【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

黄泉平坂(3)第三者side



 山岸鏡花が手を振るうと同時に、周囲の白い空間は一変する。

「ここは……」

 佐々木望の目の前に現れたのは、日本では良く見かける何処にでもありふれた場所――、神社の境内。
 彼女は、境内を見渡しながら目を見開く。
 そこで佐々木望は気が付く。
 神社に在る手水舎――、神社への参拝者が身を清める為の場所。
 その場所に流れ込む水がまったく動いていないことに。

「水の流れが……」
「そう。ここは時の停まった場所。時と時の狭間――」

 佐々木望の呟きに答えたのは山岸鏡花――、その人。
 彼女は、上に白衣――、下に緋袴に草履と言った出で立ちをしていて――、さらに上からは鶴と松の柄が描かれた千早を羽織っていた。
 それらが大人の女性になりつつある高校生でもある山岸鏡花の魅力を引き立てているようであり――、その恰好を見た佐々木望は、

「あの……」

 何が起きているのか? と、問いかけたところで、口を閉じた。
自らの姿も山岸鏡花と同じ格好をしていたからであった。

「――え? 何時の間に……」
「ここの主に許可を得なければいけないもの。その為の衣装なのよ?」
「それって……、どういうことですか? ここは、一体……」
「ここはね。上落ち村の神社。全ての始まりの場所であり、全てが終わった場所でもあるの」
「全てが始まった……?」

 断片的な情報。
理解が出来ない状況に佐々木望の苛立ちが募っていく。

「きちんと話してもらわないと分かりません。それに一体、これからどうするつもりですか?」
「…………どうやら、彼女とはリンクはしていないようね」
「――え? リンクって、どういうことですか?」
「貴女が、いま知る事ではないわ。それよりも話を続けるわね。まずは、兄を救いだす」
「先輩を? 先輩を何から救うのですか?」
「ここに居る存在から――、そういえば分かりやすいかしら?」
「存在? 一体、先輩は何に……、山岸先輩はいったい! 何に囚われているのですか!?」
「神棟木(かみむなぎ)よ」
「かみむなぎ? それは、一体……、何なのですか?」
「それは……」

 そこまで、言いかけたところで神社の扉がゆっくりと開くと共に中から一人の女性が姿を現した。

「妾の領域に土足で踏み入るのは、そなたらか?」

 思わず、その場で立っていることすら出来ずに跪き頭を垂れる二人。
 声色は静かであったが、その言霊に含まれた威圧は二人を無理矢理、頭を下げさせるほどの力を有していた。

「ご無沙汰しております」
「ふむ……」

 絶世の美貌という言葉すら、彼女の前では霞んでしまうほどの容姿。
 そして――、白い着物に踝まで届くであろう銀色の髪。
 どれもが人からは遠く離れた存在であることを示しているようであった。
 しばし、山岸鏡花を見ていた女は途端に顔色を変える。

「忌々しい。今更、何の目的で此処に来たというのか?」
「山岸さん、彼女は一体……」
「佐々木望も同伴するとは――、ここを穢れの場所にするつもりなのかえ?」
「彼女は月読」
「月読? それって……月の女神の――?」
「ええ――、それと……。月読様、私は、この場所を穢れの場所にするつもりは、そのようなつもりは一切ありません。ただ――、兄を返して頂ければと……」
「兄? ああっ……彼のことね。もう――終わりにしてあげたらいいのではなくて?」


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