【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

幻影の過去(2)佐々木望side




「千葉駅前交番……?」

 内心、首を傾げながらも私は、交番の前に書いてある文字を見つつ呟く。
 つまり、後ろ手に見える大きな工事中の建物は千葉駅という事になる。
 
「――でも……」

 私が、三重県の旅館から千葉にお母さんが逃がしてくれた時には、千葉駅は工事なんてしていなかった。
 だからこそ、千葉駅だったことがすぐに分からなかったわけだけど……。

「そうすると、此処って――過去ってことになるの?」
 
 そう独り言を漏らした所で、私はそんな事はないと考える。
 そもそも、私はさっきまで黄泉平坂に居たわけで――、何よりも先ほどまで時が止まっていた。
 それが現実ではない――、何よりの証拠ではないだろうか?
 それに……、過去と言っても――、それがどれだけ昔すら分からないのだから判断のつけようがない。

「――あの、大丈夫ですか?」
「――え?」

 唐突に声をかけられる。
 私に声をかけてきたのは女性の警官で――、

「いえ。何か道に迷っていらした感じでしたので――」

 その言葉に私はハッ! と、気が付く。
 周りを見渡せば、先ほどまでまったく人の姿が存在していなかった駅前のロータリーに多くの人々が行きかっていることに。
 そうなると、必然的に交番の前で足を止めていた私は目立つ事になる。
 考え事をして足を止めていた私に警官は話しかけてきただけだという事がわかり――、

「えっと……、いまって西暦何年でしょうか?」

 私の質問に怪訝そうな表情を見せる女性警察官であったけど、すぐに――、
 
「今年は2018年です」
「えっと何月の――」
「3月18日になります」
「3月――」

 それは、全世界にダンジョンが出現した日。
 それと同時に世界的にモンスターなどの存在が確認され各国に甚大な被害が齎された日もあり――、私が薬を盛られ男にされた日でもある。
 だからこそ、覚えているとも言えるけど……。

「そうですか……」
「はい。他に何かお困りごとなどありますか?」
「いえ――、どうもすいません。あっ――、それと近くにネットカフェ――、いえ何でもないです」

 私は警察官に頭を下げて、その場を立ち去る。
 それと同時に、自分が日本ダンジョン探索者協会から支給された服ではないことに気が付く。
 服装はワンピースとコートとブーツ。
 肩からは手提げのポーチを掛けていて――、山岸直人先輩と実家に帰る際に着ていた井出立ちをしている。
 思わず、どういうことなのか? と考えてしまう。

「駄目。考えても、何がおかしいのかサッパリ分からない。とりあえず、自分が借りている家に戻ってみてから考えた方がいいかも……」

 ――まずは情報。
 


 バス停に向かい、しばらく待っていると定期路線のバスが到着。
 千城台方面のバスへ乗り込んだあとは、切符を取り席に座る。

「質感はあるのよね……」

 座りながら呟く。
 たしかに座っているという感触はある。
 それだけに、自分が今――、どこにいるのか? という疑問が沸き上がってきて気持ち悪い。
 バスは走りだし、しばらくしてから終点の千城台モノレール駅前に到着。
 周りを見渡すと、モノレールは通常に運行していて――、その様子からダンジョンが出来る前だというのが分かる。

「とりあえず……。どうなっているのか確認しないと――」

 私の記憶が正しければ、山岸先輩はメゾン杵柄には20年近く居たはずだから……、少なくとも山岸先輩に会う事は出来る。
 記憶を頼りにメゾン杵柄に向かう。
 到着した建物は、私の記憶通りの建物で――、階段を上がり204号室まで向かうと郵便受けには『山岸』と、名前が書かれていた。

 ここ数日、擦れ違いばかりだった先輩に会えると思い――、胸が高鳴ると共に、私は部屋のドアをノックしようと手を伸ばす。

 ――すると、

「――ん? 望(のぞみ)か? どうして、ここにいるんだ?」
「え?」

 唐突に聞こえた声。
 振り返ると、そこには見知った相手であり山岸先輩と戦いテロリストとして全世界に指名手配されている男――、レムリア帝国の四聖魔刃の一人クーシャン・ベルニカが立っていた。
 
 
 

「【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代アクション」の人気作品

コメント

コメントを書く