【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

交渉と面接(5)




 そうなると、香苗さんを連れていくのは逆にマイナスか。
 だが――、早めに足の確保はしておきたい。

「そうなると別の方法か……」
「先輩、そうすると、千城台交通からシャトルバスを用意してもらった方がいい感じですよね……」
「――いや、どうだろうな……」

 正直、短期的に見るのならシャトルバスの運用で十分問題ないと思うが――、これからの事を考えると、この旅館だけが収益を上げるという形を取ってしまうと回りから何とみられるのか? というのもある。
 
「――え?」
「よく考えてみろ。ポーション入りの風呂なんて世界広しと言えど、この旅館くらいだぞ? つまり湯治客が詰め寄る可能性が非常に高い! ……と、思う……たぶん」

 正直、旅館の運営どころか会社の運営すら素人同然の俺には、どうなるのか? と、いう予測がまったく立たない。
 とりあえず来客に受ける要素を詰め込んでおけばいいとしか考えていないから、ハッキリと答えられない。

 ――ただ、ポーション……、薬湯温泉は受けるとは思っている。

「山岸さん。女将の私が思うに薬湯温泉は絶対に受けます! これは長年、旅館を経営してきた私が――」
「でも、旅館『捧木』は赤字だよね……、お母さん」
「「「……」」」

 佐々木の言葉に思わず全員が無言になる。
 
「と、とりあえずだ!」

 俺はわざとらしく咳をしながら言葉を選ぶ。

「地元にもある程度のインフラを還元すること――、これは商売をする上で重要じゃないのか? たぶん、そのことを富田さんは言いたかったのかも知れない」

 俺は発言したあとに、語尾に「たぶん」と心の中で付け加えておく。

「まずは、ダメ元で鳩羽村交通の社長に話をしてみるのがいいんじゃないのか?」
「そうですね……」

 香苗さんが同意を示してくるが――、佐々木は何処か浮かない表情のまま。

「佐々木、何かあるのか?」
「ううん。何でもないの……」

 その言い方だと何でもあるという感じになるんだが……。
 まぁ野暮なことを言っても仕方ないな。

「とりあえず、一度――、鳩羽村交通に行ってきてみます」
「それなら私も行きます」

 ノートパソコンで地図を開き――、鳩羽村交通の場所を調べたあと立ち上がると佐々木が俺の服裾を掴んでくる。

「いや、来なくていいから」
「――でも、顔見知りの方がいいですよね?」
「まあ、そうなんだが……」
「望、それなら山岸さんには私が一緒に着いていくから――、貴女は旅館でお留守番をしていなさい」

 どうしても付いて来たいという佐々木に待ったを掛けたのは母親である香苗さん。
 
「お母さん?」
「貴女よりも、私が行った方がいいわ。迷惑を掛けたのは私なんだから――」
「――で、でも!」
「旅館の問題は、女将である私の問題でもあるのよ? 全部、山岸さんにお任せする訳には行かないわ」

 その言葉に、佐々木が俯くと部屋から出ていく。
 そして――、扉を閉める際に強めの音が室内に響き渡った。

「山岸さん、少し待っていてもらえる?」
「分かりました。車を用意しておきますので旅館入口で待っています」

 コクリと頷くと香苗さんが部屋から出ていく。
 



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