【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

人類の罪過(8)佐々木望side




「私が、ガイアと契約を結んだ……?」
「そうよ。貴女は不思議に思ったことが無いかしら? どうして、貴女が住んでいた世界には、貴女よりも長くダンジョンに篭っている人間が、貴女よりレベルが高い人間が居ない事に」
「それは……、私がダンジョンをクリアしたからでは?」
「違うわ。普通では――、普通の人間では上限が設けられているの。レベル5000――、つまり日本国首相の夏目一成のレベルが限界なのよ?」
「――え? で、でも! 夏目さんは、ガイアと契約を結んだんですよね?」
「結んではないわ。だって、彼はガイアとの契約を、あの中で拒んだ人間だもの」
「拒んだ……?」
「ええ。彼にとって見れば誰かを犠牲に――、生贄にして罪過を払拭する行為は認められる物ではなかったのかも知れないわ。だからこそ、彼は一人足掻いている。首相という立場になってもね」
「生贄って……罪過って……何なんですか?」
「それは……、人の業。そう言えば分かりやすいかしら?」

 彼女は、足を止めたまま空を見上げる。
 空は、人類が知っているような何処までも澄んだような青空ではなく、赤い何かで覆われている。

「人の業って生きて居る限り、何か別の生き物の命を奪い続けないといけないというモノですか?」
「違うわ。それだったら生物の業だと私は言うわ。それに生命の循環を許容しないのなら、この世界に生物を誕生させるような真似は、星は行わない。そうは思わないかしら?」
「……なら、一体、どういう意味ですか?」

 私の問いかけに彼女は指を私の胸に向けてくる。

「佐々木望……、貴女は知っているはずよ? 人間の業を――、だからこそ、貴女は常世ノ皇ノ王からは省かれたのだから」
「常世の皇?」

 話をすればするほど、分からなくなっていく。

「人間の闇よりももっと深い、絶望よりも尚、暗き部分のことを指し示しているわ」
「それって……」

 途中まで呟いたところで、上空を何がか通り抜けた。
 その際の爆音が、鏡花さんに問いかけようとしていた言葉を掻き消す。
 それと同時に大きな――耳が馬鹿になるほどの巨大な爆発音が響いてくる。

「――ッ!? ――い、一体! 一体何が!?」
「決まっているわ。普通の銃弾だけでは対処が出来ない権能した化け物が、この横田基地に集まってきているの」
「それって……、かなりヤバイですよね?」
「相当ね」
「なら、先輩に会いにいかないと」
「何処にいるのか分かっているの? それよりも、ここは過去で実際に起きた出来事だと私は言ったわよね? 私達が勝手に行動しても意味はないわ。だって、この世界の地獄は此処から始まるから。だから――、きちんと見なさい。始まりの――、終わった世界は、どう再生し何を条件付けにして新しく始まったのかを」
「……それって、私達がどんな行動をしても何も変わることはない……。そういう事ですか?」
「ええ。私と貴女の仕事は見届けて――、そして……」
「そして……?」

 彼女の――、山岸鏡花さんの表情が曇る。
 それは、いままで見た事がもので……。

「何でもないわ。それよりも、まだ時間はあるから。私達は、自衛隊の邪魔にならないようにしましょう」
「……分かりました」

 何かを言いかけた鏡花さんは、困ったような表情をして私達に宛がわれているテントの方へと歩いてしまう。
 その後をジッと見つめる事しか出来なかった。



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