【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
撤退戦(20)
「はい……」
答えを導きだせずにいる相原は、小さく頷いてくる。
いまは、それでいいだろう。
それに、俺がとやかく言う資格があるとも思えないからな……。
――内心で溜息をつきながらも、俺自身も自分が戦う理由が今では空虚で有る事を自覚しつつ、相沢を供だって地上に出る階段を上がっていく。
階段を上がったところは、日本ダンジョン探索者協会の敷地内。
近くには、鳩羽村支部の建物もある。
ただ――、入って来た時とは違った点が一つだけ。
「……こ、これって……」
階段を上がる時には悲壮感ある表情をしていた相原の様子が一変し――、緊張感ある雰囲気を見せつつ、小さく言葉を紡ぐ。
彼女が緊張しているのは――、
「ずいぶんと人数を投入したものだな」
――そう呟きながらも俺は、肩を竦める。
そんな俺達を取り囲むかのように3百人を超える陸上自衛隊の面子。
どれもがレベルが1000近く。
間違いなく魔法を習得している。
その中から一人の男が姿を現して近づいてきて――、
「あの人って……、宮下防衛大臣?」
「よく知っているな」
「――で、でも……、どうして……、こんなところに……」
「久しぶりだな。ピーナッツマン。少し時間はいいかな?」
「断ることは出来ないんだろう?」
「分かっているならいい。それに――」
宮下が、チラリと相沢の方へと視線を向ける。
「彼女は? 先に出てきた探索者からの証言だと君に、弟子が居ると聞いたが、その女性で間違いはないのか?」
「まぁ、そうだな……」
勢い余って相沢を弟子と言う形にしてしまったが、この場で嘘だと言うのも不味いだろう。
それに俺の弟子って事にしておいた方が、余計なギルドなどからの勧誘や問題事から遠ざけることも出来るからな。
日本国政府から何か催促が来る可能性はあるかもしれないが、その辺はきちんと弟子では無いといっておけばいいし……。
「分かった。すぐに君から話を聞いて対策を取りたいと思っている。付いてくてくれ」
「仕方ない」
宮下と、その他――、集まっている陸上自衛隊の面子の中でも特にレベルが高い1200を超える3人――恐らく護衛だろう。
――が、一緒に日本ダンジョン探索者協会鳩羽村支部の建物に向かう。
そのあとを俺と相沢は付いていく。
「あの、ピーナッツマンさん……」
「今は黙って付いていくしかないな」
「日本政府とパイプがあったんですね」
「そうだな……」
それにしても、日本国政府もレベル1000近くの陸上自衛隊の人間を300人以上抱えている事に少しだけ不信感を持つ。
「それにしても……」
「ピーナッツマンさん?」
俺は思わず一人呟いてしまうが続く言葉を呑み込む。
何か日本国政府は隠しているのではないのか? と、言う言葉を――。
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