【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
はふりの器(28)
「貴女に? ……ですか?」
「はい! 佐々木望と言います! 私のことを覚えていませんか?」
身を乗り出すようにして話しかけてくる佐々木さんという女性。
彼女は、真剣な表情で俺の目を見てきながら話しかけてくる。
「どこかでお会いしましたでしょうか?」
どんなに記憶の糸を手繰っても、目の前に座っているような綺麗な女性とは出会った覚えがない。
「――っ!? そ、そうですか……」
落胆した表情で佐々木さんという女性は、首を垂れてしまう。
そんな表情をされると、いくら面識がないと言っても罪悪感を感じてしまうんだが――。
「山岸さん、少し宜しいでしょうか?」
「はい」
「私は、富田と言います。少しお尋ねしたいのですが、山岸さんは普段はこちらに住んでいるのですか?」
「普段ですか?」
「はい」
「いえ、普段は千葉に住んでいますが……」
この男は何が聞きたいんだ?
「なるほど……、それで――、私達の対応をしているのは……」
「一応、山岸家は上落ち村の顔役ですので……」
「そうですか。それでお父様の代行で対応頂いているということでいいのでしょうか?」
「はい、そうなりますね。ですが――、親父が帰ってくるまでは時間がありますので、この村には見るところもありませんから出直してきて頂いた方がいいと思います」
「なるほど……、それで山岸さんは千葉では、どのような御仕事に?」
「いえ、学生をしています」
「なるほどなるほど。どうもありがとうございます。藤堂さん、あとはお願いします」
「わかりました。山岸さん、実はお願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい。私達は数日間、上落ち村で逗留したいのですがご許可を頂けませんか?」
「いや、それは親父が許可することなので……、それに――、この村には宿泊施設はないですよ?」
「それでは、お父様を待たせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「まあ、そのくらいなら――。この居間を利用してください」
「ありがとうございます」
藤堂という女性が頭を下げてくる。
何というか全員、掴みどころの無い話を振って来るように感じられてしまう。
まるで、俺を誰かと勘違いしているように話しかけてくるような感じさせ受けた。
――居間に4人を残したまま、部屋を出る。
「お兄ちゃん!」
台所で、麦茶を飲んでいたところで後ろから妹の鏡花が抱き着いてくる。
「なんだよ」
「あれ? にいに……機嫌悪い?」
「何言っているんだよ」
コップに入れず容器から直接飲みながら答えておく。
「ねえねえ、あの人たち、どうするの?」
「親父が帰ってくるまでは、居間で待っててもらう方向だな。どうせ夕方には帰ってくるだろうし」
「うーん。ねえ? お兄ちゃん。あんまり変な人は家に入れない方がいいと思うの」
「家に入れる入れないも何も無碍に返すのもあれだろ?」
「たしかにそうだけど~」
煮え切らない様子で鏡花が溜息をつく。
「まあ、親父が帰ってくるまで待っていればいいだろ」
俺は飲んでいた麦茶の容器から口を離す。
そして、4人分のコップをテーブルの上に並べる。
「お兄ちゃん!」
「おい! どうして、麦茶の容器を奪い取るんだ?」
「だって、お兄ちゃん。口付けた容器の麦茶をコップに注いで、あの人たちに出そうとしたでしょ?」
「そんなことしねーよ」
「お兄ちゃんはデリカシーが足りないの。私が、対応しておくから――、お兄ちゃんは部屋に戻ってていいからね」
「でもな……」
「ほら! お兄ちゃんテキトーだから、私が対応しておくから――ねっ!」
「はあ――、分かった。任せたぞ」
「うん!」
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