【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

世界情勢(4)




「それは……」
「それは?」

 ニコリ! と、微笑みを向けてくる藤堂が近寄ってくると俺の腕を掴んでくる。

「少し、お話をしましょうか?」
「いや――、俺はすぐに行かねば――」
「すぐに済みますので」
「そんな時間は……」
「ピーナッツマンさん?」
「……わかった」

 妙な気迫に押されるようにして俺は溜息を交えつつ頷く。

「相沢さんでしたっけ? 少し借りていきますね」

 俺は物じゃないんだが……。
 
「ちょっ――」

 抵抗すれば、無理矢理部屋から連れ出されることはないし……、俺には何の落ち度もないから問題ないはずであったが、藤堂の目が笑っていない事に気が付き断念し大人しく部屋から出る。
 廊下に出たところで近くの部屋に入ったところで藤堂が何か機械を取り出して近くの壁に向けると部屋中を何か調べ始めた。
 しばらくしてから満足したのか取り出した機械をポケットに仕舞うと俺の方を向いてくる。

「盗聴器などは確認できませんでしたので――」
「なるほど……」

 どうやら藤堂は、部屋に盗聴器が無いのか確認していたようだ。
 俺に言ってくれれば『神眼』で確認する事も出来たが、藤堂には言っていないからな。

「はい」
「それで、盗聴器の有無を確認してまで話したい事とは何だ? ギルドチャットでも良かっただろう? あれなら他の人間に聞かれることも――」

 そんな俺の問いかけに藤堂は左右に頭を振るう。
 何が不満なのか……。

「大事な話は、きちんと相手の顔を見て――、と、思っていますので……」
「そうか。――それで大事な話とは?」
「まず佐々木さんの件ですが、『戦国無双』のギルドメンバーが関わっているのは確認できました」
「それは、さっき聞いた」
「はい。それだけではなく、日本ダンジョン探索者協会の鳩羽村支部の人間の支部長を含めた半数の人員が資料改竄などから佐々木家本家と関わり合いがある事が公安の調べで分かっています」
「半数? つまり――」
「はい。ダンジョンへの派遣をした日本ダンジョン探索者協会は、佐々木家本家からの依頼を遂行したと見ていいです」
「つまり、俺をこの部屋に連れてきたのは……」
「間者がいるかも知れない場所で詳細の説明をすることは出来なかったからです。そのため相沢さんには申し訳ありませんでしたが、目眩ましとして利用させて頂きました」
「なるほど……。それで佐々木家本家の方に佐々木が連れて行かれたというのは?」
「それは確認できませんでした」
「ということは……ダンジョンに入っていったのは間違いないということか」
「はい。ただ――、何かあるにしても佐々木さんのレベルは8000を超えています。危害を与えられるほどの人物が居るとは……」
「ダンジョン内では何が起きるか分からない。レベルだけを強さの基準にするのは危険だと俺は思っているが?」
「そうですね。一刻も早く佐々木さんの救助をお願いします」
「分かった」
「それと……」
「まだ何かあるのか?」
「はい。中国とレムリア帝国が戦争状態に突入したことは説明したと思いますけど、衛星写真で確認する限りでは中国に存在しているダンジョン全てからモンスターが出て来ていて中国軍と戦闘を始めているようです」
「つまり中国はダンジョンモンスターと、レムリア帝国の2つと戦っているということか?」

 それは、かなり大変な事態に思えるが――、

「いえ、4方向です」
「4方向?」

 藤堂は頷くと――、

「長年、民族弾圧を中国によりされてきたチベットと東トルキスタン――、現在のウイグル自治区は中国軍が弾圧に手が割けない事になったことで一斉蜂起しました」
「つまり内乱か?」
「国際社会は、今回のチベットと東トルキスタンの独立運動に関して支持すると声明しています」
「モンスターがダンジョンから溢れて出ている時期にか……」
「政治問題ですから」
「ふむ……」

 たしかに長年、チベット人や東トルキスタン人を弾圧してきたのだから、中国軍が弱体化すれば独立に傾くのは必然。
 ただ――、一つ気になることがある。

「独立の為の武器は、どこから調達している?」
「ロシアが裏で関与しているようです」
「ロシアか……」

 あまりいい印象の無い国だ。
 大東亜戦争の時も日本が負けそうになった時に、国際条約を無視して攻め込んできて北方四島を不法に奪った経歴があるからな。

「火事場泥棒には、定評のある国か」
「はい。正直、信用のおけない国というのは夏目総理も考えているようですので――、今回の中国で起きている戦争については一切! 手を貸さないというスタンスを取ったようです」
「つまり分裂して中国の覇権が弱まれば日本国の安全は確保できると?」
「はい。そうなります」
 






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