自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(34)




「教えてもらってもいいですか?」
「そうですね」

 あまり面白い話でもないんだが……。

「神堕神社は、元々は神の座から追われた神々を信仰しているという事になっているんです」
「神の座から追われた?」
「はい」

 俺は頷きながらも親父が話していた内容を反芻するように言葉を紡ぐ。

「神の名前は、人が付けるという事は知っていますか?」
「――はい。それが普通ですよね?」
「そうです」

 同意しつつ。

「天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、皆さんが知っている日本の太陽を司る神として存在しています。そして天照大御神、月読命(ツクヨミ)などの神になると、その知名度は日本の天津神の中でも群を抜きます」
「そうですね」
「ただ名付けられた神というのは、信仰心があるからこそ存在していられるのです。つまり、信仰心が無くなることや名前が消えるという事は、神自体の存在が消えるという事になるわけです」
「はい……」

 藤堂さんは、神妙な表情で頷く。
  
「そして問題は、名を失うこと社を失った神というのは消滅する事になるわけですが、問題は、存在だけが残る場合です。そういった神というのは、名を無くしているわけなので、自らの存在意義を忘れてしまっているのです。その為、神堕神社は古来より名を失う、もしくは社を失った神について穢れが起きないように八百万の神と一柱と言う事で祀っているのです」
「なるほど……、それはいつ頃からなのですか?」
「親父――、現在の神主の話ですと3000年前には、すでにこの地に社があったと聞いていますが……」

 俺は肩を竦める。
 一応、ご神体は、神棟木(かみむなぎ)と言って、木の板に複雑な文字が描かれた物である。解読は困難な文字は、俺が通っている大学の教授すら見たことが無いもので、大学教授の話によると、古代日本で使われていた神代文字の可能性が高いらしい。

 そして、大学で教授と共に放射性炭素年代測定で調べた限りでは、1万年以上前に作られた物だという結果が出たが――。

 いくらなんでも、そんな馬鹿なことはあり得ないという事になった。
一万年前と言ったら縄文時代。
そんな古い時代に、文字があるのはあり得ないからだ。
そんな事もあり昨日、ご神体である神棟木(かみむなぎ)を返そうと思ったのだが……、デスクの中に忘れてきてしまった。
今度、家に戻ったら返すとしよう。

「そうですか……、ずいぶんと由緒正しい神社なのですね」
「由緒正しいかどうかは眉唾ものですが――」

 藤堂さんの言葉に俺は言葉を返す。
 まあ、古臭いことは確かだが――。 

「あれは何ですか?」

 彼女が指さしたのは、一人の人間が天に向けて手を伸ばしている様子の絵。

「あれは、神の力を借りる様子ですね」
「神の力を?」
「はい。山岸家は、元々は祭祀を行っている家系ですので――」

 祭祀と言っても、とっくの昔に形骸化してしまっているが。

「祭祀ですか? どんな事を?」
「一応、踊りなどで名を無くした神の力を身に下ろす顕現・降臨などの儀式ですね」
「山岸さんも、それが出来るのですか?」
「誰も出来ないと思います。そもそも科学の時代に神なんてナンセンスですし、おそらく神秘性を持たせる為に、先人が考えた物だと思いますよ」
「そうなのですか?」
「はい」
「そういえば、この絵の登場人物が持っている木の板などは?」
「ああ――、それは神棟木(かみむなぎ)ですね」
「神棟木(かみむなぎ)?」
「はい、読んで字のごとく名を失った神々が住まう家みたいな物です。彼らの助力を得るために神棟木(かみむなぎ)が使われることがあるそうです。これも、一種の設定みたいな物でしょうね」
「…………そうですか……」

 彼女は、思案顏を見せる。
 そして本殿の方へと視線を向けると――。

「山岸さん。本殿の――、神棟木(かみむなぎ)を見せて貰っても?」
「それは無理です」

 何せ俺の家のデスクの中に入っているのだ。
 無いものを見せろと言われても困る。

「本殿――、ご神体のある場所は神様が住まう場所なので神主ですら特別な事が無い限り中に入ることは許されませんので」
「そうですよね……」
「それでは一旦、家に戻りましょう」

 案内が終わったところで藤堂さんを連れて社を出る。
 階段に差し掛かったところで――。

「地震か?」

 突然、地面が揺れた。
  



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