【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(36)第三者視点




 ――山岸直人と、藤堂茜が神堕神社で地震と見紛うほどの衝撃に見舞われていた頃――。

「――な、何!?」

 1階の居間に、佐々木、富田、江原を放置したまま、山岸直人のベッドで横になっていた山岸鏡花は、結界が揺れたことに驚嘆しベッドから立ち上がった。

「地震? この結界内に?」

 何が起きたのかを確認するために、山岸直人の部屋からベランダへ出て辺りを見回す山岸鏡花。

「とくに異常な物は見当たらない? ――でも、此岸と彼岸の間に存在する結界内が外部の影響を受けるとは考え難いのだけれど……」

 鏡花は、そう呟くと視界内に無数のログを表示させる。
 それは、山岸直人が自宅にダンジョンが出来てから視界内に表示されている物と限りなく酷似しているもので――。

「(マスター、聞こえるか?)」

 唐突に、鏡花の視界内チャットログが開き――、文字が描かれていく。

「(聞こえるわ)」
「(それは重畳)」
「(それにしても珍しいわね。夜刀神、貴方から私に話かけてくるなんて――。もう、私と契約した要件は済んだのかしら?)」
「(それは、まだ終わっていない)」
「(それなら、早く私が命じた仕事を完遂しなさい。契約は済んでいるのだから、一体、どれだけの時間を掛ければ気が済むのかしら?)」
「(分かっている。それよりもだ――)」
「(何か他に要件もあるのかしら?)」
「(うむ。常世ノ皇ノ王が、この夜刀神に接触してきた)」
「(虚空が?)」
「(うむ。)」
「(それで何と言ってきたの?)」
「(虚ろな神の抹殺を依頼してきた)」
「(…………あんた、まさか……)」
「(そのまさかだ。今、彼岸と此岸の合間の結界の傍に私はいる)」
「(天津神と国津神は、そのことに関しては知っているの?)」
「(天津神は、気が付いたようだ)」

 夜刀神のログを見て、思わず鏡花は頭を抱える。
 現在、鏡花は天津神に敵対行動を取っており補足されるのはリスクが高いからだ。

「(もしかして……、さっきの地震は天津神からの攻撃だったりするの? 結界の中からは、外の様子が見えないのだけれど……)」
「(どうやら、天津神が放つ天神法の滅却火ではないようだ)」
「(なら、どうして天津神は、こちらに気が付いたの?)」
「(簡単な話だ。どこの国かは知らないが星の外側から巨大な質量――、ダンジョンの鉱物を生成して作った巨大な槍を落としてきている。さらに、高天原の遥か上空から落としてきている事もあり、高天原にも甚大な被害が出ている)」
「(つまり、高天原が原因を探ったら、こちらの結界に気が付いたと?)」
「(おそらくな……)」
「(何て迷惑な……)

 夜刀神のログを見ながら鏡花は、何度か頷きながら上空へと視線を向ける。
 その視線の先には、綻びかけている結界の様子が見て取れた。

 ただ、問題は――、どうして結界の上空に人間世界の――、しかも他国の兵器が落とされるか……、その問題が、どうしても山岸鏡花は理解できずにいた。

「(夜刀神、切り払うことは出来る?)」
「(無理だな。さすがに、私としても切り払うことは難しい。マスターよ、すぐに撤退を進言する。山岸直人の存在の開放と、結界の破棄をせねば結界が破壊されるだけではなくなる。それどころか高天原に掴まれば……)」

 そのログを見て、山岸鏡花が歯ぎしりをした。




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