【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

贖罪の迷宮(8)佐々木望side




「ようやくたどり着いたな」

 そう語り掛けてくる菊池仁という男に、先頭を歩いていた私の身体は、前方に見える高さ3メートルはあろうかと思われる扉を見ながら静かに頷く。
 そして――、私が見ている前で、ゆっくりと扉に伸ばされた私の手が扉に触れると同時に静かに両開きの扉は内側へと開いた。

 私を先頭にして、サークルメンバーの部長である菊池仁ことランハルド・ブライドが門を潜る。
 そのあとは、田中一郎――、クーシャン・ベルニカ、そして藤田尊と夏目一成が続く。
 
 その光景を見ながら、私は藤田尊という人物の方を見る。
 
 ――四聖魔刃のユーシス・ジェネシス。

 それが彼の名前であり主に諜報などで活動している事から、各国政府でも殆ど情報を持たない謎多き人物だと陸上自衛隊と日本ダンジョン探索者協会に所属する際に研修で説明を受けた事があるけど……、まさか先輩と同じサークルのメンバーの一人だとは思わなかった。

 ……だけど、一つだけハッキリとしたことがある。
 全ての答えであり鍵は、いま向かっている先に在るのだということが――。

「これは……」
「何かの文字だな……」

 田中と藤田が、壁面に書かれている文字を見上げながら呟く。
 それを聞きながら、もう一人の私は古文書を開き、目を走らせていく。

 全員が居る場所は、巨大なドーム状になっていて――、高さは少なく見積もっても10メートル以上。
 直径は30メートルを優に超えていると思われる。
 
「ここが契約の間で間違いないみたいです」
「本当か?」

 菊池の言葉に私は、「はい」と答えると壁の一つに手を置く。
 すると、部屋の中央部分の床から直径2メートルほどの玉のような巨大な黒い塊が迫り出してくる。
 それは、私が貝塚ダンジョンで契約を結んだ時に見たことがあるダンジョンコアと酷似していた。

「それは……なんだ?」

 夏目さんが、中央に出現したダンジョンコアに銃口を向けながら緊張を含んだ声色で、私に向けて話しかけてくる。

「星の核と言われている物です」
「星の核? 言葉からして星の迷宮の大元みたいな物か?」
「その認識で間違いないかと――」

 もう一人の私は、夏目さんの声に答えながら中央に向けて歩きつつ、ベルトに差してあったのだろう、ダガーを抜き放つ。

「何をするつもりだ?」

 一気に、夏目さんの警戒心が跳ねあがるのを感じる。
 ただ、動いたのは私だけでなく、私以外の――、夏目さんを除く全員。

「契約をするのです」
「契約……だと?」
「はい」
「全員、そこから動くな!」

 あまりにも異常な事態に気が付いたのだろう。
 夏目さんが、ダンジョンコアから、私達全員に向けて銃口を向けてくる。
 ただ、銃口は一人にしか物理上は向かない。

「あんたも契約をすればいいんじゃないのか?」
「何!?」
「あんただって、自分の正義があるんだろう? ――なら、正義の為には力が必要だって事くらいは分かっているはずだ」

 菊池の言葉に、夏目さんは眉間に皺を寄せる。

「何を言っているんだ?」
「だから――、今説明しただろう? 正義を行う為には力が必要だ。そして力には正義もまた然りだ。力の無い正義は悪に他ならない。――なら、どうすればいい? 決まっている! 俺達も力を手に入れればいい! そう! アイツのようにな」
「理解ができん。正義など人それぞれだ。それを力でどうにかしようなど、自分の考えを押し付ける事以外の何物でもない。そんな事が許される訳が――」
「だから力が必要なんです。仕方ありませんね、そこで見ていてください。この狂った世界を、私達が変えるです。そう――、星と契約する事によって!」

 会話しながら、ジリジリと近づいていた私の身体は、手に持っていたダガーで自分の手のひらを傷つけると同時にダンジョンコアに手を当てた。

 それと同時に血がダンジョンコアに飛び散るけど――、そんな些細な事なんてどうでもいいくらいの音が――、「――契約の儀を開始します」という意味のある言葉が契約の部屋の中に響き渡る。



 

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