自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(14)




 割烹旅館『夢庵(ゆめあん)』の建物が、ようやく見えてくる。
 
「ほんっとうに! 車通ってなかったな……」

 溜息交じりに歩きながら旅館の敷地に入り入口を潜ると、ロビーのソファーには佐々木が浴衣姿のまま座っているのが見えた。
 どうやら、佐々木も俺に気が付いたようでスリッパをパタパタと鳴らしながら駆け寄ってくると抱き着いてきた。

「先輩! どこに行っていたのですか? もう、日付が変わっています!」
「ちょっと駅の反対側までな」

 涙声で問い詰めてくる佐々木に、お前は俺の母親かと心の中で突っ込みを入れながら言葉を返す。

「――で、でも! 駅の反対側でも、こんなに時間は掛からないですよね?」
「男には色々とあるんだよ。色々とな」
「…………もしかして、お持ち帰りを?」
「何の話だ。とにかく、あと数時間で鳩羽村に向かうんだから、さっさと部屋に戻るぞ。カウンターで受付をしている旅館の従業員の目もあるからな」
「――で、でも!」

 食い下がってくる佐々木を置いて部屋に戻ろうとすると佐々木が後ろから「待ってください!」と着いてくる。
 それにしても、どうしてこんなにコイツは俺に構おうとするのか。

「佐々木、俺はシャワーを浴びるから先に寝ていて構わないぞ?」

 部屋に戻り佐々木へ伝えたあと、シャワーを浴びてから髪の毛を乾かし浴衣を着てから部屋に戻る。
 室内の照明は、調整されており寝るには丁度いい明るさと言える。
 まぁ、俺は寝る時は真っ暗な方が好みだが――。

「結局は、布団は一つなのか……」

 どうやら待ちつかれたのか、それとも車の移動で疲れたのか知らないが佐々木は寝息を立てて寝ているようだ。
 まぁ、俺と佐々木の間で男女の間違いが起きるはずもないからな。
 さっさと寝るとしよう。

 布団に入り横になると、何とも言えない良い匂いが鼻孔を擽る。
 それは女性の香りだと言う事はすぐに分かったが……。
 俺の中での佐々木は、男だった後輩の佐々木というイメージがあるわけで、いきなり女に戻ったからと言って女性扱いするのは無理がある。

 基本的に佐々木の事は突き放しているはずなのに、どうして俺に好意を示すことが出来るのか理解が出来ない。
 まぁ、佐々木は別にいいか……。
 目を閉じるとすぐに睡魔が襲って――。

「せんぱい……」

 唐突に――。
 横で寝ていたはずの佐々木が俺の耳元に口を寄せてくる。

「お前、寝ていたんじゃないのか?」
「寝ているフリをしていました」
「何のためにだ」

 此奴の意図がまったく読めん。

「先輩、知っていますか?」
「主語が無いから知らないな」
「もう! 先輩は、いつも私に気が無い振りを見せたり、素っ気ない態度で接してきますよね?」
「そうだな」

 良くわかっているじゃないか。
 お前は問題行動ばかり起こしているから距離を置いているんだぞ?
 そもそも、俺が何かに巻き込まれたりする時の大半は佐々木絡みだったりするわけだからな。

「――でも、私……、気が付いたんです」
「何をだ?」
「じつは、先輩は私に襲って欲しいということにです!」
「何がどうしてそういう結論に至ったのか分からんが、お前に襲って欲しいなど一度も思ったことはない。さっさと寝ろ!」
「えー」
「えー、じゃない」
「でもでも! 据え膳食わぬは男の恥って言いますよ? ほら、一応は私……、一時は男でしたけど女ですし! それに、男として数年間生きていましたから、男性の良い部分もきちんと心得ていますから!」
「寝言は良いからさっさと寝ろ」

 まったく――、今度からは部屋を3つ取るとしよう。
 俺の言葉に佐々木は口で「むーっ」と、言いながら体を摺り寄せてくる。

「私、もう我慢できないです……」
「はぁ……、仕方ないな」

 目を潤ませて語り掛けてくる佐々木。
 それを見たら俺も我慢が出来なくなる。
 本当に仕方ない奴だな。

「佐々木、ちょっと膝立ちしてみろ」
「――え? も、もしかして先輩――、グハッ……」

 期待感ある眼差しで俺を見てくる佐々木の腹を殴り昏倒させておく。

「まったく、これで静かに寝られるな」

 佐々木を寝かせたあと――、枕で壁を作り反対側の場所で俺は横になり目を閉じた。
 



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