【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

撤退戦(10)




 俺を先頭にしてダンジョン内を進む。
 殿は、相沢が務めることになったが彼女とは言い合いをした事もあり、正直なところ心配はしていた。
 だが――、現在のダンジョン内で殿を務められる力を持つ者は相沢以外にはいない。
 
「ピーナッツマンさん、後ろの方ですが――」

 俺と一緒に歩いている日本ダンジョン探索者協会の22階層休憩所責任者の水上。
 彼は22階層の休憩所の責任者であり、先頭で問題が起きた場合に迅速に指揮が取れるようにと危険な場所である先頭に居る。

「何か?」
「後方の方ですが、大丈夫でしょうか?」
「どういう意味ですか?」
「いえ――、ピーナッツマンさんが推薦した相沢さんという女性ですが戦う事を恐れているように見えるのです」

 戦う事を恐れている? どういうことだ?
 少なくとも俺は、相沢に戦闘経験を積ませてきた。
 その間に戦うことを恐れているような姿を見たことはないが……。

「気のせいじゃないのか?」
「――いえ」

 水上が頭を振って否定してくる。

「最初に彼女を見た時は何も感じませんでした。むしろ――」

 そこで水上が口を閉じるが――、

「どこか危うさを感じていました。まるで探索初心者のような……。だからこそ、大丈夫だと思っていたのですが……」
「つまり、いまは危うさではない別の物を感じ取ったと言う事か?」
「はい。簡単に言うなら恐怖を始めて知って戦い自体を恐れているように思えます。何か心当たりでもありますか?」
「わからないな」
「どちらにしても戦うことを恐怖し震える者はどんなに手練れでも足手纏いになりかねません。すぐに対応をした方がいいと思いますが……」

 多くの探索者を見てきた結果なのか、水上が断定して答えを出してくる。
 たしかに言っている事は間違ってはいない。
 相沢が恐怖で戦えない状態なのかは別としてだ。

 ――それと恐らく……恐怖という意味だが……。。
 おそらく、レベル3000のミノタウロスと戦った時に関わって居るのかも知れない。
 あの時は、相沢はかなり動揺していたからな。
 
 ――いや……。

 他にも32階層と42階層の休憩所で凄惨な場面を見たことも要因としてあるのかも知れない。
 普通に生活をしている分には見るような光景ではないからな。
 だが今更、そんなことを言っても始まらない。
 レベル1000付近のギルド【戦国無双】でも、レベル300から500付近のモンスターをから逃げるので精いっぱいなのだ。
 レベル100から200付近が多い日本ダンジョン探索者協会の職員では一方的に蹂躙されるだけだろうし、レベル500付近が多い探索者でも怪我をするのが関の山だろう。
 下手をすれば死人も出かねない。
 実質、いまの移動中の列の参加者で、ダンジョン内で戦えるのは俺と相沢くらいだ。
 戦えないというのは――、そういう甘えは、許される状況ではない。

「水上さん」
「何でしょうか?」
「戦国無双の連中だが……、この際は使えるものは何でも使おう。織田以外の罪を――、このダンジョンに入ってきてからの罪を不問にすると言う事で戦力として利用するとしよう。そいつらに関しては、相沢のサポートを任せるとする」
「それは本気ですか?」
「ああ、俺に対しての問題はいい。ただし! それ以外の、このダンジョンに潜る前の罪に関しては地上に戻ったら裁いてもらう事にする。だが、その事に関しては伏せることにしよう」
「分かりました。すぐに――」

 水上がギルド【戦国無双】の連中が縄で縛られて連れられているであろう列の真ん中に小走りに向かう。
 それを見ていた所で視界内に半透明のログが流れる。
 
「――さて、モンスターのお出迎えだな」

 俺の目の前には無数の――。
 ダンジョンからの脱出を妨げるようにして大軍を為しているモンスターの姿が確認できた。
  

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