【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

自問自答(1)




「山岸さん、少し休まれた方がいいと思います」
「――だが……」
「山岸さんも、【海ほたる】と、上落ち村での戦闘で疲れているのですから……、休まれた方がいいかと思いますので」

 有無を言わせない強い口調で藤堂は俺へと話しかけてくる。
 たしかに彼女の言う通り、この一日、二日で相当な問題ごとが起きたことは確かだ。
 
「分かった――、すまないな……」

 藤堂の部屋から出たあと、俺は自分の部屋へと戻る。
 
 ――そして、扉を閉めたあと鍵を掛けてから部屋に入る。
 部屋の中は綺麗に整頓されていた。

 おそらく女性陣が掃除をしてくれたのだろう。
 いや――、たぶん家探しを行った結果、掃除をしたと言ったところか……。
 
「とりあえず、考えを纏めないとな」

 今後の事を踏まえて、俺がどうしたいのか? と言うのを考える必要がある。
 
「風呂でも入るか……」

 1月上旬ということもあり、部屋の中の気温は寒い。
 体を温める意味合いも込めて風呂にでも入るとしよう。

 
 
 ――風呂に入ったあとは、エアコンの暖房により部屋の中は暖かくなっている。
 そしてコタツに足を入れながらアイテムボックスから牛野屋の牛丼を20個ほど出す。

「とりあえず牛丼でも食べながら考えるとしよう」

 考えることにはカロリーが必要だと、偉い人も言っていたからな。
 牛丼を食べながら考える。

 ――まず、俺が仕事を探していた理由だ。
 それは何のために病的なまでに仕事を探していたのか。
 その理由は、恐らくだが――、俺が倒した夜刀神を止める為だと思う。
 夜刀神を倒した瞬間、よく分からない罪悪感と共に――、安堵の気持ちが広がったからだ。

「だが、問題は……」

 どうして、夜刀神を倒したことで――、罪悪感という感情と共に安堵の気持ちを感じたのかということ。

「――ッ!」

 深く考えようとすると、頭に激痛が走り――、記憶や思考に霞が掛かる。
 上落ち村から帰る途中、何度か夜刀神を倒した時に感じた感情を思い出して記憶の糸を手繰り理由に意味を持たせようとしたが無理であった。

「なんでだ!」

 答えを導きだせない――。
 そこには、どうしようもない焦燥感が――、言葉や気持ちでは言い表せない不安と感情が――、胸の内側に広がっていくことを否応なしに理解出来てしまう。
 だからこそ、声を荒げてしまう。

「はぁはぁはぁ……」

 気が付けば呼吸が荒くなっていた。
 理論的に物事を考え精査し不必要な感情や思いを不純物として切り捨てて正しい答えを常に導きだしてきた俺が――、辿り着けない問題。

「――くそっ!」

 額に手を当てながら――、苛立つ思いのまま視線は部屋の隅へと向かう。
 するとパソコンの電源が入っていることに――、今更ながら気が付いた。
 たしか、俺が出かける前に電源は落として出かけたはず。

「どうして……、パソコンの電源が入っているんだ?」

 疑問に思いながらも手はマウスへと延びる。
 
 ――そして、右手でマウスを弄ると画面が表示された。
 その画面は、上落ち村の記事が表示されている。

「藤堂達か……」

 おそらく俺が行方不明になったと言っていたから、行方を調べるためにパソコンの電源を入れて調べたのかも知れないな。
 
「記事の内容は、上落ち村で太陽光発電――、パネルが設置されていた崖が崩れた時の物か……え?」

 思わず目を見開く。
 記事には、上落ち村での生存者名が唯一人書かれていた。
書かれていたが……。

「……ど、どうして――」

 声が震える。
 何故なら……記事に書かれていたのは……。

 上落ち村で唯一確認できた生存者は、山岸鏡花(17)と書かれていたからであった。




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