【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
鳩羽村ダンジョン(2)
「それで、何時頃に潜れば?」
「今からは無理ですか?」
「今からですか……」
スマートフォンで時刻を確認するが、すでに午後10時を過ぎている。
ダンジョン内に潜る開始時間は何時からとは別に決められてはいないが――、夜から潜る冒険者は少ないとネットで書いてあった気がする。
それは、人間には体内時計が存在していて、夜の時間帯から潜ると睡魔などを含めて色々と弊害があるかららしい。
まぁ、命がけの仕事なのだから体調管理やジンクスを重んじるのは当然と言えば当然の帰結だ。
「明日とかはどうですか?」
「……わかりました。すいません、何か無理を言ってしまって――」
「いや、気にしなくていいです。それより自分からもお願いしたい事があるんですが」
「お願いですか?」
「はい」
ジッと相沢さんの方を見る。
すると――、ハッ! とした表情をしたかと思うと両手で豊満な胸を隠しつつ表情を赤くすると、「山岸さんには望ちゃんが居るんですよね? いくら、夫に似ていても体までは――」と、何やら勘違いしている。
「いや、別に毎日――、牛丼を作ってくれるだけでいいので」
「毎日!? つまり、毎日! 味噌汁を作ってほしい! みたいな比喩的表現みたいな?」
「いえ! まったく! ぜんぜん! そんなことはないです」
どうして俺の周りに近づいてくる女性陣は、へんな表現をしてくるのが多いのか。
突っ込みどころが多すぎて困る。
「本当ですか? 毎日、食事を作ってほしいという事は、つまり俺の嫁になれ! って、プロポーズですよね?」
「それはもういいので、とりあえず明日の朝に来ますので、用意しておいてください」
溜息をつきながら席から立ち上がりつつ、万札を財布から取り出してカウンターの上に置く。
「あっ! 待ってください!」
外に出ようとしたところでカウンターから出てきた相沢が俺の腕を掴んでくる。
「――あ、あの……、山岸さんは……、旅館で何かあったんですよね? そんな感じでしたし……、良かったら! 今日は、家に泊まって行きませんか?」
「それは……」
その提案は、たしかに魅力的である。
一応、運営資金は鳩羽村交通・旅館『捧木』・クリスタルグループと、それぞれ独立した法人口座に億単位で入れてあるから、殆ど会社運用に携わっていない俺が居ても居なくても会社運用に殆ど影響はない。
それに、各政財界の大物なども粗方、初日に受け入れたことだし俺が旅館に帰る意味は薄い。
あとは、佐々木と会い難いからな。
「望ちゃんには、私から連絡しておきますから」
「そうですか、それではお願いできますか?」
「はい!」
まぁ、一日くらいなら問題はないだろう。
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