【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

贖罪の迷宮(7)佐々木望side




 ――地下に潜ること、数時間が経過。
 どれだけの距離を、歩いたのか? と、思ったのか、もう一人の私が万歩計をチェックする。
 するとすでに40000歩を超えていた。
 
「少し休憩にしないか?」

 後ろから陸上自衛隊に所属していると言っていた夏目さんが話かけてくる。
 そんな声に、身体の主導権を手にしている――、もう一人の私は左右に頭を振る。

「日本国政府が、どこまで情報を掴んでいるのか分からない以上、早く進んだ方がいいです。それに、この迷宮の通路は残念ながら小型車でしたら車が一台通れる幅があります。もし、この迷宮に気が付いてバイクなどを投入されたら一気に距離を詰められます。その時に夏目さんは、追ってくる陸上自衛隊の人達と戦う事は出来るんですか?」
「自衛隊は日本国民を守る為の組織だ」
「それは夏目さん一人の考えですよね?」
「それは……」
「国は個人に対して何もしてくれません。先輩の時も――、警察も関係していた議員も何も力を貸してくれませんでした。ネット上で、誹謗中傷があった時も警察に掛け合っても総務省に聞いても何も! 何も! 何も! 何もしてくれませんでした! 事実を何も知らなくて、何も分かっていない人達が! したり顔で! 正義と言う大義を得たことで、たった一人を叩いて悦に浸る……、そんな場面を私は見ていることしかできませんでした! だから! 私は国を信用していません!」
「……言いたいことは分かった。だが、他の者は疲れが出てきている。このままでは遅れが出かねないぞ?」
「――なら、置いていけばいいんです」
「何?」
「元々、私達は自分達だけで上落ち村に関して調べていました。そこに首を突っ込んできたのは、そこの住職と夏目さんの二人ですよね?」
「それはそうだが……」
「夏目さん、私は一人で大丈夫だ。ここは彼らに同行してくれんか?」
「しかし――」
「この老いた身体では、若者の歩みについていくのは無理だ。それなら、先に進める者だけで進んだ方がよい。それに、そこの娘が言っているとおり、この通路が発見されるのは時間の問題じゃろうて」
「神居さん……」
「ほれ、言ってきなされ。早く――」
「申し訳ない」

 私の前で、そんなやり取りが終わると、すぐに私は前を向いて歩きだす。
 そこには一切の躊躇なんて物はなくて――、目的を遂行する意思しか感じとることが出来ない。
 同じ存在だと言うのに、ここまで違う物なのかと考えていると――、

「良かったのか?」

 田中――、クーシャン・ベルニカが私に話しかけてきた。

「田中、貴方も私が間違っていると思ったのなら残ってくれても構わないのよ?」
「誰も、そんな事は言っていないだろ」
「そう――」

 一切、後ろを振り向かずに前だけを向いて歩き続ける私。
 それから、数日かけて住職が星の迷宮と呼んでいた最下層――、巨大な扉の前に到着した。





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