【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
鳩羽村ダンジョン攻略(21)
「それで、これからどうしますか?」
水上と話が終わったところで相沢が話しかけてくる。
「治療は、終わったのか?」
「はい」
「そうか」
「あの……ピーナッツマンさん」
水上が遠慮がちに話しかけてくる。
男に捨てられた仔犬のような表情を向けられても困るんだが――。
「約束は守る。30階層と40階層の休憩所への連絡通達のことだな?」
「はい。本当に何と言えばいいのか……」
「気にすることはない。コイツは、俺の弟子に手を出すばかりが本来ならば男が守らなくてはならない婦女子に暴行を働いていた。そして、さらに罪を重ねようとしていた。それを未然に防いだだけだ。別に迷惑などとは何一つ思ってはいない」
「ありがとうございます。それで、念のためにこちらを――」
水上が渡してきたのは2通の茶封筒に入った封書。
「現在の22階層の状況が記載されています。それと、22階層の管理をしています私――、水上の名前も――」
「なるほど」
つまり身分を保証するような物か。
まぁ、現在は階層ごとに情報が遮断されている状態だから、身分を明らかにするための証明書のような物は必要だろう。
一応、冒険者カードは持っているが、それだけだと不十分かも知れないからな。
「預かっておこう。相沢、いくぞ」
「――は、はい……」
現場と今後の事を水上に任せて、痛いほどの視線を背中に浴びながら、その場を後にする。
しばらく歩き23階層に下る階段が見えてきたところで、「山岸さん」と、神妙な表情で俺に話しかけてくる相沢。
「どうかしたのか?」
階段を降りながら言葉を返す。
「あの、戦国無双のギルドのことですけど……」
「それなら倒しただろう?」
「――いえ、そうではなくて……」
何やら、俺に込み入ったことを聞きたいようだが――。
「聞きたいことはハッキリと聞いておけ。何か、あってからでは連携が取れなくて困るからな」
「…………私、さっきの山岸さんと戦国無双の戦いを見ていて思ったんですけど……」
「ふむ」
「あの人たちってレベルが500を超えている人ばかりってネットでは書かれていました」
「そうだな」
「――でも、そんなに強いようには思えなかったんです」
「……」
まぁ、正直なところステータスだけで言うなら相沢一人でも、俺が倒した連中くらいは手加減をしなければ一蹴することは出来ただろう。
レベル補正があると言っても現在の相沢のステータスは、戦国無双の織田を遥かに凌駕している。
おそらく戦闘になれば一方的に織田の首を、その手に持つ神刀で斬り飛ばす事も可能だっただろう。
――だが、それは……。
「たしかに、お前の方が強いのかも知れないな」
「本当ですか!?」
「ああ、おそらく既に、この鳩羽村ダンジョン程度なら一人で攻略は出来ずとも、ある程度まで探索することは可能だろう。だが――、モンスターを相手にする時と対人戦をする場合には訳が違う」
「分かっています」
「――それは、本当か?」
「――え?」
俺は振り返り階段の下から上を見上げる。
そこには、俺が言いたい言葉の真意を測りかねているのか戸惑いの表情を見せている相沢が居て――。
「対人戦をするという事は、人を殺す可能性もあるという事だ。もし人を殺した場合には、その罪を背負わなければならない。どんな理由があったとしても、人が人を殺すのは……」
そこまで言いかけたところで、俺の脳裏に――、あの時の――、妹を救えなかった時の記憶がフラッシュバックする。
そう、俺は救えなかった。
――だから……俺は……。
「山岸さん?」
「――」
俺は頭を左右に振る。
「もし人を殺す覚悟が無いのなら対人戦は止めておけ。そして……、もし、本当に戦う必要がある場面になれば迷わず殺すつもりで戦え。背後に守りたい者がいるなら尚更な」
「……はい」
余計な話で場が暗くなった。
俺は小さく溜息をつき場を繋ぐ。
「とりあえず、30階層と40階層の休憩所まで向かうとしよう」
「は、はい。――でも、MAPは……」
「問題ない」
俺には、スキル「神眼」があるからな。
それに――。
「近道をする」
「近道ですか?」
「ああ――」
俺は階段を降りて少し進んだところで石畳の床に向けて拳を叩きつける。
スキル「限界突破LV10」を使わない状態での全力。
周囲に振動が伝わると同時に、俺と相沢が立っていた迷宮の石畳の床に亀裂が走り陥没する。
「きゃああああああ」
落下と共に相沢の悲鳴が聞こえるが、それは暗闇の中に吸い込まれる。
そうしている内に、すぐに下の階層――24階層の通路の床が見えてきた。
俺は、落下しつつ更に蹴りで24階層の床を蹴り砕く。
「ま、まってください! まだ着地すらしてな――」
相沢の言葉は無視。
そのまま床は崩壊し俺達は床だった残骸と共に落下を続ける。
「よし! このペースなら1分も掛からずに30階層に到着できそうだな」
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