【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

生贄の祭壇(7)第三者side




 ――巨大な空洞。

 そこは、どこまでも暗闇に閉ざされていた。
 そんな中、一人の女性――、佐々木望が壁に磔にされていた。
 その身体は蔓に絡まれているだけでなく、蔓の一部が彼女の手足に刺さり――、一部が同化をし――彼女の心臓の鼓動と共に浸食していく。

「…………ここは……」

 意識を失った彼女には、ダンジョンに入ってから、どのくらいの時間が経過したのか分からなかった。
 ただ、意識を取り戻した彼女は重い瞼をゆっくりと開ける。
 すると、その視線は当然、暗闇に向けられるが、人の目では深淵の闇を見定めることは叶わなかった。

「ほう? 目を覚ましたのか」

 唐突に――、巨大な空間を満たすかのような圧倒的な威圧を含んだ声が周囲に響き渡る。
 それと共に、漆黒の闇に閉ざされていた大空洞に明りが点灯していく。

 空間が完全に照らされた場所は、東京ドームを数倍広くした程の巨大な空間で――、彼女の視線の先には幾つもの人影が見受けられた。

「あなたは……」

 佐々木望の視線の先。
 そこには一人の少女が立っていて――、その後ろには佐々木望と一緒にダンジョンに入った男達が二人、力無く蔓に束縛されて吊るされていた。

「……誰なの?」
「……やれやれ……妾のことを雄三より聞いてはおらぬのか?」
「――ま、まさか……、お守り様……」
「その名は真名ではないが、よい! 許してやろうではないか! 本日の妾は大変に気分がよい! 受肉に成功するのだからな!」
「受肉……?」

 目の前の――、佐々木家を古来より守護していると言い伝えられているお守りに佐々木望は不吉な感じを抱きながら声を出さずにいられなかった。
 何故なら、目の前のお守り様こそ佐々木望の父親の失踪に関わっている――、死んだことに関わっていたのだから。
 恐怖と共に怒りが沸き上がってくるが――、彼女は体を動かす事は出来なかった。
 まったく体に力が入らない。

「無駄じゃ。お主の体は薬により力がしばらくは封印されておる。それに妾(わらわ)の、念願の体でもある。無駄に抵抗せずに、その身体を妾に差し出すがよい。貴様ら佐々木家の本願である契約も、それと共に成就させてやろう」
「……何の話……なの……?」

 呂律が回らなくなってきた事に佐々木望は気が付く。
 それと共に、彼女は自分を裏切った冒険者のことを思い出す。
 ダンジョンに入って、しばらく経過したところで後ろから彼女は同行した冒険者から首筋に薬を注入された。
 そして――、意識を失ったと思ったら、ここに居たのであった。

「――お主は、もうすぐ消える。それを語ったところで無駄な事じゃな。――さて……」

 佐々木望の言葉に答えながらも、お守り様と呼ばれた女は吊るされた男達へと視線を向け――。

「まずは生贄の為の契約を行う前の前菜が必要であろう。――さて」

 女が人差し指と親指を擦り――、そして鳴らす。
 音が鳴り響くと同時に、蔓に縛られていた男達がドーム状の空間に吊るされているばかりか――、天井へと引き上げられていくと同時に触手がドーム状の壁を貫き姿を現す。

「――さて! はじめるとしよう! 神誕の儀式を!」

 声高々に、お守りが声を上げると共に2人の冒険者の体が触手に撒き疲れると同時に粉々に粉砕され血が足元の地面に向けてまき散らされていく。
 その光景は、あまりにも現実離れてしており、佐々木望の理解を遥かに超えていた。

「――いや……」

 弱々しく佐々木望の声が口から零れ落ちるが――、その間にも男達の血はお守りを中心に魔法陣を作り上げていく。

「ハハハハハッ! 佐々木望! 貴様を、逃した時には妾は大変に激怒した! 怒り狂った! だが! いまは! 感謝しておるぞ!」
「――え?」
「そのレベル! その力! 全て、妾が受胎するに相応しい肉体に成長した! 男の体でも十分であったが! 貴様の今の力なれば女でも問題はない! 否! 女の方が胎片を産むに適しておる! 褒めて遣わそう!」

 両手を広げて愉悦の声を上げるお守り。

「お待ちください!」
「――ん?」

 血のまったく通っていない白い顔に笑みを張り付けて笑う! そんな、お守りに「待った!」を掛けたのは一人の男。

「雄三か? どうかしたのかえ?」
「どういうことですか……。いま、話が上がってきましたが……、冒険者だけでなく職員までも殺したというのは、それは契約とは……」
「契約? 何を言って居る? 雄三」

 ニタリと微笑むお守り。
 それに対して雄三は口を開く。


 

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