【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

贖罪の迷宮(2)佐々木望side



 長く重苦しい雰囲気が支配する通路――、静寂が支配する空間で、住職や私、そして夏目さんが歩く足音だけが反響し鼓膜を揺さぶる。
 
「それにしても、ここはアレだな……。壁と言っていいのか? 石組がされているが、その合間に一枚もカミソリが入る隙間がない……、まるでクスコの建築物みたいだな」

 私の前を歩いている夏目さんが、周りを見渡しながら一人ごとを呟いている。

「クスコって、たしか有名なインカ帝国の遺跡のある町でしたっけ?」
「――ん? そうだな。正確にはペルーにある都市でインカ帝国の首都だったらしいな」
「夏目さんは、海外に行かれた事があるんですか?」
「そうだな。学生の頃にはバックパッカーをしていたからな」
「そうなんですか……」
「ああ、――だが……」

 話しをしていた夏目さんは黙って歩き出してしまう。

「どうかしたんですか?」
「――いや、ここのダンジョンは上落ち神社が管理していたと住職が言っていたからな。そうだよな? 住職さん」
「神居と呼んでください」
「神居?」
「はい。自徳寺の住職をしております神居守鷹と言います」
「それじゃ神居さん、ここの星の迷宮だったか? 何時頃から、上落ち神社が管理していたのかくらいは分からないのか?」
「――ですから先ほど申し上げた通りに――」
「いや、そうじゃない。古文書とかじゃなくて、寺なんだから言い伝えとかあるんだろう? そこから、管理を始めてどのくらいが経過したかくらいは分かるはずだ」

 夏目さんの詰問に、無言になる住職。
 そして――、「ここの星のダンジョンの管理が始まったのは、少なくとも神居村が出来たのは、少なくとも飛鳥時代まで遡るとされております」と、ポツリポツリと話始めた。

「飛鳥時代!?」
「それって……西暦500年から700年にかけてのですか?」
「確かではありませんが、神居村が出来たのはそのくらいだと言われておりますので――」
「なるほど……」
「夏目さん?」
「――いや、佐々木さんは知っているか? 石を加工する技術というのは大変難しいと言う事を」
「古代エジプトでもピラミッドを使う時は石を切り出していましたよね?」
「ああ、だがカミソリ一枚入らないほどの精度を誇る建造物――、今で言うと俺達が歩くような通路を作るには、相当の技術力が必要だ。だが、最低でも飛鳥時代まで遡るとなると――」
「当時の技術では難しいと言う事ですか?」
「そうなる。だからこそ――、何かしらがあるんだろうな。日本政府が、一つの村を滅ぼしてまで欲しがる何かがな……」

 夏目さんの言葉に私はゴクリと唾を呑み込む。
 私はダンジョンという場所がどういうモノか知っていた。
 それは魔物が出現して倒せばダンジョンコアを手に入れることが出来てお金に換金できる場所。
不思議なアイテムも手に居られる。
 そういう場所だと思っていた。
 だけど……、そのダンジョンがまったく違う側面を持っていたとしたら?
 本当に日本政府が自国民を殺してまで――、情報を隠蔽してまで手に入れたいと思っている場所であったのなら?

「……」

 私は無言になってしまう。
 もしかしたら、私だけでなく――、世界中の冒険者だけでなく各国の政府はダンジョンについて誤解しているのでは? と、思ってしまったから。




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