【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。
はふりの器(27)
妹の鏡花に客人を任せ、自宅から神堕神社へと通じる畦道を歩く。
「それにしても鏡花の奴は大丈夫だろうか?」
不安が心の中に一瞬よぎる。
そもそも、俺の妹である鏡花はブラコンで口は悪いが外面はいい。
父親の前でも、外面はいいのだ。
そんな鏡花が、露骨に外から来た人間に嫌な顔をしたのは驚いた。
考えている間に、山の上に作られた神社へと通じる階段前に到着する。
古い時代に作られた神社ということだけあって、石で作られた階段もあちらこちら角が欠けている。
「まあ、俺と妹が手入れしているから綺麗だけどな」
階段を上がっていき神社の鳥居をくぐり境内に足を踏み入れる。
「親父いるかー?」
声だけ空しく響く。
「いないのか?」
親父が境内に居ないとは考えられない。
何せ、「今日は大事な話がある」と、妹が託を受けていたからだ。
境内や社の中を見ていくが親父の姿は見当たらない。
「どこに行ったんだ?」
どこかに行くという置手紙もない。
これでは、連絡のつけようがない。
「仕方ない。親父が戻ってきたら話すのがいいか」
思わず溜息が出てしまう。
理由は、上落ち村の村長を兼ねていた顔役の親父が居ないということは――、外部から来た客の対応は、俺達の仕事になるからだ。
話を聞いたかぎり女性3人組は、俺の事を知っていたようだが俺は彼女達と一度もあったことがない。
「それに、何か目的があるような雰囲気だったんだよな」
考えるが――、やはり彼女達の目的は分からない。
こんな何もない村に、何の用があるのか。
「考えても仕方ないか」
境内を出たあと階段を下りていく。
どちらにせよ、親父が帰ってくるまで客人の相手をしておけばいいだけだからな。
自宅前に到着すると、先ほどの車が家の庭に停めてある。
「親父の車はないな」
やはり、どこかに出かけたのかも知れない。
「いま、戻ったぞ」
玄関の引き戸を開けると、妹が近寄ってくる。
「お兄ちゃん、お帰りなさい!」
「ただいま。鏡花、親父が神社に居なかったんだが、何か知らないか?」
「あ! そういえばお父さんは、町まで食料品の買い物に行くって行ってたよ!」
「お前な、そういうことは早く言えよ」
「忘れちゃうこともあるんだよ! でも、愛しの妹が起こしにいったんだからチャラだよね?」
「いや、全然チャラじゃないし――、別に愛しの妹でもないから」
「ムーッ!」
「膨れても駄目。まったく……」
今日、何度目か分からない溜息が出る。
「それじゃ、今日は! 私が牛野屋で習ってきた牛丼作ってあげるから!」
「お前な、俺が牛丼をそんなに好きじゃないってことくらいは知っているだろ? それに、お前は料理が得意じゃないんだから。
「それよりも、客人は?」
「一応、応接室に通してあるよ」
「そうか。それじゃ、俺から話をしておくからお茶の用意でもしておいてくれ」
「もう出してあるから大丈夫だよ?」
応接室に入る。
ちなみにうちの応接室は畳の部屋で10畳ほどあり、田舎ならではの広さを誇る。
俺が借りているメゾン杵柄よりも広い。
「お待たせしました」
一応、敬語を使いながら応接室に入ると畳の上に胡坐をかきながら座る。
「どうでしたでしょうか?」
藤堂と呼ばれていた女性が話しかけてきた。
「親父は、出かけているようでして話し合いの場を持つのは時間がかかりそうです。日が落ちるくらいまでには帰ってくると思いますが――、この村には宿などはないので……、一度、町まで戻ってから来られた方がよろしいかと」
「そうですか……」
「あの! せんぱ……、山岸さんは、私のことを覚えていませんか?」
先ほど、出会い頭に俺に抱きついてきた女性は、胸元に手を置きながら俺に話しかけてくる。
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