【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

鳩羽村ダンジョン(3)




 年を重ねると早く眠くなり、早く起きるようになる。
 そして、それは俺も例外ではなく――、微睡の中で目を覚ます。
 瞼を開けると、「おはようございます、山岸さん」と、目を覚ましていたのか隣で寝ていたであろう相沢が話しかけてくる。

「おはようございます。ところで、どうしてこんな近くで――」
「何となくでしょうか?」
「何となくですか」
「はい、何となくです」

 これ以上、話しても真相は闇の中だと判断し俺は布団から出る。

「ところで、佐々木には連絡しておいてくれましたか?」
「はい。望ちゃんには、きちんと言っておきました」
「そうですか」
「それでは、私は朝食を作りますので」

 建物は2階建てになっている。
 1階は、小料理店ということで店舗になっており、2階が住居として利用されているので、俺は食事の為に1階へ降りる。
 さすがに、1階と2階の両方に台所を作るメリットは無いのか台所は1階のみだからだ。

「今日は、早めにダンジョンに行きたいと思いますので、簡単な食事でいいですか?」
「構いませんよ」

 そう答えながらも、用意された品は、古き良き日本の家庭料理の定番とも言える焼き魚と納豆と海苔に沢庵、あとは味噌汁と炊き込みご飯。
 これで、簡単な食事とは如何に……。

「頂きます」
「はい、いただきます」

 二人でカウンターに座り朝食を食べたあとは、鳩羽村ダンジョンに行くための用意をする。
 まぁ、俺の場合はダンジョンに潜る為の用意なんて一切ないんだが……。

「そういえば、山岸さんは何か武器とかは使わないんですか?」
「そうですね。徒手空拳なので、この拳が武器と言えば武器です」
「……そ、そうなんですか? ダンジョン攻略まで行く方――、Sランク級の冒険者の方は変わっている人が多いと聞きましたけど――、あっ! 山岸さんが変わっているんじゃなくて! 戦い方が変わっている人が多いって意味ですから!」
「分かっていますよ。比喩ですよね」
「はい」

 まぁ、俺は厳密に言えば冒険者ではないからな。
 それどころか正規の手続きすら踏んでない――、冒険者カードだって夏目が渡した物に過ぎないから、冒険者でも別名である探索者ですらない。
 戦い方が決まっていないのは当然である。

 急須から緑茶を湯飲みの注いで飲みながら、相沢さんの用意が終わるのを待つ。
 そして30分ほど過ぎたところで、

「お待たせしました」

 降りてきた相沢は、赤い色の分厚いベストとズボンを着ている。

「それは……」
「一般的な冒険者が着る服です。対刃用のベストとズボンになります」
「なるほど……」

 結構、ダボっているような感じがするが一般的な冒険者の服装を見た事が無いから何とも言えん。
 とりあえず性能面から見ればカーボンナノチューブを使って作られた日本ダンジョン探索者協会の制服の方が遥かに強度と防御面は高そうだな。
 まぁ、向こうは本職だからな。
 それに税金も投入されているし、一般市民が購入できる装備より良い物が配備されているのは必然とも言えるか。

「ところで、その大きめなカバンは?」
「一応、水と食料です。あとは、モンスターからのドロップなどを入れておくための物でもあります」
「なるほど……」

 俺はアイテムボックスという魔法を持っているから気にした事がないが本来なら水と食料は必須なんだよな。
 それよりも――。

「モンスターからのドロップはモンスターコア以外にあるんですか? あとは、レアアイテムとか?」
「いえ、ここのモンスターは肉を落とします」
「肉?」
「はい! 松阪牛を落とします!」

 なるほど……、よく分からん。

「それでは行きますか」

 百聞は一見に如かずと言うからな。
 聞くよりダンジョンに直接言ってモンスターからのドロップ現場を見た方が早いだろう。
 

 

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