【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン攻略(25)




「……え?」

 スキル「神眼」があるからこそ、現状を冷静に確認が出来る俺とは対照的に、小さく呟いた相沢が体を震わせていた。
 
 ――そして彼女を抱きかかえているからこそ、それをより如実に感じとることができた。

「――そ、そんな……」
「とりあえず上の階層に戻るぞ」
「生き残りを探したりとかは――」
「生命反応はない」
「それなら下の階層は……」
「下の階層は分からないが――、居るかどうか分からない生存者を見つける為に時間を割くことは時間の浪費に他ならない」
「そんな言い方しなくても――」
「相沢、よく考えろ。俺達は22階層の休憩所まで情報を持っていく方が最優先だ。そして、22階層から上の階層に居る冒険者や日本ダンジョン探索者協会の職員を誘導し避難させること――、それが現状ではもっとも優先されることだ」
「そんな!? ――な、なら休憩所に居ない人はどうすれば……」

 相沢は、懇願するような表情で俺を見上げてくるが、

「切り捨てるしかない。元々、ダンジョンに潜る時点で多かれ少なかれ自らの命を懸けている冒険者をしている連中だ。自分のことは自分でする。それが冒険者だろう?」
「……」

 俺の言葉に納得できないのか相沢は唇を噛みしめ俯いてしまうが、正直なところ23階層から42階層までスキル「神眼」で各階層の生存状況を確認して移動してきた俺は、各階層の生存者状況を全て把握している。
 その結果、23階層から42階層までの生存者はゼロ。
 おそらくだが、スマートフォンの映像で見た植物系の――、木霊の眷属とやらに殺されて食われたのだろう。
 21階層にも一匹いた事から、早く上層階層へ戻らなければ無事だった休憩所も危険に晒されることになる。

 ――それに……、佐々木も危険に晒される可能もなくはない。

 俺は相沢からの返事を待たずに41階層に繋がる階段を上がる。
 そして――、落下してきた大穴まで横穴を走り――、落下してきた場所まで戻ったところで上を見上げる。
 もちろん、その間――、相沢は完全に無言。
 俺は気にせず足元の――ダンジョン内の石畳を砕くばかりに蹴りつけ跳躍し、壁を上層へ向けて走る。

 僅かな時間で33階層まで到着。
 すぐに32階層の休憩所を通り過ぎたあと、上層階層まで続く穴をジャンプで登っていき――、23階層に到着。

「ここからは休憩所だ。なるべく冷静に努めて着いてきてくれ」
「……」

 無言で頷いてくる相沢。
 彼女も、心では納得できなくとも理解はしているのだろう。
 混乱すれば助かる命も助からなくなることに。

 階段を上がり22階層に上がる。

「ピ、ピーナッツマンさん? 何か、ありましたか? 忘れ物とか……」

 話しかけてきたのは、日本ダンジョン探索者協会の女性。
 たしか川野春奈と言ったか……。

「いや、とりあえず42階層まで調べてきた」
「――え? 向かってから1時間も経っていませんけど……」

 驚いた表情を見せたが、すぐにその表情は――、俺の隣に立っていた相沢を見たことで引き締まる。

「何か問題が発生したんですね」
「そういうことだ。すぐに水上さんと話がしたい」
「それでは、事務所まで来てください」

 



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