自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(7)




 Yシャツにジーパンだけの姿である俺は旅館から出たあと、松阪駅方面へと向かう。

「どこにいくんですか?」
「男なら決まっているだろう?」
「――え? ま、まさか……」

 ようやく佐々木も気が付いたらしいな。
 俺が行く場所は松阪駅。
 そして、その反対側に位置する世界最大の牛丼チェーン店である牛野屋だ。
 まずはアイテムボックス内で枯渇している牛丼の補充が何よりも最優先。
 これは世界の真理でありもっとも重要なことだ。

「まってください!」

 佐々木が俺の腕を掴んでくると上目遣いで睨みつけてくるが、心なしか頬が赤く見える。
 まあ、きっと気のせいだろう。

「なんだ?」
「そ、そういう場所は、よくないと思います。――それなら、私が……」

 こいつは何を言っているんだ?
 佐々木が、世界最大の牛丼チェーン店の味を再現した牛丼が出せるなら俺も行くのは諦めるが現実はそうではない。

 そもそも、世界最大の牛丼チェーン店である牛野屋は、パソコンのOSシェア9割を占めるモモクロソフトよりも売り上げがあるというのに。
 それと並ぼうとするなど1億年ほど早い。

「佐々木、お前では俺は満足できない」
「――!? ――そ、そんなことないです! 一生懸命がんばり……マス……」

 どうして途中から片言になるのか。
 まったく、そんなに牛野屋との味の差を見せつけられて絶望したいのか。

「佐々木、無理はしなくていい。たしかに、いまのお前では俺を満足させることは不可能だろう。それに、無理に競り合う必要はない。あと、勢いでやれば大変なことになる。俺は、そういうのは好まない。もっと大切にしてほしい」

 ――そう。
 主に食材を大事にしてほしいのだ。
 今よりも未来が大事。
 いつか佐々木が牛野屋に負けない牛丼を作ってくれることを祈るとしよう。

「……先輩……、そんなに私のことを……」

 何故か知らないが佐々木がえらく感動したあと涙を流している。
 俺、何かしたか?
 一応、フォローはしたはずなんだが……。

「おほん! ――と、とりあえずだな! 俺を満足させられるようになる時が、何時か!来ると俺は信じている! 佐々木! だから精進を怠るな!」

 まぁ、出来れば牛野屋にアルバイトとして勤務して味を盗むような事をしてから牛丼作成にチャレンジして欲しいと俺は願っている。

「わかりました……。そんなに大事に思ってくれているのなら……、男の人だって色々と溜まりますからね。分かりました。先輩、気を付けていってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」

 佐々木は一緒に着いてくるのを断念してくれたのか割烹旅館前で見送ってくれた。
 これで久々に一人牛丼が楽しめるな。




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