【書籍化作品】自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(22)第三者視点




 ――数千もの切っ先の鋭い氷の槍。
 
 一つの氷の槍の長さは、2メートルほどもあり――、氷の槍の太さも30センチ近い。
 それらが、仮面の男に目がけて飛来する。

「ほう――。理を逸脱した恩恵か――」

 仮面の男は、薄ら笑いと共に腰から刀を抜き放つと男が手にしていた刀に幾何学模様が浮かび上がっていく。

「理を正し、いま――、その存在のあるべき姿へ――」

 横一線に、男が刀を振るう。
 それだけで、佐々木望が放った数千にも及ぶ氷の槍が消滅していく。
 
 そして――、追いかけようとした男の足が止まる。

「ま、まさか……、これは――。ちっ! まったく……、厄介な方角へ逃げ込んでくれたものだ」

 男は刀を腰の鞘に戻しながら上落ち村の方角を睨みつけた。



「全部、迎撃されました……」
「仕方ないのじゃ――。とりあえず、距離を取ることは成功したのじゃ。あとは――、上落ち村の中を通って県道に出ればいいのじゃ」
「そうですね」

 佐々木は、使い魔になっている狂乱の神霊樹の話に頷きながら、サンルーフから車内に戻ると後部座席に座る。

「大丈夫ですか? 佐々木さん」
「大丈夫。それよりも、藤堂さん」
「何でしょうか?」
「あれは一体なんなの?」

 突然、発生した戦いに佐々木や江原、富田は巻き込まれた。
 そして、突然襲ってきた尋常ではないほどの相手から逃げ出すという状況に誰もが疑問を抱き軽いパニックに陥っていた。

「分かりません」

 藤堂には、こう答えるのが精いっぱいであった。
 そうなると自然と視線は、藤堂の頭の上に乗っている狂乱の神霊樹に向けられる。

「ふむ。奴は新神じゃ」
「新神?」
「うむ。正確に言うならば、いまの時代に求められた神と言ったところじゃな」
「ちょっと待って! 話が全然読めないわ」

 佐々木の言葉に江原だけでなく富田も頷く。

「仕方ないのう。それでは簡単に説明するのじゃ――、藤堂がな!」
「私が!?」
「うむ。きちんと教えたじゃろう?」
「分かったわよ……」

 藤堂は、自徳寺で狂乱の神霊樹と話した内容について、必要な部分だけを説明していく。
 山岸が死んだということは伏せて――、藤堂は全てを話す。

「……つまり、狂乱の神霊樹さんは古い神様の狂ったバージョンってことね」
「マスターよ、一応言っておくが、今の我は狂ってはおらぬぞ?」
「う、うん。分かっているから」
「皆さん、正面に霧が突然――」

 富田の焦りを含んだ声に全員の視線がフロントガラス前方に向けられる。
 
「――こんなところに、結界じゃと!?」

 車は、そのまま霧の中に突っ込む。
 そして――、視界はすぐに開ける。

「富田よ。すぐに車を停めるのじゃ」
「――え? は、はい」

 狂乱の神霊樹の言葉に従って、富田は車のブレーキを踏み込む。
 すぐに車は停止。

「これは厄介な事になったのじゃ」
「厄介なこと?」

 佐々木は、車の窓から外を見ながら疑問を口にするが――。

「下を見てみるのじゃ。あれは恐らく――、上落ち村なのじゃ」

 狂乱の神霊樹が指さす方向には、本来ならありえない物が存在していた。
 
 そう――、本来なら、存在しないはずのモノ。

 環境破壊の代名詞とも言える太陽光発電施設の建設で地盤が緩み、広域の崖崩れによって消えた村――、上落ち村が存在していた。


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