自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

蠢く陰謀(3)第三者視点




 日が沈み始め――。
夜の帳が山中の村を包み始めた頃――。
鳩羽村では、多くの若者が新しく建てられたばかりの建造物が立ち並ぶ商店街を練り歩く姿が至るところで見ることが出来た。

もともと5年前までは、鳩羽村は人口1000人ほどの限界集落に近い場所であった。
理由は、何の特産物も存在していなかった事にある。
元々は温泉街であった鳩羽村は、円高の影響をモロに受けたことで外国人観光客を呼び入れる事も出来ず職も限られていた為、若者が働く場所も確保できずにいた。
必然、若者は都会に出ていき返ってくる者は皆無であり、急激な人口限により鳩羽商店街は致命的打撃を受け9割がシャッター街と化した。

それが5年前に、突如――、出現したダンジョンの攻略により大きな利益を出すことが出来るようになり、冒険者たちが移住してきた事で町の様子はすっかり変わる事となる。

現在の鳩羽村の人口は5000人ほど。
すでに、5年前の悲壮な姿は鳩羽村のどこにも存在してはいなかった。

そして――、そんな鳩羽村の商店街の一望を見下ろすことが出来る山の中腹には古びれた屋敷が立ち並んでいる。

「長老」
「どうした?」

 屋敷の庭から、眼下に見える商店街の村明かりを見ていた男に話かけてきたのは40代の白髪の男であった。
 服装から見るに警察官であった。
頭を下げている事から、齢80歳を超える男との力関係が見てとれる。

「佐々木(ささき)望(のぞみ)様が松坂市に入ったと報告がありました」
「岩屋」
「ハッ! 申し訳ありません! 佐々木(ささき)望(のぞむ)様が松坂市に入ったと報告がありました」
「それでよい。それにしても……、あの馬鹿者は何を考えておるのか」
「――と、申されますと?」
「貴様も知っていることだろう? 日本ダンジョン探索者協会を、鳩羽村に誘致する為に、どれだけの根回しが必要だったのかと言うことくらい」
「はい……」
「分かっているならいい。――で? 元の姿に戻った馬鹿者は、どうして鳩羽村に直接戻っては来ないのだ?」
「はい。どうやら――、民間のハイヤーに乗ってきたらしく……、その際に運転手とは別に男と一緒だったようです」
「男?」

 老人は、鯉に餌を上げていた手を止めると、男の方へと向く。

「どういうことだ? あやつには、男に対しての恐怖心を植え付けさせ帰郷させる為に西貝当夜に命じたはずだったが?」
「はい。それが――、神谷(かみや)昇(のぼる)警視からの報告によりますと西貝当夜を失脚させた男というのが――、佐々木望様と同行していた男らしく――」
「ほう……、つまり望を助けたという男か?」
「そうらしいです」
「なるほど……。それは邪魔だな」
「――と、申しますと……」
「本家の佐々木家は代々、見守り様を娶る仕来りがある事は知っているだろう? つまりだな……、もう一度――、男に戻して見守り様を娶らせる為には女では困るのだよ。見守り様は、佐々木家を富ませる為に契約をしたのだ。代々、佐々木家の男子を生贄に捧げろと――」
「ですが、佐々木家には男子も女子も望様以外は……」
「大丈夫だ。しばらく軟禁し女を何人か宛がえばいいのだからな。子が出来れば、あとはどうとでもなる。それよりもだ――、その男……、名は何と言った?」
「これを――」

 岩屋から受け取った紙に目を通していく老人。

「山岸直人 41歳 独身の無職……。こんな平凡な男が西貝当夜を失脚させたというのか? まったく――、西貝も焼きが回ったものだな。写真からも見て分かるが平凡で何の取り得もない一般人ではないか」
「ですが――、神谷警視からの話ですと油断は出来ないと――、少なくとも凄腕のハッカーが背後に居る可能性が高いとのことです」
「ふむ……、だが――、松坂市に入ったのは3人だけなのだろう?」
「はい」
「それなら問題ないだろう。その男の無能さを――、あの馬鹿者にシッカリと見せつけてやればよい」
「――ですが、佐々木望様のレベルは8000を超えています。もし――、佐々木望様が本気で抵抗されましたら――」
「それなら問題ない。丁度、良い薬が入ってな」

 老人は懐から薬瓶を取り出す。

「それは……?」
「これは、一時的に能力を封印する薬だ。冒険者は、ダンジョンから出るとレベル補正の恩恵を受けることが出来ない。つまり、能力――、いまは魔法と言ったか? それを封印さえしてしまえば、ただの一般人に過ぎないのだ」
「――では、それを飲ませたあとに?」
「目の前で、その男とやらを始末してしまえば心が折れるのも時間の問題だろう?」
「ですが……、もし仮に強かった場合には……」
「岩屋、お前は――、此処がどこか分かっていないのか? ここには、多くの冒険者がいるではないか? その中に、佐々木家は何人の人間のパトロンになっていると思っているのだ? レベル300前後の冒険者を10人も用意すればなぶり殺しにすることも用意だろう?」
「――で、ですが……。もしバレたりしたら……」
 
 岩屋の言葉に老人は笑みを深くする。

「気にすることはない。この山岸直人には、家族は居ないと書かれているからな。捜索願を出す家族が居なければ事件にはならないのだよ。それに――、我々の力は野党にまで及んでいる。最悪、マスコミにお金をバラまき忖度させれば全ては無かったことに出来る」

 老人の言葉に、岩屋が顔を青くするが――。

「岩屋、余計な事はしないことだ。貴様にも家族は居るのだろう? まだ、子供が生まれたばかりであったな?」
「……は、はい……」

 それは明らかな脅しであった。
 余計なことをすれば家族を殺すぞ? と、言う――。
 脅しに屈した岩屋が体を震わせている様子を小気味よく観察した老人は口を開く。

「しかし、レベルが上がったからと言って本家が戻ってくるようにと指示しただけでノコノコと帰ってくるなど、やはりあの馬鹿者は愚か者であったな。相手の実力を見誤るなど――、まだまだと言ったところか」

 老人は、山岸直人のプロフィールが書かれた紙を投げ捨てながら高らかに笑った。




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