【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

撤退戦(14)




 10階層の休憩所は、安心という事もあり22階層から連れてきた連中はしばらく逗留し休憩をする事になった。
 それでも数時間後には地上に向けて移動する事にはなるはずだが……。

 解散した後は、俺は11階層の休憩所を見回りながら何か問題が起きていないのかを確認する。
 ちなみに現在は、ピーナッツマンの着ぐるみを着たままである。

「団長がか! それは本当かよ!」

 唐突に、そんな声が聞こえてくる。
 相沢を探していたから無視しても良かったが、どうやら威勢のいい声を上げたのは聞き覚えのある声色。
 たしか、戦国無双の幹部と言っていた藤岡史郎という名前だったか……。

「本当だ。それとピーナッツマンには手を出すな。アイツはヤバイ……。それと面倒ごとも起こすなよ? 藤岡、お前がピーナッツマンに突っかかったのは先ほど聞いたが余計な問題は絶対に起こすな!」
「そりゃないですよ! 石橋さんともあろう方が、あんな着ぐるみを着た奴に気を遣うなんて! 俺達は日本でも屈指の最強のギルド! 戦国無双ですよ!」
「貴様の意見はどうでもいい。下手をすれば我々のギルドが潰されることになる。それだけは避けなければならない」
「団長!」
「藤岡、これは戦国無双のギルドマスターの織田信伯の命令だ。あの化け物にだけは絶対に手を出すな」
「――クッ! 分かりましたよ!」

 何かを叩くような音が聞こえてくる。
 どうやら物にでも当たったようだな。
 それにしても、俺のことを化け物呼ばわりか……。
 まぁ、俺の戦い方を見ていれば、そう思うのも仕方ないのかも知れないな。

 内心、溜息をつくと共に町の中を歩く。
 
「ピーナッツマンさん。警備ですか?」
「まぁ、そんなもんだ。22階層からは強行軍だったんだ。少しは休んでおけ」
「はい! そ、それで! 俺を弟子に!」
「断る」
「ですよね……。サインだけでも――」
「そのくらいならいいだろう」

 弟子入りを志願してきた20代前半であろう男の希望を断り、服にサインをする。

「ありがとうございます! 家宝にします!」
「直孝だけずるい! 私も! 私も!」

 一人にサインをした事で、それを見ていた年若い冒険者たちがサインを強請ってくる。
 一応、俺はピーナッツマンとして変なことはできない。
 何せ千葉県の特産物の名を借りているのだから。
 仕方なく「ピーナッツマン! ここに参上!」と、言うサインをしていく。
 1時間ほどで、サインも終わる。
 そしてスキル「神眼」で確認していた相沢の方角へと向かう。

「こんなところにいたのか」

 そこは11階層の外れ――。
 記念碑のような物が建てられており周りには色とりどりの花が咲いている。

「……ピーナッツマンさん」
「周りには誰もいない。山岸でいい」

 一応、スキル「神眼」で周囲を確認したが、周りには誰もいないから話し声が他人に聞かれるようなことはない。

「水上から話は聞いた。何か問題が起きたんだろう?」
「……」

 相沢は無言のまま小さく頷く。

「別に話す必要は無いと思うが、これから何が起きるのか分からない。相沢も殿を任せられている以上、戦う事が出来ないというのは避けて貰いたいものだが、大丈夫なのか?」
「……山岸さんは――」

 俺の言葉に反応したように彼女は、記念碑を見ていた視線を俺の方へと向けてくる。
 そして――、

「戦う事が怖くないんですか?」

 ――と、俺に問いかけてきた。


 

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