自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(37)第三者視点




 しばらく唇に手を当て考えこんでいた山岸鏡花は――、ふとある事に気が付く。

「(夜刀神、あんたの存在――、それは人間には分かっているの?)」
「(マスターよ。それは、どういう意味だ? 私が何者であるかなど、人間は理解できぬはずだが……)」

 話が噛み合わない事実に苛立ちを覚えてしまう。

「(そうじゃないの。アンタが、上落ち村付近に居るって事を人間は知っているの?)」
「(どうだろうな? だが、知らないとは完全に否定は出来ないな)」
「(そう、分かったわ)」

 そこで山岸鏡花は一旦会話を切る。
 それと同時に深く溜息をつくと――。

「まず間違いなく、私が契約した夜刀神の事は人間に知られていると言っていい。問題は、その報復が、別の国からの攻撃というのが腑に落ちないのだけれど……」

 そこまで一人呟いたところで、鏡花は口を噤む。
 
「一人いた……。佐々木望、私がお兄ちゃんから離れている間に、お兄ちゃんが攻略したダンジョンの成果を横から奪い取った女。あの女は、人類の中では最強クラスの力を持っている。あの女を殺すためなら、他国が攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。――と、すると攻撃を仕掛けてきたのは……、アメリカ合衆国?」

 そこまで鏡花が考えたところで。

「でも、おかしい……。何故、常世ノ皇ノ王がこちらに干渉してきたの? 天照大御神と対極に位置する最強の虚無の神が干渉してくるなんて普通はありえないのに……」

 親指を噛みながら彼女は思案する。

「夜刀神は、虚ろな神を抹殺するように依頼されたって言っていたけど……、名を失った神を常世ノ皇ノ王が気にかける理由が分からない。それに――、どうして契約者である私の指示を聞かずに結界に近づいてきたのか……」

 疑問はいくつも浮かび上がってくる。
 ――だが、いまは多くを考えている余裕は山岸鏡花には無かった。

「(夜刀神)」
「(どうかしたのか?)」
「(アナタ、まさか常世ノ皇ノ王と通じ合っているんじゃないでしょうね?)」
「(何を考えていたのかと思えば、その程度のことか。通じ合うも何も常世ノ皇ノ王は、国津神の一柱だぞ? 私と同じ国津神なのだから通じ合うも何もないだろう?)」
「(そう……)」

 山岸鏡花は深く溜息をつくと、上空の結界の綻びを見ながら言葉を続ける。

「(――それで、関係者はどの程度始末できたの?)」
「(さてな。500人ほどは殺したが、まだまだ残っている)」
「(500人!? そんなに関係者がいたの?)」
「(マスターは、上落ち村で起きた惨劇に関与していた人間の抹殺を私と契約する際に懇願してきた。――だから、私は関係者も全て殺している。老若男女問わずにな)」
「(――え? それって子供も?)」
「(当たり前だ。何を寝ぼけたことを言っている? 私は、夜刀神だぞ? まさか私の特性も理解せずに契約した訳ではあるまい?)」
「(そうね……)」
「(――ならいい。上落ち村の惨劇を引き起こした人間共は、私が責任を持って処理しておこう。契約が済むまでは、我はマスターの下僕だ。何かあれば言うがいい)」
「(それじゃ、一時的に上落ち村から離れて)」
「(了解した)」

 彼女は、溜息をつきながら上堕神社の方へと視線を向けた。
 視線の先には、兄である山岸直人と外来者である藤堂茜の姿が見て取れた。
 予定よりも早いと、彼女は焦りの表情を浮かべる。

 おそらく結界が破壊された時に発生した振動を地震と勘違いして戻ってきたのだろう。

 ――そう、山岸鏡花は結論づけた。




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