自宅にダンジョンが出来た。

なつめ猫

はふりの器(17)第三者視点





 藤堂が頷くのを確認しつつ、住職である神居は湯呑に口をつける。
 そして――。

「よければ話を聞かせてはもらえませんでしょうか?」
「――え?」
「私としては、毎年――、振り込まれているお金に関して、何か事情があるのでしたら伺いたいという気持ちもありましたので……」

 神居は、まっすぐに藤堂の目を見て告げる。
 それを藤堂は若干、迷いながらも――。

「私は、山岸直人さんを知っています」
「知っている? ですが――、貴方はずいぶんとお若いように見えますが……、山岸直人さんが、この世を去られたのは20年前ですよ?」
「いえ、20年前ではなく……、昨日まで彼と一緒に言葉を交わして――、彼の存在を感じていました」
「…………どういうことしょう?」

 少し声のトーンが下がった神居の問いかけに、藤堂は、一瞬――、自分が何か問題のある言葉を発してしまったのではないのか? と考えてしまったが――。

「申し訳ない」

 すぐに、彼――、住職である神居は頭を下げてくる。

「いえ――、何か問題でもあるのですか?」

 藤堂の疑問に、神居は口を開く。

「そもそも彼岸の者である――、山岸直人さんと、現世の――此岸の者である生者が言葉を交わすことはあり得ないことです」
「――ですが!」
「分かっています。それが、現実問題として起きていた。そして――、その者が藤堂さん……、貴女と縁を持っていた。つまり、そういうことですね」
「はい……」
「なるほど……、本来では、絶対にありえないはずの事が起きる。それは、この世の理を外したこと。ただ――」
「ただ?」
「現在、この世界では本来ではありえない問題が起きています」
「ありえないこと……?」
「ダンジョンと呼ばれる物が出来ていることです。そして、それに伴い個人が特殊な力を発現までさせております。それが、この世の理を外してはいないと何故言えますかな?」
「それは……」

 神居は湯呑をお盆の上へと置きながら藤堂へと問答を投げかけるが彼女は答えることができない。
 5年前に出現したダンジョンは、出現した時点で――、それは空想の物ではなく現実的なリアルを備えていたからだ。
 そこに問答する余地など存在していない。
 そして、そのことを誰も疑問には持っていなかった。

「私達、年寄から言わせてもらえば――、いまの世の中は、どこか理が外れた壊れた世界としか思えないのですよ。迷宮に入るだけで人にはレベルが表示される。それは、まるでゲームのようだとは思いませんか?」
「……そう……ですね……」
「さて――、ここからが本題です。貴女が出会った、山岸直人さんと言う方は、本当に――、この世界に存在していた方でしたか?」
「――もちろんです!」
「そうですか……、そこまで言い切られてしまうと私も何も言えませんね」

 神居は、小さく溜息をつくと湯呑を啜る。

「――それで、山岸直人さんは現在消えてしまった――、ということでよろしいですかな?」
「はい。私達を助けるために一人、【海ほたる】に残って――」
「その話なら私もニュースで見ました。そうですか……、つまり人助けをした後に消えたと……」
「はい。でも! 山岸直人さんを覚えている人と覚えていない人がいるんです!」
「――覚えている人と覚えていない人が……いる?」
「はい」

 藤堂の返事に――、神居の眉間に皺が寄る。
 
「それは縁の差かも知れません」
「縁ですか?」
「はい。彼岸の者にとって、此岸の者との関わりは、本来は、とても希薄な物のはずなのです。そのために、彼岸の者の記憶はすぐに消えてしまうのです」





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