【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
在りし日の時間(4)佐々木望side
「はい。ありがとうございます」
ホテルの支払いに関してフロントに電話を確認した私は電話を切る。
幸い、フロントで確認したところ――、どうやら私は数日、ホテルを借りていた。
支払いは、既に済んでいる事から、それが貯金の無かった原因なのかも知れない。
ただ単に、お金が無いだけという可能性もあるけど。
私はキャリーバックを置いたまま――、上落ち村に関する資料だけをバックに入れてホテルを出る。
外に出たところで、私はどうしても山岸先輩に会いたかった。
先輩の妹の山岸鏡花さんが、どうして私を会わせたがらず上落ち村へ向かえと言ったのかは分からない。
それでも――、一目でいいから先輩を見ておきたかった。
「どちらまで?」
「総合病院までお願いします」
駅前に到着したところでタクシーを呼び、伊東市の総合病院まで向かってもらう。
到着したところで、お金を払い駐車場前で下ろしてもらい、足早に病院内に入り受付に――、
「はい。何か、御用でしょうか?」
「山岸直人さんに会いたいのですが……」
「現在は、ご家族と親類の方以外の面会は許可されておりません」
「――え?」
クーシャン・ベルニカと、ランハルド・ブライドは、先輩の容態を知っていることから、先輩に会えているはずなのに……。
私は、意を決する。
「山岸直人さんの彼女です。それでも駄目ですか?」
「そうは言われましても……」
困った様子で、看護師の女性は周りを見渡す。
そこで、こちらに気が付いた40代を過ぎた年配の看護師の女性が近づいてくる。
「佐々木さん。戻って来られたんですか?」
その言葉にドキッ! と、する。
やっぱり私と同じ存在が、居ることを察しながら頷く。
「看護師長、御存じなのですか?」
「ええ。彼女は、304号室に入院している患者の関係者よ」
「そうだったんですか!?」
「それより佐々木さん、何かあったのかしら? いつもは、真っ直ぐに向かうのに」
「いえ。何でもないです」
私は、304号室という情報を入手したので頭を下げて、その場を後にする。
階段を使い3階に到着したところで、部屋番号を確認しながら病棟を歩く。
「ここね……」
病室は304号室。
名前などのプレートは掲げられていない。
もしかしたら、上落ち村が壊滅したことを聞こうとマスコミが殺到してくるのを避けるための処置なのかも知れない。
一瞬――、ノックをしようとしたけど、中に誰かいるのかをまず確認するためにドアを横にスライドさせる。
よく管理されている建物からなのか音も立てずにドアが横に開いていく。
特に物音も無い事から、誰も居ないことを確信し入室する。
部屋の中は、逆L字型になっていてベッドの端の部分しか見ることが出来ない。
静かに――、音を立てないように歩くと、視界が開けると同時にベッドの上に座っている人物が見えた。
それは、私が知っている山岸先輩よりもずっと若く、年齢は20歳前半といったところ。
でも、私が見間違えるはずもない。
何度も助けてもらった想い人の事を。
「……せ、……せんぱい?」
万感の思いを込めて名前を呼ぶ。
だけど――、彼は項垂れたまま私の声に反応することはない。
「山岸先輩?」
今度は、ハッキリと彼の名前を呼ぶ。
そこで……、ようやく彼は顔を上げて私を見てきた。
だけど――、その表情を見て私は思わず息を呑んだ。
そこには――、ベッドに座っていた彼は……。
山岸先輩の瞳は何も映していない。
全ての感情が抜け落ちたような。
絶望の色を湛えていた。
それは、まるで昔の私と同じ瞳をしていた。
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