【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

華奢な肩




「広告と労働力を貸してもらいたい」
「ふむ……。広告というのは、マスメディアを使いたいということか?」
「そうなる」
「だが――、それは先ほど……」
「ああ、分かっている。だから――」

 俺は、ポーチの中からミドルポーションの無限精製樽を取り出す。

「それは何だ?」
「これは、貝塚ダンジョンのBOSSを倒した時にDROPしたミドルポーションが無制限に出るアイテムだ」
「何!?」

 夏目の目が変わる。

「そんなモノが存在していたのか?」
「ああ、これを使って佐々木雄三から購入した旅館の温泉にミドルポーションを混ぜて営業する予定だ」
「なるほど……、それなら旅館という分野に絞るなら、それだけでナンバー1になれるだろう……、だが――、本来の目的はそこではないんだろう?」
「まあな」

 俺は肩を竦めながら言葉を返す。

「――で、こちらに求めるのはミドルポーションを混ぜた温泉を認定することか?」
「いや――、心身に不自由な人をモニターとして無料で招待したい。その為の選定を任せたい」
「なるほど……、つまり本来の広告ではなく体験者の生の声を――」
「ああ、ネット上に公開して口コミという形で宣伝をしたいと考えている」
「ふむ……、実体験をした人々が居て信憑性と実績があれば、下手に最初からマスコミを使うよりもいいか」
「いいだろう。政府関係が助成金を入れている老人ホームや障害者支援センターからモニターを見繕う」
「すまないな」
「いや――、ミドルポーションが含まれている温泉ならば近い将来、大きな観光資源になることは請け合いだ。先行投資としても政府が関与する意味合いは大きい。次に
労働力ということだが……」
「労働力は、主に建物や景観の改築工事を得意とする陸上自衛隊の施設科を派遣してもらいたい」
「モニターの対応をするわけではないのか?」
「ああ、来客の対応については、こちらの方ですでに算段をつけている。問題は、彼らが寝泊まりできる場所が欲しいという点だ。数日で作ることは可能か? もちろん、ピーナッツマンとして地形を平坦にしたりすることは手伝おう」
「とりあえず全部、要望を出してくれ。そのあとに出来ることと出来ないことを纏めた方が早いだろう?」

 夏目がそういうと大きくため息をついてくる。



 ――首相官邸を出てから3時間後。

「ようやく見えてきたな」

 視線の先には旅館『捧木』が見える。
 スキル「神眼」で周囲を確認後、何もないことを確認した後、木の枝から道路の上に降りる。
 そして旅館の入り口から入るとカウンター前のラウンジに備え付けられていた椅子に座っていた佐々木が――その瞳を建物の中に入ってきた俺の方へ向けてきた。

「せん……ぱい……?」

 目を大きく見開き俺に駆け寄ってくると抱きついてくる。
 
「先輩! 心配したんですよ! いきなり電話が繋がらなくなって! どこに行っていたんですか?」

 涙声で話しかけてくる後輩に、俺は小さくため息をつきながら頭を撫でる。
 ちょっと所用があって、色々とスマートフォンで検索をしていたら電源が切れただけだ。
 心配をかけたのなら、すまないな……。

「また、お父さんみたく――、いきなり居なくなったらと思ったら……、私――、怖くて……」
「泣いているのか?」

 佐々木の両肩に手を置きながら何と言おうか迷っていると――、佐々木の肩がとても華奢で小さく震えていた。
 まるで――、それは……。

「すまなかったな」
「本当ですよ。私のために無理をしないでください。たしかに旅館は大事ですけど……、私は山岸先輩の方が、もっともっと大事で大切なんですから」
 
  
 
 

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