自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(8)




 松阪駅周西口周辺をウロウロとする。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れる。
 割烹旅館で夕食を食べた影響で、時間が遅くなり松阪牛を使った牛丼を提供している店は全て営業が終わっている。
 何のために俺は松阪市まで来たのか……。

 明日は、佐々木の実家である旅館に行くことになるというのに……。
 到着してすぐに、「牛丼ください!」 とは社会人としての常識が疑われる可能性がある。
 そう考えてしまうと、佐々木が旅館の手伝いをしている一週間の間は牛丼が食べられないという拷問に近い状況に置かれることになる。

「――無理だ!」

 俺は、思わず松阪駅西口にある観光案内所の目の前――、街灯近くの駐車禁止の柱を一週間も牛丼が食べられないという恐怖から握りつぶす。

「……れ、冷静になれ……。いまは、松阪牛の牛丼よりもチェーン店の牛丼でいい。とりあえず、購入してアイテムボックスに入れておけば問題ない……」

 何度か深呼吸し自分を落ち着かせたあと、松阪駅東口にあるチェーン店『牛野屋』へと向かうが……。

「……何……、……だと?」

 スマートフォンで調べた限りでは、世界的チェーン店である『牛野屋』の松阪支店が存在していたはずだが……、いまは建物の入り口に張り紙が貼られていた。

「一身上の都合により閉店……だ……と!? ――そ、そうだ! たしか西口には――」

 慌てて観光案内所の横に存在している交番へと入る。
 ちょうど警察官の姿もある。

「すいません!」
「どうかしましたか? そんなに急いで」
「大事件だ! やばい! 非常にヤバイ!」
「事件!? 何かあったんですか?」
「牛丼屋が一件も開いていない! さらに牛野屋すら閉店になっている! これは大事件だ! 陰謀の匂いが!」
「落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!」

 あまりの牛丼に対する無関心さに俺は警察官の常識を疑う。
 牛丼が食べられないというのは大事件だというのに、落ち着いてくださいだと?
 
 ――だが、俺も社会人……、いまは無職だが……。

「えっと、それで牛野屋さんでしたっけ?」
「はい! 世界的大企業である牛丼チェーン店の『牛野屋』が閉店するなんておかしくないですか!」
「とりあえず落ち着きましょう。たしか松阪市は、ダンジョンが近くに存在している事もありダンジョンから松阪牛の肉が取れるそうです。その肉を使って新しい産業をすると松阪市の市長が決めたらしくて、そこで外国産の牛の肉を使って営業をしている店舗は必要ない。それは牛丼であっても例外はないと言ったことで、商店街の人間も賛同して経営が難しくなり撤退したそうです」

 さすが地元の警察官。
 地元ネットワークがあるのかも知れないが、そこまで聞かされてようやく俺は――。

「理解したが納得できるかー! 良いですか! 良く聞いてくださいよ!」
「何でしょうか?」
「牛丼で使う肉というのは高級肉を使えば素晴らしい物が出来るとは限らないですよ! 丼というのは丼で完結し丼内で終局する! それが牛丼の在り方なんですよ!」
「はぁ?」
「お分かり頂けていないようですね」

 まったく、これだから素人は困る。
 牛丼の何たるかをきちんと伝えなければ! 一人でも牛丼に関してリスペクトするように仕向けるのが俺の俺たる意味!

「仕方ないですね。そこまで牛丼に興味が無いという事でしたら俺が0からレクチャーしましょう」
「いえ、いいです。もう帰ってください」


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