自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(12)




 牢屋から出されたあと、警察署の中を二人して歩く。
 すると山吹がスーツの内ポケットから何かを取り出し俺に差し出してくる。

「そうでした。山岸さん、これをお渡ししておきます」
「何だ?」

 山吹が渡してきたのは警察手帳であったが、黒い表紙の物とは若干質感が異なる。
 色合いは、茶色。

「警察手帳か?」
「それは、治安維持手帳と言います」
「治安維持手帳?」
「はい。山岸さんは、冒険者というのをご存知かと思います」
「まあな」
「それでは、冒険者として高レベルに達した者が覚える魔法についても知っていますか?」
「佐々木が居るから聞いたことはあるな」
「また、御謙遜を――。山岸さんの力を日本国政府と警察組織は佐々木望なぞ足元にも及ばないほどの力だと言う事を理解しています。あくまでも警察上層部と日本国政府という括りになりますが……」
「やれやれ」

 俺は肩を竦める。

「それは、どこまでの人間が知っていることなんだ?」
「警察関係者ですと管理官以上と言う事ですので100人も知っている人間はいません」
「そうか」
「やはり、知られるのはあまり好ましくないというところですか?」
「そんなところだな」
「さて、話は元に戻りますが高位の冒険者は、ダンジョンの外でも特異の能力――、つまり魔法を使う事が出来るのです。そして、それは日本ダンジョン探索者協会が出来てからしばらくして判明しました。そのため治安の為に、警察組織は暴走するかも知れない冒険者を抑える為に一部の力ある冒険者に鎮圧をお願いしたのです。その冒険者にお渡ししておりますのが……」
「この手帳と言う事か?」
「はい。山岸さんが正義の味方として活動するのでしたら、それが必要になると思いますので」
「山吹」
「なんでしょうか?」

 俺は手帳を山吹に投げ返すと、受け取った山吹は怪訝な表情を俺に向けてくる。

「これは、どういうことでしょうか?」
「山吹、お前が正義のミカタに対してどういう思いを抱いているのか分からない。そして、その事に関して俺にどういう思いを抱いているのか分からない。だがな……、正義って言葉は――」

 二人して警察署から出たところで、俺はため息をつきながら山吹を真正面に見据えながら言葉を呟く。

「正義なんて言葉は、胸の内側に秘めておくくらいがちょうどいいんだよ」

 少なくとも、俺には正義なんて物はない。
 大切な者を守れず、大事な記憶すら欠如していて、何かを得る為に非合法な手段を取り続けてきた俺に正義があるわけなんかない。

 だから正義なんて言葉を俺は受け入れる訳にもいかないし、共感することもない。

 目の前に映った光景……。
 記憶の中にフラッシュバックする妹の最後の記憶。

 ――そして、罪悪感を紛らわすかのように。

 誰かを――。
 身勝手に――。
 衝動的に――。

 助ける俺が正義であるわけがない。

「それでも貴方は自らの力を使って大勢の命を救ったではないですか!」
「それは結果に過ぎない。本当の正義なんてものが存在しているというのなら、それは物語の中の主人公くらいだ。俺は、俺自身を正義だなんて思っていない」

 山吹に言葉を返したあと、その場から俺は立ち去った。




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