団から飛び上がるようにして立ち上がると、自分の部屋から出て廊下を抜け妹が寝ているであろう部屋のお襖を開けて中に入った。
 
「鏡花ッ!」

 俺は、妹の名前を――、厳密的に言うなら血は繋がってはいない妹の名前を呼ぶ。

「お兄ちゃん?」
「地震だ! 早くこい」
「――え? 地震?」

 俺が何を言っているのか、分からないと言った様子で首を傾げる妹の手を掴み、俺はパジャマ姿のままの妹の手を引っ張る。
 地震は起きてはいない。
 ただ――、雨は降っている。
 そして――、俺が感じた振動は、俺でないと分からない事だ。
 何故なら――、俺は何度も同じ夢を見ているから。

「待って! 着替えるから!」
「そんな時間はない! 早くこい!」
「――で、でも! 着替えくらいは!」

 押し問答状態になってしまった。
 これは、いつも見る光景であり――、決して変える事の出来ない悪夢。
 俺は「ダメだ!」と、言いかけたところで、何か巨大な衝撃を受ける。
 それと同時に、ガラスが割れる音――、何かが砕ける音、そして――、木が割れる音。

「――くっ……」

 気絶していたのは、本当に短い時間だったように思える。
 もしかしたら、身体に重大な欠損があったのかも知れない。
 そして修復が終わり意識が戻るまで時間が掛かったのかも知れないが――、俺や鏡花が置かれている現状は最悪だった。

 俺の体は、崩れかけた家を支えているので精いっぱいで、横たわって腹から血を零している妹を救助する事すらできない。
 何せ、俺が少しでも動けば建物は崩れて、俺はともかく妹は確実に死ぬ。

「鏡花!」
「……お、……おにちゃん……、私……」

 腹部だけでなく、どこか他の内臓も怪我をしたのか分からないが、妹の声には力がこもっていない。
 目は虚ろで、早く救助しなければいけないというのは一目見て分かる。
 
「――す、すぐに! すぐに助ける!」

 俺は、必死に四肢に力を入れながら何とか妹の傍まで近づこうとするが、一歩でも歩けば支えている家の屋根がミシミシと音を立ててしまう。
 
「……だいじょうぶ……。……おにいちゃん……にげ……て……」
「何を言っている!」

 血が繋がっていないという事は、父親から俺達は数日前に教わっていたが、10年以上も一緒に兄妹として暮らしてきて、そんな事は今更! 関係ない! だから! 絶対に助ける!

「俺は……俺は――」

 絶対に助ける! そう、心に誓い悪戦苦闘し……そして――。



「うあああああああ」 

 最後まで――、悪夢を見た俺は絶叫と共に目を覚ます。
 そして――、何度も荒い呼吸をしながら周囲を見渡し、自分がいる場所が分かったところで目の前の男を睨みつけた。

「安田――」
「良い夢でも見られましたか? 山岸直人君。いい夢を見られたのでしたら、そろそろ上落ち村について、知っていることを話してもらいたいのですが?」
「貴様のような奴に話すことなんてない!」
「やれやれ――、それでは……」

 男が、注射器を取り出す。

「――ッ!」
「それでは、何度でも! 私達に素直に協力してくれるまで、この拷問用の幻覚剤を投与させていただきましょうか? 貴方は、死ぬことがないのですから、常人の数十倍の薬剤を投与して見ましょう」
「貴様……」
「ふふふ、ハッハハハッ! モルモットを使う実験よりも素晴らしい! そのような感情を向けてくる! 怒りの目を向けてくる! それは人間だけにしか出来ない! そう! 人間だけが持ちうる! 言葉が通じるからこそ! 得られる! 素晴らしいものですね!」
「狂ってやがる……」

 俺は、吐き捨てる。

「狂っていますか……。貴方だって、同じではありませんか? そもそも上落ち村が壊滅したのも! 貴方の妹が死んだのも! 全ては、貴方が! 山岸直人! 貴方が、太陽光発電なんて地盤が弱くなるモノを議員に頼み建設させたのが事の始まりなのですからね!」「――ッ!?」
「村を良くしたい! それは、素晴らしい大義名分です! ――ですが! 貴方は何も知らなかった! 知りえる環境にあったというのに、目を背けた。その結果が――」
「煩い!」
「おやおや! 本当の事を言われてキレるとは、コレだから自分の行いから目を背けている偽善者は嫌いなんですよね」
「……」

 偽善者――、たしかに目の前の白衣を着た安田の言う通り、俺は偽善者なのかも知れない。
 それでも、雇用を作りだしたかったのは本当だし、それで、少しでも村に活気が戻ればいいと思っていた。
 だが――、結果は違った。
 それは、目の前の男の言う通り、結局は最悪の事態を引き起こしただけだった。
 





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