【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

幻影の過去(6)佐々木望side




 千葉都市モノレールから、JR千葉駅で乗り換えを行ったあとは総武快速で東京駅まで向かう。
 そのあとは、品川から熱海まで電車を乗り継ぎ伊東駅に到着した頃には――、

「もう、こんな時間……」

 ――すっかり日は暮れていた。
 手元のスマートフォンの画面には19時という時間が表示されている。

「一応、伊東市内にある病院に居るって……」

 スマートフォンはネットには繋がることだけは救いだった。
 おかげで先輩が、どこの病院に搬送されたのかが書かれている。
 
「――でも、面会の時間は終わっているわよね」

 早く山岸先輩に会いたいという気持ちと、この世界では私はどういう扱いになっているのかが分からない不安もあり、心を落ち着かせたいという気持ちがせめぎ合っていた。
 だから、少しだけ安堵の気持ちがあったのは確かで――、

「今日は、市内で泊まって……」

 駅前のロータリーで立ち尽くしたまま携帯を操作しながら宿泊施設を探す。
 駅から近い宿泊施設は1万5千円前後で、他は駅から少し距離がある。
 
「うーん。きちんとしたホテルに泊まりたいんだけど……」

 問題は、そのキチンとしたホテルの価格が2万円から4万円くらいすること。
 魔法が使えない今の私では何かが起きた時に対応が出来ないのでセキュリティがキチンとした場所に泊まりたいと思っていたのだけど……。

「予算が厳しいのよね……」

 私が冒険者だった世界では、日本国政府と交渉してダンジョンの権利を譲ることで、日本ダンジョン探索者協会と陸上自衛隊から除名する事を承認させただけでなく、ある程度はお金をもらったので、1千万円近い貯金があったけど……、この世界の私の口座には残念ながら2万円しか入っていなくて千葉から伊東駅に来るまでに5000円近く使ったので、財布の中身に余裕がない。
 つまり、それなりのホテルに泊まれない。

「はぁ……」

 こっちの私は何をしているのかしら?
 アルバイトとかしていれば、お金がないってことはないと思うのだけど……。

「でも困ったわね……」

 そう――、この世界の滞在期間がどのくらい居るのか分からない現状では無暗に浪費する訳にもいかない。
 私は、伊東駅のみどりの窓口前の看板に身体を預ける。

「――ん? 佐々木か? お前、何しているんだ?」

 名前を呼ばれた方へと視線を向けると、そこには身長190センチ近い男が立っていたが――、私は男を見て思わず距離を取る。
 私に話しかけてきた男。
 それは、実際には会った事はないけれど、日本ダンジョン探索者協会に所属する際に、渡された資料に書かれていた人物とそっくりだったから。
 それはレムリア帝国に所属する軍人でありテロリストとして世界的に指名手配されている四聖魔刃のランハルド・ブライド、その人だった。

「なんだ? どうかしたのか?」

 私が警戒したことに、気が付きもせずにランハルドが近づいてくる。
 まるで、私を知っているかのように。
 だけど、目の前の男を私は一切知らない。
 
 ――ただ……、無意味に警戒するのは――、と思い言葉を選びなら

「どうもしないから。それより、貴方こそどうしてここにいるの?」

 相手の名前を言わないで事情を探るために話しかける。

「いや、考古学サークルのメンバーというか、腐れ縁の山岸の奴が大変な状態なんだから、そりゃ此処にいるに決まっているだろ? そういえば、田中が佐々木の様子が変だからって言っていたが、お前……、大丈夫か? 恋人が、あんな状態になって辛いと思うが、思い悩む前に相談しろよな」

 その言葉に、私は思わず唾を呑み込む。
 目の前の男が話した意味。
 田中というのは、おそらくクーシャン・ベルニカのことだと思う。
 そして四聖魔刃のランハルド・ブライド。
 語った言葉が真実なら、私と山岸先輩、そして――、レムリア帝国の四聖魔刃の二人は知人だと言う事になるから。

 ――この世界では……。
 

 

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